第2話 では、聞いて下さい

「そんな、理由で俺は異世界転移を繰り返させられていたのか……」

イスカからの説明を聞いた恒は両腕で頭を抱える。

「申し訳ありません。私達にも詳しい理由は分からないのです。ですが、何千回と繰り返す内に一つだけハッキリとしたのが恒様が生きていることだったのです」

「そりゃどうも。でも、俺が死んだ後の話なんて俺にはどうでもいい話だ。いいから、俺を自由にしてくれ」

恒はこれまで延々と繰り返されてきた異世界転移はもう十分だから、自由にしてくれと懇願するがイスカも恒に異世界転移してくれと懇願する。

「そこをなんとか異世界で……私の管理する世界で生きてもらえませんか?」

「もらえません! 今まで何千と繰り返してきた異世界転移だけど、何一ついいことなんかなかったからな!」

「では、私から恒様に異世界特典をいくつかお渡ししたいと思います。いかがでしょうか?」

「特典?」

イスカから『異世界特典』と言われ少しだけ恒は興味を持つ。

「あら? 興味があります?」

「少しね。それでどんな特典が?」

イスカは恒が乗り気になったと思い、思い付くままのチートスキルを並べていく。

「ちょっと待ってくれ。思い出した。そうだ俺達は異世界転移の時に何かスキルを渡されると聞いたぞ。でも俺はいつも転移者は必ずもらえるっていう『鑑定』のみだった。それも転移者なら誰でももらえるはずの『アイテムボックス』『異世界言語理解』もなく『鑑定』のみだったんだけど。これってどういうことかな?」

「あ……えっと、それは……ですね」

恒の質問にイスカの様子がおかしくなる。

「どういうことなの? 納得のいく説明はしてもらえるんだよね?」

「そう……ですね。誠に申し訳ございませんでした!」

イスカは椅子から降りると、恒に対し綺麗な土下座を決めてみせる。

「俺、言ったよね。俺に対して土下座は意味がないって」

「ぐぬぬ……」

「で、何か言うことは?」

イスカは悔しそうな顔で黙って立ち上がると、椅子に座り直す。

「恒様のユニークスキルはちゃんと用意されていました」

「へぇ~あったんだ。じゃあ、なんで『鑑定』だけだったの?」

恒にユニークスキルは用意されていたのに実際は『鑑定』だけだったのだから、不思議に思った恒がイスカに確認する。

「怒りません?」

「どういうこと?」

「だから、今から正直に話しますけど怒らないって約束してくれます?」

「イヤって言ったら?」

「話しません」

「はぁ?」

「怒られるのが分かっているのに話す馬鹿がどこにいますか!」

「はぁ? お前、何を開き直ってんだよ! いいから、話せよ!」

「だから、怒らないって約束してくれたら話しますよ」

「あぁ~もう分かったよ。怒らないからちゃんと正直に話せよ」

これ以上、怒る怒らないで揉めても何時までも平行線を辿るだけだと察した恒は取り敢えずは怒らないとだけ、約束しイスカに先を促す。

「分かりました。では、話しますね。あのですね……」

イスカが話した内容はこうだった。

まず恒のユニークスキルは『コピペ』と記載されているがスキルの詳細としては『コピー&ペースト』でスキルを対象に操作出来るということだった。

しかし、以前に他の世界で転移者がこのスキルを使って、『異世界ヒャッハー』したことで、関係者は気を利かせたつもりで恒のスキルを不可視にしてしまったそうだ。

また、その時に転移者特典の『アイテムボックス』と『異世界言語理解』も合わせて不可視にしてしまったらしい。しかもそれに気付いたのがつい最近のことで、修正しようにも恒本人が転移先の異世界で一万回目の寿命が尽きる直前だったらしい。

「そういう訳で結果として、恒様のスキルにはどの鑑定装置を使っても転移者特典の『鑑定』のみが表示される結果となってしまったのです」

『ヨヨヨ』という風に嘘泣きで泣き崩れるフリをしながら、イスカが恒の様子を見ると、恒は背もたれに体を預け、顔は遥か上空というか真上を見据えていた。

そして、そんな状態の恒からたった一言だけが発せられる。

「呆れた……」

「はい?」

「聞こえなかった? 『呆れた』って言ったの! 何、その自分勝手なヒューマンエラーは! いや、でも天界の人なら『ヒューマンエラー』とは言わないのかな? あ~もう、結局はその人、個人のせいで俺は一万回も無駄に過ごしたってことだよね」

