カワりたい

くもまつあめ

カワりたい

 ・・・今日の夕食は何にしよう。

もう四時になってしまった。

娘を保育園からやっとの思いで連れて帰ってきて、ほっと一息つく暇もなく次々と家事がやってくる。

娘はテレビで録画したアニメを見ながらお菓子を食べている。

私はため息を一つついて、散らかった居間のソファにドスっと腰を下ろす。

(いいなぁ、ゆう君のママはおばあちゃんが保育園の送迎してくれて・・・)

スマホで献立を眺めながら、ぼんやりとお迎えの時を思い出す。

いつも眺めている”節約簡単献立サイト~楽チン!~”では、安くて簡単にできる投稿型のレシピサイトだ。ここには毎日のようにお世話になっている。

(冷蔵庫に何があったかなぁ・・・)

思い出すのも面倒くさい。どうせ今日もいつもの食材しか入っていないのに、”何があるかなぁ”なんてバカみたいだと我ながら思う。

(いいなぁ、ありさちゃんママは旦那さんが社長さんだから、きっとこんな日はデリバリーとかしちゃうんだろうなぁ・・・)

スマホ画面をスクロールしながら、自分にできそうな献立を探す。

よさそうなレシピを見つけてクリックすると、レシピが表示される。

(これなんか簡単そう・・・)

そう思ってレシピを開くと、下ごしらえが思った以上に面倒くさい。

はぁ・・・・。

ため息をついて、別のレシピを探そうとすると、娘が退屈したようで

「ママーあそぼー!」とニコニコしながら飛びついてくる。

「えー!ママ、晩御飯の支度しないといけないから遊べないよー」

娘の頭をポンポンとしながら答える。

「ばんごはんのしたくしてないよー。ママスマホしてるもんー」

「晩御飯のしらべものしてたんだよー」

「えーあとでいいよーあそぼうよー、はいママあかちゃんね!

わたしがおかあさんね!」

こちらの反論をさせず、うさぎのぬいぐるみを渡してくる。

ピンクのうさぎは、くたびれていてヨレヨレだ。

「はいはい・・・十五分だけね?」

「おっけー!」

わかったんだか、わかってないんだか、そういって小さな家族ごっこが始まる。

(いいなぁ・・・さなちゃんのおうちは、ママが遊ばなくても姉妹がいっぱいだから遊び相手がたくさんいるんだろうなぁ・・・。)

「ほら、うさちゃん、ぼーっとしないでご飯食べなさい!」

娘がプンプンと怒る。

「はーい、おかあさん、ゴメンナサーい」

うさぎの頭をペコっと下げてごめんなさいをする。

「あやまらないでいいから、早く食べちゃって!おかあさんはいそがしいの。

まったく、もー!」

怒り方が私にそっくりで、なんとも言えない気持ちになる。

私はこんな風にしてるんだなぁ。

あっという間に十五分がたち、本当に夕飯の支度をしないと間に合わなくなってきた。

「さ、ママ晩御飯の支度するね?」

「やだー!もっとあそびたいー!」

娘がぐずると、イライラで思わずカッとする。

「十五分って言ったでしょ!!時間を守りなさい!」

「う・・・うわーん!!」

娘が泣き出すと、私はそれを放っておいて夕飯の支度にとりかかる。

うわーんうわーん

娘は泣き止まない。

それを無視して冷蔵庫からしなびた人参を取り出すと皮を剥く。

わーんわーん

イライラしながら、皮引きで人参を剥く。

シュルシュル

(いいなぁ・・・やまとくんのママはのんびりしてるから、私みたいに風に怒ったりしないんだろうな)

シュルシュルシュルシュル・・・


(みんないいなぁ・・・・お金があって、やさしくて、毎日たのしそうで・・・・楽出来て・・・)


わーんわーん

(まだ泣いてる、他の子はいいなぁ、みんないい子なんだろうなぁ・・・)


いいなぁいいなぁ


そう思いながら皮を剥く。

どこまでむけばいいんだっけ。


シュルシュル


すると人参の皮がヘビみたにヒョロヒョロ起き上がって私にまとわりつく。

びっくりする気力もなくて、お構いなしに人参を剥く。


(いいなぁいいなぁ、私もかわりたいなぁ、お金持ちで、やさしく、美人で、余裕があって・・・)


しゅるしゅる


人参の皮はどんどん増えて、私にどんどん巻き付く。

皮はとうとう私の全身を包み込んでしまう。


娘の声がする。

「わーん、ママー!!!」


娘が私にまとわりついた皮を必死にはがす。

やめてやめて


娘が必死に私の皮をはがすと、剥き終わった私の姿をみてもっと泣く。

「わーん、ママがかわっちゃったー!かわっちゃったー」

どうやら、私はかわったらしい。


なんだかハレバレした気分で私はのこった身体の皮をハラハラと払うと、

「ママ、とってもよくなったでしょ?あなたもいい子にかわりましょ。ね?」


私はにっこり微笑んで、娘にテーブルに乗っていたみかんを渡す。


むすめはブルブル震えながら首をふる。

「わたし、かわりたくない、ママ、かわらないで」

そういって、みかんを投げつける。


私はかわろうとしない娘を憐れんで、みかんを拾いにいく。

全くイライラしない。


わたしは、かわったのだ


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カワりたい くもまつあめ @amef13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