沼堕ちプリンス~俺を選んでよ~
かのん
第1話 彼と猫。
「今日、サークルの飲み会行く?」
「行くよ~だって、気になってる先輩来るし」
「ねぇ、今日バイト代わって~」
大学生活を満喫している人たちの声が聞こえる中
私は、今日も安定のひとりだ。
大学に通って1年経過したけど
いまだに友達がひとりもできない。
サークルは天体サークルに入ったけど
ほとんど活動していない。
バイトは、居酒屋、家庭教師、ガソリンスタンド
いかにも大学生がしそうなバイトは経験したけど
全部クビになった。
だって、私は鈍くさくて
人と話すのが苦手だから。
自分の性格をなんとか変えたくて
バイトはクビになってしまっても
次のバイトを見つけて、仕事をしている。
今は清掃業の仕事だ。
清掃中は人と話すことがないし
綺麗になったあとの達成感がいい。
私には、この仕事が合っているって思う。
ただ、鈍くさいから
時間がかかってしまうのが難点だけど。
今日は清掃のアルバイトがないし
お父さんもお母さんも今日は仕事だから
今日は晩御飯を作っておこう。
ハンバーグがいいかな、オムライスがいいかな
やっぱりオムライスにしようかな――
「あぶねぇだろ!!!」
「ごめんなさい!」
車の急ブレーキの音と男の人の怒号の声に驚いて
謝罪の言葉がすんなりと出た。
私がぼーっと歩いているからだ。
だけど、自分は歩道に立っていて
車は近くにいない。
隣の道路を見ると、子ねこがうずくまっていて
車が何台か立ち往生していた。
そっか、私じゃなくて
ねこちゃんに言ったのか。
そう思った瞬間、体が動いた。
ここの道路は三車線で交通量が多い。
横断歩道もないところ横断するのは
本当は怖いけど、頭で考えるより体が動いていた。
「もう、大丈夫だからね」
でも、私は考えが甘かった。
車は立ち止ったいたけど
バイクがすり抜けて私に向かってきたのだ。
「危ない!!」
ひかれると思った瞬間
腕を引っ張られて、男の人に覆いかぶさってしまった。
「いててっ……」
「ごめんなさい!大丈夫でしたか?」
「僕より、君と子ねこは?」
「大丈夫です」
男はライダースーツを身にまとい
フルフェイスのヘルメットをかぶっていて
近くには大きなバイクがおいてあった。
「助けてくれて、ありがとう」
「え?」
「その子ねこ、助けに行こうか迷ってたら、君が一直線に助けに行って…よかったな、お前。いい人に助けてもらって」
がっちりとした体型の人だが、
子ねこにそっと触れて撫でるしぐさや
話しかける声はとても優しくて
顔は見えなくても、いい人なのが伝わってきた。
「でも、私、家で飼えないんです。」
「え?」
「時々帰ってくる兄が猫アレルギーなので」
「……じゃあ、僕が飼うよ」
「本当ですか?ありがとうございます!よかったね、子ねこちゃん、素敵な飼い主さん見つかって」
「でも、この子、一週間ぐらいは小まめに面倒を見たほうがいいよね、きっと」
「そうですね…かなり小さいし、血も出てるから怪我もしてるかもしれません」
「飼いたいけど、ちょっと一時家に帰れないかもしれない」
「その間ぐらいなら、私面倒みます」
「じゃあ、僕の家に子ねこを置いておくから、面倒をみてくれる?」
「いいんですか?」
「うん、僕は家にいないから、全然いいよ。猫アレルギーのお兄さんのためにもね」
「ありがとうございます!」
「ゴールデンウィークだけど、予定は?」
「ないです、全然!ぼっちなので!」
「それならよかった」
ぼっちだと言ったら引かれると思ったけど
よかったと言ってもらえて
私を受け入れてくれている感じがした。
私は、素直に嬉しかった。
彼が教えてくれた動物病院に私は歩いて連れて行き
彼はその間、子ねこのご飯などを買ってくれた。
病院で診察を終えると、なぜかお金は請求されなかった。
「払ってもらってますので」その言葉がひっかかりつつも
手の中でぐっすりと寝ている子ねこが可愛くて
早くお家に連れて帰りたくて、彼に言われた場所に合流した。
鍵は預かっていたので、先に部屋に入ることにした。
外観も内観も古びたアパートで
階段をあがると、カンカンと音が響いた。
手すりは錆びているけど、この感じ私は嫌いじゃない。
今まで、たくさんの人がこの手すりを使ったのかなとか
そういうのを考えるのが、私は好きだから。
「お邪魔します」
誰もいないと分かっていながらも
礼儀として挨拶をしてみた。
6畳一間の部屋で、大きな家具は小さい冷蔵庫、電子レンジと布団しかない。
物がないからなのか、部屋は片付いていて
ゴミもきちんとまとめられている。
「お待たせ、何もなくて驚いたでしょ」
「いえ、ただ男の人の部屋って、勝手なイメージですけど、もっと散らかっていると思ってたので」
「あまりごちゃごちゃしたのが好きじゃなくて」
「男の人の部屋というか……人の家にお邪魔したことがないので、すごく緊張しています」
「いや、でも、友達の家とかいかない?」
「私、鈍くさくて……イライラさせちゃうんです、相手を。だから友達ができなくて」
「ふ~ん。僕は、君のことを鈍くさいなんて思わないな」
「え?」
「それいったら、僕のほうが鈍くさいよ。だって、あんなに一直線に、助けに行っていたし」
「……この子、私みたいだなって思って」
「子ねこが君に?」
「どうすればいいのか分からなくて、ウロウロするしかできなくて…でも自分なりにどうにかしたいのにできない感じが似ていて」
「たしかに、今まではそうだったかもしれない。だけど――」
「だけど?」
「君が今まで生きてきた世界以外にも世界はあるんだよ」
「別の…世界?」
「子ねこにとっては、君が、別の世界に連れ出したんだよ」
彼がそういって、右手では私の頭を、左手では子ねこの頭を撫でてくれて、涙が止まらなくなった。
「ごめんなさいっ……」
「ごめん!僕なんか失礼なことを」
「違います!逆です!嬉しくて…嬉し涙です」
「あの…質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「その…ヘルメット外さないんですか?」
実は、彼は部屋に帰って来てからも
ヘルメットを外さずに私と話をしていたのだ。
普通に外すだろうと思っていたけど
あまりにも外さないことに、さすがに違和感を感じた。
「えっと…これは顔に、傷があって、人前で見せたくないというか。きっと君は気にしないんだろうけど、ちょっと」
「そうなんですね。ただ呼吸しずらいんじゃないかなって思って」
「呼吸は大丈夫なんだけど、こんなん怖いよねwじゃあ、マスクから、あっち向いててもらってもいい?」
「分かりました、いいですよ」
後ろを向くとヘルメットを外す音が聞こえて
頭を振って髪の毛がぶつかる音も聞こえてきた。
「お待たせ」
「え!あ、ごめんなさい、驚いちゃって」
振り向いたら、マスク姿だけでなく
黒いサングラスもしていて
怪しさ満点の顔になっていた。
「サングラスはどうして?」
「えっと…目にも傷があって」
「なるほど…あ、子ねこちゃん起きたみたいです」
「そういえば名前」
「そうですね、名前決めてないですね」
「それもだけど、僕たちお互いの名前、聞いてなかったよね?」
「そういえば、そうですねw私の名前は凛です。大学2年です」
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