第12話 出迎え

 馬車から降りると、屋敷の前に中年の男女が立っているのが見えた。その顔を見た瞬間に私は、急いで彼らの前に駆け寄った。ナハティガル男爵家の当主様と奥様だ。私を引き取った方々。だから失礼がないように挨拶する。


「こんにちは、ベリンダです。今日から、よろしくお願い致します」

「よく来てくれたね。歓迎するよ」

「ふふっ、よろしくね。さぁ、中にいらっしゃい」


 わざわざ二人は外に出て、私を笑顔で出迎えてくれた。こうして見ると、良い人達に見える。


 だけど、気を抜いてはいけない。彼らは貴族なんだ。何か目的があるはずだから。だけど、警戒しすぎると失礼になるだろう。適度に力を抜きつつ、嫌われないように接しよう。私は、心の中で自分に言い聞かせた。


 当主様と奥様の二人に案内されて、私は屋敷の中に入る。


 玄関を通り抜けて廊下を進みながら、すれ違った使用人達に挨拶する。皆、笑顔で返してくれた。とてもいい雰囲気の屋敷だと思った。


 そのまましばらく二人の後について行くと、とある部屋に辿り着いた。その部屋の中に入っていく。


「ベリンダも一緒に、中に入ってきて」

「はい。失礼します」


 部屋の中には、ベッドがあって、洒落たインテリアが配置されていた。そこそこの広さがあり、快適に暮らせそうな空間があった。


「ここは、今日から君の部屋だよ」

「……こんな立派な部屋を、私が使ってもよろしいのでしょうか?」

「もちろんよ。ベリンダの自由に使ってくれて構わないんだから」

「遠慮しないで、自分の家と思って寛いでくれ」

「はい、ありがとうございます!」


 ここが、新しい私の部屋。私は笑顔で感謝の言葉を口にして、二人に頭を下げた。それから、改めて部屋の中を見渡す。家具や調度品が揃っていて、やっぱり生活するのに不自由なさそうだと感じた。とても良い部屋。私は気に入った。


「必要な物があれば、いつでも言ってちょうだいね」

「はい。ありがとうございます」


 必要な物と聞かれても、今は何も思いつかない。向こうから持ってきた荷物で十分足りるだろうから。


「あの、えっと。それで、これから私はどうすれば……?」

「とりあえず、新しい服を仕立てましょう? 我が家に来た記念に、プレゼントするわよ」

「え!?  いえ、そこまでしていただく訳には……」


 私の疑問に奥様が答える。聞きたいことは、そうじゃなかった。しかも、いきなり服を買ってくれると言われて私は戸惑う。


 そんなことをしてもらうなんて、悪い気がする。そんな私の気持ちを察したのか、奥様が続けて言う。


「これから私達は家族になるんだから、遠慮しなくて大丈夫。貴女が素敵な服を着ている姿を、私に見せてほしいの。駄目かしら?」

「……分かりました。お言葉に甘えて、買って頂きます。ありがとうございます」

「ふふっ、素直で可愛い子ね」


 素直なんて、そんなことはない。ただ、これ以上断るのも申し訳ないから受け入れるだけ。それに、新しい服を着ることは嫌じゃないから。

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