第30話 起死回生の一手 ※フェリクス視点

 パーティーによって下がった評価は、素晴らしいパーティーを開いて取り返そう。そのために、俺は全力を尽くして今回のパーティーを取り仕切る。


 まずは、スタッフを選ぶところから。あのガラの悪い連中のような職人ではなく、信用できる腕の良い職人を探し出す。


 そう意気込んで探し出したのだが、なかなか見つからない。探せば見つかるだろうと思っていたのに、見つからなかった。世間でも評判の有名な職人に依頼するため、わざわざ会いに行ったのに断られた。いくら金を積んでも、引く受けてはくれない。色々な工房を巡っていく。だけど、どこに行っても同じ答えしか返ってこなかった。


 俺が求めているのは、一流の技術を持つ職人。最高の会場を設営してくれる職人。だけど、見つからない。このままでは、いつまで経ってもパーティーを開くことなど出来ない。仕方なく妥協して、普通の職人を探すことにした。そして、ようやく依頼を受けてくれる職人を見つけた。


 この時点で、大幅に予定が遅れていた。急いで準備を進めなければならないのに、まだ招待客のリストすら作っていない。時間がないのに……。


 泣き言を言っていても仕方ない。まずは、招待する人を決めないと。ペトラの失敗から学んだ俺は、それぞれの関係にも注意して招待客を決める。これで、トラブルが起きる可能性は減るはずなのだ。


 今回のパーティーを成功させれば、周りの評価を一気に上げるチャンス。だから、いつもより多くの人を呼ぼうと考えていた。可能な限り、様々な手段を使って。俺は独自の人脈を駆使して、王子を招待した。王族が参加すれば、貴族は嫌でも集まる。それを狙っていた。


 参加を渋っていた王子に、どうしても来てほしいと何度も頭を下げた。最終的には裏金を掴ませて、強引に出席させた。ここが勝負どころだと思ったから、思い切ってお金を使う。出し惜しみはしない。その甲斐あってか、多くの参加者が集まった。


 会場の準備も、それなりに納得できる出来栄えだ。豪華絢爛という言葉に相応しい会場。煌びやかな装飾の数々。そして何よりも、美しい花々で彩られた庭園。


 俺が見つけ出してきた職人達は、なかなか優秀だった。これは嬉しい誤算だった。


 そして今日、ようやくパーティーが始まる。続々と参加者が集まってくる。今日のパーティーは、必ず成功するだろうという予感があった。


「本日は、お越しいただきありがとうございます。ぜひ楽しんでいってください」


 会場に到着したパーティーの参加者達に丁寧な挨拶をしてから、笑顔で出迎える。婚約者のペトラを横に立たせて、俺の活躍を見せつけよう。俺の仕事ぶりを見せて、アピールする絶好の機会でもある。これで彼女も心を入れ替えて、俺の婚約者として相応しい振る舞いをするようになるはずだ。


 今までの失敗は全て水に流してやる。だから、これから頑張ってほしい。お前なら出来るはずさ。ペトラを見つめながら、心の中で応援の言葉を送った。


 パーティーが始まると、挨拶回りに追われた。挨拶して少し話をして、終わったら次の集団へ向かう。会場内をずっと動き回って、休む暇もない。これが大事なこと。手を抜かずに、しっかりと丁寧に対応していく。


 俺が考えたプラン通り、パーティーは順調に進んでいった。料理も飲み物も十分に用意してあるし、余興だって準備万端で完璧。後は、予定通り事が進めばいいだけ。


 なんだ。準備はかなり大変だったけれど、終わってみれば楽勝じゃないか。そんな風に思ってい時、事件は起こった。


「キァアアアッッ!?」


 突然、会場内に女性の悲鳴が響き渡る。一体、何が起こったのだろうか? 慌てて声の方へ視線を向けると、そこには血を流して床に倒れている女性の姿があった。


 パーティーの参加者である夫人。だけど、どうして倒れているのだろうか。俺には分からない。だけど、何か大変なことが起きたのだけは分かる。

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