オレとタヌキの花嫁奪還作戦!!
荒月アラン
プロローグ 最後の夏祭り
七月下旬。オレ、市村樹(いつき)にとって、小学校生活最後の夏休みが始まった。そしてこの日はちょうど、年に一度の夏祭りでもある。
会場は、小学校の近くにある神社。たこ焼き、やきそば、りんご飴、金魚つりに、輪投げと、おなじみの店がずらりと並ぶ。いつも見慣れている場所が、この日は大変身だ。
そこに町の人たちが奏でる祭ばやしも加わわれば、雰囲気はもっと盛り上げてくれる。特にウチの校長先生が叩く和太鼓が凄い。力強いリズムに合わせて、心も体もわくわく弾みそうだ。
だけど、オレは今、それどころじゃない。和太鼓に負けないくらいに激しく、心臓が暴れ回っていた。
この太鼓の音って、本当はオレの心臓の音が外に漏れてるんじゃね?なんて、バカみたいなことを考えていたら、後ろを歩いていた幼なじみ、二宮夏希(なつき)が、歩くペースを速めて追いついてきた。
「いっちゃん、顔色悪いよ? 具合悪いの?」
心配そうにのぞきこんできた顔がものすごく近くて、オレは思わず後ろに退がる。
「な、何でもねぇよ! それより、ほら、見えてきた」
慌てているのをごまかそうと、オレは目的の場所を大袈裟に指さした。
オレたちが向かっていたのは神社の本殿の裏側だ。そこには小さな祠がある。手前に建つ低めの赤い鳥居と、二体のお稲荷さんがオレたちを迎える。
実はここ、町ではちょっと有名なパワースポットだったりする。なんでもここで告白したら上手くいくとかいかないとか。いつもなら、そういうモンは信じないけれど、今回だけは頼らせてもらうことにしたんだ。
祭り会場になってる表側と違って、祠の周りには今誰もいない。提灯の灯りに照らされて、お稲荷さんが不気味に佇んでいる。それでも祭りの賑わいだけはしっかりと届いている。あんまり静かだともっと緊張しそうだから、そこは少しホッとした。
「このお稲荷さまも、今日で見納めかー」
お稲荷さんを眺めながら、夏希はぽつりとつぶやいた。いつもは明るくて元気なヤツなのに、声も横顔も寂しそうに沈んでいる。
「でさ、こんなところに連れてきて、どうしたの?」
夏希の目がお稲荷さんからオレに向けられる。気のせいか、ちょっとだけ表情が硬い気がする。さすがに夏希も気づいてるのかな?
オレの心臓がまた騒ぎ出して、体温も上がっていく。やっぱりこの緊張からは逃げられないみたいだ。だけど、ここまで来たからには、もう後には退けない!
「オレ……、お前に言わなきゃいけないことがあるんだ……」
夏希の目をしっかりと見て、オレは覚悟を決めた。
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