第47話 召喚獣探索隊
それから俺たちは、アリアの残した召喚獣を捜索することにした。
アリアは、俺の提案を受け入れたのだ。
神鳥に再び気張ってもらい、まずは空から捜す。
頼もしい神鳥の背に乗るのは俺とアリア――それからイリス姫。
――実はアリアが召喚獣について告白をした後、「自分も手伝いたい」と強く申し出たのだ。
大神木のデートとは訳が違う。俺やアリアは滞在施設に残るよう説得したが、姫は首を縦に振らなかった。
「召喚獣が生み出されたのは、まだアリアさんが勇者パーティの一員だったときです。彼らを庇護していた王国の関係者として、見届ける義務があると思います」
そう主張されては、なかなか否とは言えない。
しかも、随行者たちは筋金入りの姫様シンパ。
アリアにあれだけ鋭い質問をぶつけたキリオが、「さすが姫様」と大真面目に持ち上げるので始末に負えなかった。
止めろよ、臣下なら。
――そういうわけで、今回の探索にはカリファ聖王国だけでなく、ルマトゥーラ王国側も参加することになったのだ。
俺たちが空から召喚獣の遺棄場所を特定し、目印を揚げる。その後、地上から騎士の一行が駆けつける手はずである。
今頃は、リーニャ先導の地上部隊が俺たちを追いかけているハズだ。
「うーん……まいったな」
ふと、隣のアリアがつぶやいた。彼女の視線はせわしなく眼下を見渡している。
どうした、と俺がたずねると、元大賢者は言いにくそうに報告した。
「勇者たちと来たときとは、地形というか、風景が少し変わってるみたい」
「もう異変が起こり始めてるってことか?」
「あー、いや。そうじゃなくて。私たち大暴れしたって言ったでしょ? だからわかりやすい穴とか開けた場所ができてたんだけど……それがすっかり綺麗になってるのよね」
森の復元力ってすごいのね、とアリアは言う。
『ラクター様、ラクター様。今です。それは自分の力だとマウントを取るのです』
――貴様、本当に女神か?
いつものように内心で呆れていると、思わぬところから声が飛んだ。
「アリアさん。それはラクターさんの力ですよ」
「おい姫様……」
「アリアさんもご覧になったでしょう。私たちが滞在している立派な建物を。あれと同じ力で、失われた森を復活されたのです。ですから、これはラクターさんの功績なんですよ!」
胸を張る。本日二度目であった。
「へぇ……」とアリアは俺の顔を見て、それからイリス姫にも視線を向けた。
デートのときと同じように、俺の前に収まった姫に言う。
「イリス姫ってさ、いつからラクターの恋人になったの?」
「………………はい?」
「あれ、違った?」
数秒の沈黙。その間、瞬間湯沸かし器のように赤熱した姫様の顔から、俺は視線を外す。
……姫様、怒濤の言い訳タイムが始まった。
あまりに早口すぎて俺には内容が把握できない。
『復唱しましょうか?』
いらんことせんでいい。
身振り手振りで何かを訴えかけ続ける姫。それに反応したのは神鳥だった。
動くな静かにしろ――とばかり、
かわいそうに。姫様は顔を覆ってその場に丸まってしまった。プルプル震えている。
アリアは言った。
「イリス姫様って、本当はこんなだったんだね。ちょっと意外。お城では『これぞ正統派の姫』って感じだったのに」
「そのイメージはぜひ持っていてやってくれ。姫の名誉のために」
「あはは。なんかおもしろい子。ほーら姫、顔上げて。もう聞かないからさ。ね?」
半泣きの姫をなだめながら、アリアは寄り添って語りかける。
俺としては、アリアの態度も少々意外だった。あいつ、人と付き合うのが苦手だと思ってた。口調も、以前と比べて優しい。前は口が悪くていつも他人を小馬鹿にしてばかりだったのに。
「ラクターなんて朴念仁に振り回されてたら、精神衛生的に損よ、損」
前言撤回。口が悪いのは相変わらずだった。
にやーと笑う元大賢者に、不安と期待が混ざった涙目を向ける生粋の姫。
……ま、仲良くなるのはいいことだよ。まったく。
――イリス姫が落ち着きを取り戻した頃、アリアの表情が引き締まった。
「あの隆起地形。見覚えがある。ラクター、あの辺りだよ」
そう言って元大賢者が指差したのは、カリファ大森林外縁付近。人の足でも一日あれば森の出入口から往復できそうな位置だ。
他にも見覚えのある光景が目に入る。小高い丘の上にあるオルランシアの聖地、それと、【楽園創造者】の力で創ったレオンさんの研究所からも、そう遠くない場所だ。
まさか、こんなところにヤバい召喚獣が眠っていたなんてな。
ただ、これまでアルマディアやリーニャも気づかなかったところを見ると、成れ果てドラゴンと違って完全休眠状態なのかもしれない。
暴れる心配がないなら、対処もしやすいはずだ。
神鳥が高度を下げる。あいにく地表まで降りられるほどのスペースがなかったため、手頃な樹に乗り移ることになった。
皆が無事に降り立ったことを確認してから、俺は樹の幹に手を当てた。
神力を解放する。
「グロース・メガロマ」
女神アルマディアが得意とする
シンプルに、対象動植物の生育を大きく促進する。
神力をまとった樹は、わずかに枝折れの音を立てつつ、どんどんと上空へ幹を伸ばしていった。イリス姫やアリアが目を丸くする中、おおよそ三十メートル――俺がいた日本でいうビル十階分くらいの高さで落ち着く。
これくらいあれば目立つだろう。それに、リーニャやルウならば、俺の神力を感知できるはずだ。
「なるほど、ね。納得だわ」
アリアがつぶやく。
「ラクター。あんた、間違ってもその力、街中で使わないでよ。大パニックになるから」
「ご指摘ありがとうよ。俺だって街で目立つのは嫌だ。勇者じゃあるまいし」
――アリアが指差した先には、大きな穴があった。幅は五メートルほど。掘り出して間がないのか、穴の周辺には少し色合いの違う土が雑に積み上げられていた。
穴はいったん下り坂に掘られ、そこから水平方向に続いている。
明らかに人為的に作られたものだ。
危険な気配はしない。
「とりあえず、後続を待とう。簡易の小屋を創るから、そこでいったん休憩だ」
「はい、わかりました……って、アリアさん? どうしたんですか?」
イリス姫が声をかける。
元大賢者は穴の縁に立って、なにやら考え込んでいた。
……かと思うと、いきなり穴の中に身を躍らせる。
「あ、おい! 悪いイリス姫。一緒に来てくれ」
「わ、わかりました。アリアさーん!」
ふたりで穴の中に降りる。
穴は深くなかった。ぎりぎり光が届く辺りでアリアの姿を見つける。
「どうしたんだよ、アリア。いきなり走り出して」
「……いの」
「あん?」
「無いの。なくなってるの。確かにここに遺棄したはずの、召喚獣が!」
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