第23話 ランドセル背負って仁王立ち

ピカピカの一年生

親が頼みもしないのに

ランドセルを買って来て

「どうだ、嬉しいだろう」

と言わんばかりに

箱からランドセルを出した


少しも嬉しく無い

なんだ、このカッコ悪い物体は

と興ざめした

私の許可もなく

背負わせる親

重い!

一体、何の余興だ

虐待か⁉


桶星は世間に興味が無く

『学校』なる存在は耳にしていたが

まさか自分が

その学校とやらに通うとは

夢にも思わなかった


幼稚園と言う苦行を終えたら

次は学校⁉

まあ仕方ない

一年の辛抱だと

学校へ通わせる事を許した


(桶星は幼稚園に年長さんの

一年間しか通っていない

親は幼稚園は義務教育では無いので

通わなくても良いだろうと思っていた

しかし近所の同年代の子供達全員が

年中さんから幼稚園へ入園し

親が慌てて翌年に幼稚園へ入れた

桶星にとっては

まさに苦行の一年間だった

右を見ても左を見ても

ガキばっかりだ

どうもガキの言う事は

理解出来ない)


入学式が終わると

校庭で記念撮影

苦痛だ

顔が綺麗に写るようにと

太陽に向かって座る

眩しい

写真屋さんは

前を見ろだの

もっと隣りに近づけだの言い

なかなか撮影しない

桶星は心の中で思った

「いいから早く撮れよ」


学校へは登校班で通う

朝、下町の狭い道に

子供達がわさわさ集まり

大人達も出て来て

班ごとに並ばせる


桶星は毎日

自分の班を教えられるが

興味がない

だから覚える気が無い

だから毎朝

大人に班を教えられる


何の為に

班ごとに並び

皆でぞろぞろ歩くのか

実に非合理的な行動だ

馬鹿馬鹿しい


(今は登校班の必要性を

理解してますし

実に有意義なシステムだと

思っております)


入学して一月も経った頃

校門の前で

「もうそろそろ通わなくても

いいはずなのに

一体いつまで来るんだよ」

と考えた

そして校舎に向かい歩きながら

「あれ?六年生って奴らが

いるよなぁ・・・

私は一年生って事は・・・」


その時やっと気が付いた!

桶星は仁王立ちになり

校舎を見上げながら

心の中で叫んだ

「あと六年も通うのかよ!!」


桶星・・・

ピカピカの一年生にして

人生の不条理を嚙み締める。


そうそう

学校の国語で

最初に平仮名を教わったのだが

『は』は『わ』とも読む

と教えられたのに

『ひ』を『し』と読む事を

教えられなかった


バリバリ下町訛りの

桶星は先生が

『ひ』を『し』と読む事を

教え忘れたと理解した

偉い!


そして・・・

中学生になり

『ひ』は『し』とは読まない

未来永劫

天地がひっくり返っても

槍が降っても

『ひ』は『ひ』であり

『し』とは発音しない事実を悟った

偉い!















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