第31話 事件 ※フェリクス視点

「どうした! 一体何が起きた!?」

「フェリクス様! 侵入者です」


 倒れている夫人のそばに駆けつけて、近くに居たスタッフに確認する。何が起きたのか。すると、スタッフの男が慌てた様子で答えた。


「侵入者だと?」

「会場に、正体不明の賊が!」

「なに!? 警備兵は何をやっていたんだ!!」

「そ、それが……」


 警備は万全だったはず。それなのに、賊が侵入してきた。しかも、参加者の女性を傷付けた。これは、重大な問題だった。しかも、犯人の姿が見当たらない。どうやら逃してしまったのか。


 どうして賊が会場に入り込めたのか。そいつの目的は何なのか。なんで、参加者の夫人を傷付けたのか。今も捕まえられないるは、どうして。疑問が沢山ある。


 とにかく、賊を捕まえないと。警備兵に命令して、周辺を探させないといけない。絶対に逃してはならない。いや、それよりも。


「ええい!! 王子を保護することが先決だ。絶対に傷つけさせるなッ!」

「は、はいッ!!」


 パーティーに参加してもらった王子が怪我をしたら、とんでもないことになるぞ。そうさせないように、急いで彼の安全を確保しなければ。護衛の兵士を引き連れて、俺は急いで会場の中を探した。


 すぐ見つかるだろうと思っていた。しかし、見つからない。さっきまで、居たはずなのに。


「くっ……、どこに居るんだ?」


 まさか、王子も賊に襲われたのか!? 背筋が凍る。そんな、馬鹿なことがあってたまるか。ここに居ないということは、賊に捕まって連れて行かれたのか。いいや、もしかすると既に殺されている可能性だってある。考えたくもない最悪な未来。


 会場に居た者達は、事件が起きたことを知って一斉に逃げ出した。あっという間に会場から、人が居なくなった。それなのに、まだ王子は見当たらない。


「フェリクス様!」

「どうした!? 王子は見つかったか? それとも、賊を捕まえたのか?」


 スタッフが駆け寄ってくる。静かになった会場で、俺の横に黙ったままのペトラも立っている状況で。


「王子は既に、会場から逃げ出したようです」

「なにぃ!? どういうことだ! 王子を保護しろと言ったはずだぞ!!」

「申し訳ございませんッ! しかし、事件が発生した直後に王子はすぐ会場から出て行かれたようで。ちゃんと逃げ出して、何事もなく無事だという報告がありました」

「もう逃げたのか!? そ、そうか。無事だったか……」


 この会場が危ないと判断して、すぐに逃げ出したのか。賢明な判断だな。だけど、俺に何の確認もせずに逃げるとは。いや、とにかく無事なようで良かった。しかし、このままではマズイだろう。


 もう会場には、誰も残っていない。俺は、ペトラと一緒に取り残されてしまった。先程まで、盛大なパーティーを開いていたというのが信じられないような静けさ。


「フェリクス様。なんだか、大変なことになってしまいましたね」

「あ、あぁ……。まさか、こんな事になるなんて……」


 今まで黙っていたペトラが口を開いた。まるで他人事のように、俺に言い放った。その態度に苛立ちを覚えたが、ここで怒鳴り散らしても仕方がない。落ち着け、俺。冷静になるんだ。


「これから、どうするおつもりですか?」

「どうするって……」


 ペトラの問いかけに、俺は何も答えられない。パーティーはメチャクチャになり、王子の安全を確保することも出来なかった。賊も捕まえられていない。


 俺が仕切ったパーティーは、無事に成功するだろうと思っていた。なのに、結果は大失敗だ。最悪な結末を迎えようとしている。せっかく、ここまで上手くやってきたのに。会場に賊が侵入したせいで、全て台無しになってしまった。


 これから、どうするかなんて分からない。俺は、どうすればいいのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る