第20話 宣戦布告と、ベルベルのデータ

Side:スパロ

 宣戦布告された。

 もちろん、ゲールにだ。

 貴族同士の紛争扱いになる。

 ルールも決められている。


 名乗り合って1対1で対決する。

 命までは取らない。

 不慮の事故はあるみたいだが、負けそうになったら大概は降参する。


 その対決を飽きるまで繰り返す。

 戦いがエキサイトすると、全軍激突みたいになる事もあるらしいが、滅多にない。

 そうなった場合は大抵両軍が国軍に蹂躙されて終わり。

 両方にお咎めがある。


 問題は、こちらに兵士が一人もいない事だ。

 警備の冒険者はあてにできない。

 紛争には参加できない決まりだ。

 もっとも一時的にギルドを脱退して、紛争が終わったら再登録する手はあるけど、俺の所の冒険者はそこまでしてくれないと思う。


「ベルベル、あっちは紛争で精霊の畑を狙ってくるだろうね」

「聖女様に騎士様をお借りしたらどう?」

「関わらないんじゃないかな。あっちが悪魔認定されれば別だけど。審判役を頼むぐらいが限界だと思うな」


「じゃあ、ナノにお願いしてみたら」

『おいら、ベルベルの騎士になるよ』

「助けてくれるみたい」


『ベルベルの分身が欲しい。もちろん分身とはお話したりするだけだ。触ったりもしない』

「前に言ってたスキャンをしたいらしい。話し相手が欲しいんだって」

「それぐらいなら喜んで」


 具体的にナノにどう助けてもらおう。

 ナノが戦うってわけにはいかないな。

 そうだ。

 俺がゴーレム使いという事にして、ナノにゴーレムを操ってもらおう。

 それならオッケーだ。


 畑の前にベルベルを連れて行く。


『スキャン完了』

「終わったって」

「何にも感じなかった」

「聖女様もそう言ってた」


 聖女様が女官を連れて畑にきた。


「聞きました。紛争になるそうですね」

「聖女様には審判をお頼みしたいのですが」

「分かりました。警護の騎士の一人に審判をやらせましょう。ところで、分身は元気にやっているでしょうか」

『はいよ』


 もう一人の聖女様が空中に現れて、微かに微笑んでいる。

 だけど、相変わらず人形みたいだ。


「分身になるとみなあのようになるのですが。悩みも何も無いように見受けられます」

「ナノ、ベルベルの分身も出せる?」


『ほい』


 ベルベルの分身もそっくりなんだけど、人間じゃないみたいだ。


「ほわー」


 ベルベルが自分の分身に触る。

 ベルベルの手は分身を突き抜けた。


「分身は現身を持たないのですね。食べる事も飢える事もないのですか」

『まあそうだね』


「そうみたいですね」

「天国のような暮らしなのですね」


「俺には牢獄に思える」

「何か言いましたか?」

「いいえ。ただ、楽しみも無いんじゃないかなと、生きていればこそだと思います」


『まあ間違っちゃいないな。老いもないけど、楽しみは少ない』

「老いもないそうです」

「それは、なんというか。行ってみたいですね」

『受け入れの準備を整えておくよ』


 紛争が終わったら、俺も精霊の世界は行ってみたい。

 どんな所なんだろうか。


Side:ハイチック8000

 やった、ベルベルのデータを手に入れた。

 エッチの許可は無しだけれど。


 それよりも紛争だ。


【法律的には紛争に加担するのは問題ないのか?】

【ルール的にはスポーツの範疇です】


 まあ、そうだな。

 参ったすれば終わりだ。


【ゴーレムで参加するのはいいけれど、どこまでやって良いのかな】

【肉弾戦の範疇なら構いません】


 ロボットに勝てる奴はいないだろうな。

 遠距離戦が少し難だけど。

 プラズマを当てられたぐらいではびくともしないから、魔法にも大丈夫だろう。


 なぬっ、精霊の世界に来たいとな。


【VR空間に招待、出来る?】

【ゲーム程度でしたら構いません。睡眠学習などの技術供与は制約されます】


 レストランを作るべきだろうな。

 それとブティックと宝石店。

 もてなしはこれぐらいで良いだろう。


 スパロ用のもてなしなんか知らん。

 男をもてなす趣味はない。


 スパロが言っていた。

 俺が牢獄に囚われていると。

 あながち間違ってはいないな。


 だがそれがどうした。

 どんなに頑張っても生命体にはなれない。

 なれるとしたら有機アンドロイドぐらいまでだ。


 待てよ。

 この世界には未知の粒子魔力がある。

 何とか頑張れば肉体を持てるんじゃないだろうか。

 帰れないとなったら考えてみよう。

 老いの無い身体だからな。

 時間ならたっぷりある。

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