「私も認めたくはありませんが、そういうことになります」

「それで?」

「はい?」

「だから、それでお終いなの? 俺の一万回に対する謝罪と賠償はそれでお終いなのかって聞いているんだけどさ」

「あ、ですから。今回は異世界転移者特典の三つのスキルの他にも色んなチートスキルをお渡しする用意があります」

「それ、キャンセルでいいからさ、元に戻してくれない?」

「はい?」

「だから、もう異世界はたくさんだから、謝罪するつもりがあるのなら、元の世界に戻してくれって言ってるの。日本のごく普通のモブな高校生として日常を送らせて欲しいって言ってるの!」

「あ~何度も申し上げているようにそれだけは出来ません。すみません」

「え~じゃあ、このまま異世界に連れて行かれて何も出来ない分からない世界で生きて行けと……そう言うの?」

「ですから、そうならないように、ここに用意したチートスキルを好きなだけお選び下さい」

一万回も無駄な異世界転移をさせられた恒に対し、形だけの謝罪はあったが、それに対する賠償らしいことはない。だから、地球に日本に戻して欲しいと言えば、それは出来ないと突っぱねられる。

そして、イスカからの提案と言うのが山盛りのチートスキルを贈呈するということらしい。

「ダメだよね」

「はい?」

「そんな、チートスキルを山盛り持っていたら、すぐに捕獲されてどっかのお偉いさんに飼い殺しだよね」

「いえ、そんなことは……ないとも言えませんね」

「でしょ。だから、そんなのはいいからさぁ、戻してよ」

「ですが、そうなると私達の世界が衰退し、果てには壊滅するのでそれにはお答えすることが出来ません」

「でも、それって俺が死んだ後の話でしょ。なら俺には関係ない話じゃない」

「そうですか。では、次は一万と二回目の異世界転移の時にお会いすることになりますね」

「なにそれ。俺と、この世界の因果関係が分かるまでは俺はずっと異世界転移を繰り返すってことなの?」

「まあ、端的に言えばそうなりますね」

「イヤにならない?」

「私は女神ですよ。一応、これでも神として存在しているので私にとっては恒様の一生など一秒にも満たない感覚です。なので、さほど苦にはなりません」

「くっ……神のクセに随分と汚いやり口だな」

「恒様一人と世界の運命なら、世界を選ぶのも当然のことと思えますが」

「俺達の国では人の命は地球より重いって教えられて来たんだけどな」

「残念ながら、ここは異世界なので日本の教えはほとんど役に立ちません」

「くそっ! 分かったよ。受け入れるよ」

スキルも何もいらないからと、もう一度元の世界に戻して欲しいとお願いすると、イスカからは『一万と二回目の異世界転移で会いましょう』と言われた恒は、ここで何を言っても終わらないことを悟り、異世界転移を受け入れる。

「分かってくれましたか! では早速「待て!」……はい? まだ何か。気が変わらない内に手続きを済ませたいのですが」

「さっき、言ってた特典の話だ」

「大丈夫ですよ。一応、確認してみましたが、異世界転移者の三つのスキルの他に恒様のユニークスキルも可視化されてましたから」

「そうじゃない。チートスキルの方だ」

「やはり、『異世界ヒャッハー』したくなりましたか?」

「違う! くれるのなら貰うだけだ。それとスキルは不可視でも使えるんだよな?」

「ええ、ちゃんと使えますよ」

「なら、俺にだけ見えて、他の奴からは見えなくすることは出来るのか?」

「ああ、それなら不可視のままでもスキル保有者には見えますよ。なんなら、この場で『ステータス』と唱えれば恒様にも見えますので、試して下さい。あと、お望みのチートスキルも入れときましたのでご確認下さい」

イスカに試すように言われた恒が恐る恐る『ステータス』と呟くと恒の視界いっぱいに保有スキルの一覧が並べられる。

恒の視界いっぱいに広がっているスキル一覧だが、イスカは本当に現存するスキルを全て恒に持たせたようで、恒の視界ではスキル一覧が勝手にスクロールされている。

「一体、いくつあるんだか」

「あ、それと転移先では、ちゃんと恒様のサポートを付けますからご安心を。では、よい人生を」

イスカがそう言うと恒の視界が暗転し、足下がなくなったような浮遊感に襲われる。

「アイツ、いつか泣かす!」

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