File0-1 神様が降りた朝
私の一日は早い。太陽が昇るよりもさらに前……本当はこの表現は間違っているけど、世界が暗闇に包まれている時間に、私は起きて支度をする。
洗面所へ行き寝癖を直す。少し長い茶髪を綺麗に整えた後、左右で結ぶ。軽く顔を洗い、私はあらかじめ玄関に置いておいたポーチを持って外へ駆け出した。
上空には黒い霧がたちこめていて、もうずっとこの調子だ。晴れは訪れず、作物は枯れ、魔族からの配給に頼っている。食事は量はあるもののおいしくない。
週に一度、夜中に私は町はずれの小さな教会跡に向かう。数年前まではこの町の象徴であった教会も、魔族との戦争により廃れ、神を信仰する者はいなくなった。……私を除いて。
こんな腐った世の中だけど、私は未だに信じている。この世界から人間の神に成り代わった魔王を取り除いてくれる、真の神様の存在を。早朝よりも早い時間に向かうのは、誰かに見られたくないから。まだあの教会に向かっているなどと町の人に知られれば、きっと大変な目に遭う。
教会に入ったとき、私は違和感を感じた。言葉では形容できないが、これはまるで……。
「だれか、いるの?」
思考が纏まるよりも早く、私は虚空に声をかけた。誰かの気配を感じたのだ。そしてそれは普通の人間ではない。世界の敵、所謂魔族と呼ぶものである可能性もあった。むしろこの廃れた教会という情景には、魔族の方が似合う。……もし魔族であった場合、どうしよう。
『……あなたの願いは何ですか?』
ふと、教会を響かせるほどの澄んだ女性の声が聞こえた。私は周囲を見るが、周りには誰もいない。相手は魔族ではなさそうだ。
「誰……? 誰なの?」
返事は無い。まるでこちらの言葉を待っているかのように。
「私……魔王を倒したい。その為の力が欲しい。こんな願いでも、聞いてくれるのかな」
願いを、口にした。
『力があれば成せるという事でもないでしょう。』
「でも、力が無いと何もできなかった」
『誰かに任せる事もできます。』
「誰も何もしないの。誰かがやらなきゃいけないの! だから!」
『何故、そこまで執着するのです?』
「……私は、こんな世界が……誰もが諦めてる世界が正しいなんて思いたくない」
『……荒廃した世界で、貴女だけがまだ諦めていない。いいでしょう。あなたの願いを聞いてあげます。』
教会に、何重にも連なる黒い雲を越えて弱々しい光が差し込んだ。朝がやってきたのだ。それと同時に、教会の二階部分から一人の女性が飛び降りてきた。長い金髪と黒い服。
「……神様?」
私が質問すると、黒衣の彼女は答えた。
「いいえ。私は神様じゃないわ」
彼女は私の目をじっと見つめて、私の頬に触れた。
「うん。悪くないわね」
一人で納得してしまっている。
「アディ、せめて名乗ったらどうだ」
突然、少女の後ろから声がした。私が振り向くとそこには二メートルにも届きそうな痩せ気味の黒衣の男が立っていた。私はそれを一瞬魔族と見間違えたが、よく見るとちゃんと人間の形をしている。
「そうね、初めまして。私たちは救済代行屋。私がアディで、彼はアノン。よろしくね」
――これが、奇妙な二人組との奇怪な出会いで、今日が私の人生を変えた日だった。
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