第一話

 荷造りを済ませ、着いた先は山奥での生活。

 そこが彼女に元貴族として最後に与えられたものであった。まさか卒業後も貴族用の学生服を着ることになろうとは……。靴も黒色の学生靴のままであった。


 (もう自分じゃどうすることも出来ない……)


 さっと花が散る。自分の人生を表現しているかのようだ。アネットの肩にも花びらが載った。


 人形しか自分の周りには居なかった。追放→餓死が目に見えていた。家もあばら家であった。普通は祝福すべき季節なのだが。


 (ん……人形?)


 そう、人形。自分は卒業研究で人形に魔導石を組み込んで人形を労働にするという研究をしたのではなかったのか。図書館で偶然見つけたあの本を元に。『ラジエルの王国』という本を元に。


 でもうまく起動しなかった。


 なぜなんだろう。何が足りなかったんだろう。


 『ラジエルの王国』にはページが一部欠けていた。それは起動命令ではないのか。


 試しに起動命令を自分流に付け足して魔導石が組み込まれた人形に呪文を唱えた。


 すると……。


 なんと……。


 動くではないか!!


 人形はしゃべることはできない。ジェスチャーが精いっぱいだった。


 最後の命令文が必要だった。この子はどんな役割にするのかということである。


 家事補助ということばを加えた呪文を唱えた。


 するとまるで奉仕人のように了解しましたとばかりに頭を下げて動き出す。


 「やった!」


 絶望から希望が見えた。


 決して人形と生活してたことが無駄じゃなかったのだ。


 森を開拓し、農地を作り家も建て直せばどうにか私、生き残ることが出来る!!


 魔法石も買い足すことが出来る!!


 アネットは人形に次々命を吹き込んだ。


 森の開拓用に一体、農業用に二体、そしてさきほど命を吹き込んだ奉仕用に一体……。


 自分のトランクに入ってた四体の人形すべてに吹き込んだ。


 もちろん過労させてはいけない。もう人形であって人形ではないのだ。


 「出来たわ、私の研究成果」


 そして、もうひとつしなければならないこともあった。


 人形を増やす事である。


 平民に戻ったとはいえ、これは事実上の貴族生活に戻るチャンスでもあるのだ。しかし人形を増やすには布や綿などが必要であった。それは街で買い足さないといけなかった。


 「あ……」


 それは穴だった。天井に穴が開いているのだった。


 (やる事多そうね)


 アネットは初日……事実上の寒空で寝る事となった。

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