第16話 お会いする
エンゲイト公爵家の当主様との話し合いが終わってすぐに、私は別の部屋へ案内された。お父様は広間に残って、私一人でウォルトン様と会ってお話する。
「こちらで、しばらくお待ちください」
「はい、分かりました」
執事に言われて、私は部屋の中にあったソファーに腰かけた。
ふぅーっと息を吐いて緊張を和らげる。これから、どうなるのかな。不安と期待が入り混じる中、扉が開く音が聞こえてきた。
そちらに目を向けると、見覚えのある一人の男性が慌てた様子で入ってくる。彼が
ウォルトン様。
「待たせてしまってすまない」
「い、いえ。大丈夫です」
ウォルトン様との対面。私は座っていたソファーから慌てて立ち上がり、緊張しながら返事をした。
パーティー会場で何度かお会いして挨拶もしているし、少しだけお話したこともある。今日が初対面ではない。だけど二人きりというのもあって、私はすごくドキドキしていた。普段とは違う、慣れない雰囲気。
「どうぞ、座って下さい」
「はい。失礼します」
ウォルトン様に促されて、私は再びソファーに腰を下ろす。向かい側に座った彼に視線を向けた。
「えーっと、ですね……。パーティー会場では何度かお会いしたことがありますが、こうして二人だけでお話するのは初めてですね」
「そうですね」
彼も同じことを考えていたようだ。パーティー会場で会ったことがあるのに、この緊張感。どうしてだろう。上手く答えられなくて、私は黙ってしまう。
「……」
「……」
そして、彼も無言になる。とても気まずい! 何か話さなきゃ。でも、何を話せばいいのか分からない。
このままだと、変な雰囲気のまま終わっちゃう。黙ったまま何も話せないなんて、そんなの嫌だ。せっかくウォルトン様とお話する機会を与えてもらったのだから、ちゃんと会話したい。
「あ、あの!」
「あの、ッ! は、はい!」
「あ、いえ」
沈黙に耐えられず、私は口を開いた。すると、ウォルトン様の声が重なる。お互い驚いた表情を浮かべた後、顔を見合わせた。
「す、すみません。お先にどうぞ」
「いえ、お気になさらず。ウォルトン様のお話が先で」
「いやいや、僕は……」
お互いに遠慮し合う。結局、譲り合って話が始まらない。これって、私達の相性が良くないということなのかしら。幸先の悪いスタートだった。
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