第26話
遊園地までのバスに揺られながら、俺はスマートフォンを触る。
『ごめん、ヤヤ子と連絡取れなかった』
『そか、了解。橋下は来てよね』
『うん』
という涼葉とのトークから、ヤヤ子とのトーク画面に変える。
ここ一週間送り続けた俺からのメッセージがずらりと並んでいるけれど、既読すらついていない。
学校で話しかけても無視されるか逃げられるか。
強引に詰めても良かったのだけれど、それをすれば本当に手の届かないところまで逃げられる気がして出来なかった。
そうして何もできないまま、時間は過ぎたけれど、ただ無為に過ごしたわけじゃない。
俺の中でヤヤ子との関係をどうすべきかの答えは出していた。
『もうすぐ、テーマパーク前に到着いたします』
バスのアナウンスが鳴って準備をする。
完全にバスが止まると、俺はバスから降りた。
空は青く、憎いくらいにいい天気。夏に差し掛かった季節の太陽の日差しが熱い。
「おっ、来たね。橋下」
「橋下おそーい」
集合時間前にも関わらず、遊園地のゲート側には、猿渡と涼葉が既にいた。
「一応、時間前なんだけど。それに、まだ2人しかいないじゃん」
今日は猿渡グループ、プラス俺とヤヤ子の予定だったので、俺だけが遅れているわけではない。というかそもそも遅れてはいない。
「橋下、初っ端のセリフがそれー? 涼葉を見て言うこととかないー?」
猿渡にそう言われて、涼葉を見る。
オフショルダーの白のブラウスに、フリルの入った黒のショートパンツ。子供っぽい印象になりそうな服だけれど、涼葉の綺麗な黒髪や、色っぽい肩、眩しいほどに綺麗な脚と相まって、逆に大人びた印象を受ける。
美というほど格式高くはないが、綺麗と言うに相応しい私服姿に、つい見惚れてしまう。
「橋下?」
涼葉に声をかけられて、我に帰る。
「あぁ、ごめん。綺麗でびっくりしてた」
そう言うと、猿渡が吹き出した。
「びっくりって! そんな子供みたいな言葉使う?」
逆に涼葉からはじとっとした視線を向けられる。
「橋下、びっくりってことは、普段は綺麗と思ってないってこと」
「え、いや、そういうことでは……」
「うそ。嬉しい。服、一生懸命選んで良かった」
頬を染めて言う涼葉と、ニヤニヤする猿渡に照れ臭くなり、俺は話を変える。
「あー、もうそろそろ集合時間じゃない? 三人は次のバスかな?」
「あー橋下、照れたー」
「照れてます。だから照れ隠しさせてください」
そう言うと2人は笑って、俺の話に乗っかってくれる。
「そうだね、多分次のバスで来るんじゃない? だとしたら、本当にすぐだ」
「じゃあもうすぐでお別れかー」
「入場前にお別れするつもりなんかい」
「もち。だって今日はダブルデートの予定っしょ」
猿渡が本気で言っているのに気付いて、俺と涼葉は、は? と声を出した。そんな反応に猿渡はいえいとピースする。
「ドッキリ大成功! じゃ、そんなわけで、デートでイチャイチャしてねー!」
「え、待って、猿渡」
「またなーい! じゃあソロで満喫してくる! インスタ用の写真一杯撮ってこよー!」
ウキウキで入場して行った猿渡の背中を見ながら、茫然と立ち尽くす。
「え、どういうこと?」
「わかんない。多分、猿渡が私と橋下をデートさせようとしたんだとは思うけど」
「でもダブルデートって言ってたよね?」
「うん。そこが全く知らない」
「どうしよう。とりあえず次のバスから降りてくる人を待ってみる」
「だね。ダブルデートって言ってた以上、私らいなかったら相手は困るだろうし」
なんて話をしてすぐ、バスが来て止まった。
そして降りてくる人の中に、知っている2人を見つけた。
「え」
そんな短い声が漏れてしまう。
ただただ動けないでいると、2人は近づいてきた。
「よお、橋下、涼葉。今日はよろしくな」
そう言った鈴木くんなんか目に入らず、隣にいるヤヤ子にしか目がいかなかった。
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