第13話 お茶会
ナハティガル男爵家での生活が始まってから、私は普通に暮らしていた。特に何の問題もなく、穏やかな日々を過ごしている。
当主様と奥様は、私を実の娘として扱ってくれた。
とても優しくしてくれて、まるで本当の両親みたいに。だから最初は少し戸惑いもあった。どうして、こんなにも優しくしてくれるのか分からないから。
使用人とも仲良く過ごせていると思う。皆とても親切で、私の世話を色々と焼いてくれる。おかげで、屋敷での生活は順調だった。
特に、妹のペトラが居ない生活というのが快適だと思えた。今まで、ずっと彼女が傍に居たから警戒する日々を過ごしてきた。自分の部屋に居る時も気が休まらない、そんな状態だった。
でも、今では安心できる場所にいる。ようやく、落ち着ける時間ができたのだ。
だけど、ふと不安になる。私はこのまま、ここで普通に暮らしていて良いのだろうかと。
こんなにも優しくしてくれている彼らにとって、私は役に立っているのだろうか。ナハティガル男爵家が私を引き取った目的が、まだ分からない。
もし私が役立たずと判断されれば、すぐに捨てられてしまうのではないか。そんな恐怖が常に、私の心の中にあった。
***
「ベリンダ、一緒にお茶を飲みましょう？」
「はい、喜んで」
私は奥様に呼ばれて、彼女の元へと向かう。奥様は、こうやって頻繁に私をお茶に誘ってくれた。一緒に過ごそうと、いつも声をかけてくれるのだ。
「ベリンダ、美味しい？」
「はい、とても」
「そう、良かったわ」
二人で向かい合って座る。私がお茶を一口飲むと、感想を求められたので美味しいですと答えた。
奥様は、とても優しい人だ。今も色々と気遣ってくれて、私を大切にしてくれる。だからこそ、彼女に嫌われないように頑張ろうと思った。
お茶を飲みながら、二人で雑談する。
この前プレゼントしてくれた服について、気に入ったかどうか。他に、どんな服を着てみたいか。好きな食べ物、嫌いな食べ物。行ってみたい場所はあるのか。屋敷で過ごしている時、楽しいと感じる瞬間はあるか。何をしている時が楽しいのか。
奥様から色々と質問されて、私は答えていく。かなり興味を持ってくれて、色々と私のことを知ろうと話を聞いてくれた。和やかな雰囲気で会話を楽しんでいた。
とても楽しく、心が休まる時間だった。これほど幸せだと思える時間を、こんな私が過ごしていいのだろうか。そんな事を、ふと考えた瞬間。
「ベリンダ。この家には、まだ慣れない？」
「いいえ！ とても素敵なお屋敷ですし、使用人達も良くしてくださります。だから、大丈夫です」
奥様が私に、そんな質問をした。私が慌てて答えると、とても真剣な表情で彼女は話し始める。
「ねぇ、ベリンダ。私達は、貴女のことを本当の娘のように思っているのよ。貴女を引き取った時、大切にする。絶対に裏切らないと誓ったの。これが私の本心。嘘偽りのない気持ちよ」
「……はい」
「それなら、一つお願いを聞いてくれないかしら？」
「はい、なんでしょうか？」
「私を、実の母親だと思って接して欲しいの」
「……ッ」
「もちろん、無理にとは言わないわ。嫌だと思うのであれば断ってくれてもいいの」
「……」
正直、どう返事をすればいいか迷った。本当に、彼女を信じていいのか。ここまで赤裸々に語ってくれて、それでも疑うべきなのか。
彼らは優しくしてくれた。それは、きっと本当のことだろう。だから私は、信じてみることにした。
「分かりました、お母様」
「ッ！ ありがとう！ これからは遠慮なく頼ってくれて構わないわ。何かあれば、いつでも相談してね」
「はい、ありがとうございます！」
嬉しそうな笑顔を浮かべるお母様を見て、私はホッとした。これが、親子の関係というものなんだ。温かい家族の一員になれた気がして、ようやく私は幸せを感じた。
「さあ、もっとお話しましょう」
「はい！ 私も、お母様とお話したいです」
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