第17話 語り合う ※ウォルトン視点

 ベリンダ嬢と何を話せばいいのか分からなくて、僕は黙ってしまう。向かい合って座っているのに、二人の間に会話がない。後ろに控えているメイド達の視線が痛い。何をやっているんだと、情けないと思われているのだろうな。


 パーティー会場だったら、彼女とも普通に話せるのに。マナーや作法があるから、それに従ってちゃんと喋ることができる。でも今は違う。


 緊張して何も言えない。どうしよう。何を話したらいいのだろうか。分からない。こんなに雰囲気の悪い場面は、今まで経験してこなかった。


 彼女も怖がっているだろうに。


「あ、あの。えっと。このお茶、美味しいですね」

「そ、そうだね……」


 彼女に気を遣わせてしまっている。それにちゃんと応えられない。自分が情けなくなる。


 今まで自分の趣味に夢中になって、好きなことだけして生きてきた。あまり年頃の女性と話してこなかった。話し合う機会から逃げてきたんだ。一生、結婚するつもりもなかったから。そのツケが今、回ってきたのだろう。


 どうしたらいいのかな。とりあえず、お茶を飲んで落ち着こう。


「……」

「……」


 落ち着いた。さて、会話しようと思った。だけど、やっぱり無理だった。何も思いつかない。会話できずに、沈黙が続いてしまう。何か話題を見つけないと。


 そうだ。カッコつける必要はない。まずは自分の好きなことを打ち明けて、彼女と話せば良いんだ。


 彼女を守るとか、責任を取るため大事にするとか、今は置いておく。まずは知ってもらって、それから彼女のことも知る。そのための会話をするだけ。


「好きです」

「……え!?」


 僕は、彼女の考えた画期的な演出が大好きだった。それを、素直に伝えるんだ。


「僕は貴女の芸術的に優れたセンスが、本当に好きなんです」

「あ、ありがとうございます……」


 今までに、パーティー会場では何度か彼女に伝えたことがある。だけど、ここまでストレートに気持ちを伝えたことは初めてだった。本当に好きだという事を、彼女に語る。


「特に、去年の秋に開かれたパーティーは最高でした。会場の飾り付けで、秋という季節を感じさせてくれる。食事でも秋を感じて、音でも秋を感じる。あの時の会場は完璧で見事な調和でしたね。あれは、どのようにして着想を得たのですか?」


 いきなり饒舌になって、パーティーを語りだした僕。変に思われていないか不安になった。それなのにベリンダ嬢は、突然の質問にも真摯に答えてくれた。


「は、はい。あれは、ある絵画を見て――」

「なるほど。僕も、その絵を見たことがあります。あれは――」

「そうなんです! その素晴らしいを絵を見て――」

「それは凄いですね。他にも、あの絵画は――」

「知っています! あれも良いですよね――」


 それから僕達は、夢中になって語り合った。共通の話題であるパーティーについて話始めると、止まらなくなった。


 それから、絵画の話になったり、音楽の話になったり、その他にも楽しかった時の思い出、まだ世に出していない新しく考えているアイデアなども教えてくれた。


 彼女の豊富な知識と経験は、とても素晴らしい。お話も上手で、その内容も非常に面白くて興味深いものばかり。


 ベリンダ嬢の話を聞くだけで、楽しい時間を過ごすことが出来た。そして僕達は、一気に距離が縮まったような気がした。

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