第6話 前途多難 ※フェリクス視点

 ベリンダとの婚約を破棄して、ペトラと婚約したことを早く皆にも知ってもらいたい。早速、パーティーを開くことにした。そこで、大々的に発表するつもりだった。


「ペトラ、それじゃあ準備は頼んだぞ」

「任せて下さい、フェリクス様!」


 彼女の返事は頼もしくて、俺は安心して任せることが出来た。


 会場と予定日が決まり、招待状も全て配り終えた。あとは当日を待つだけ。準備は順調に進んでいるとペトラは言っていたのだが、実は色々と大変だったようだ。




 ある日のこと。俺が屋敷で勉強をしている最中、ペトラがやって来た。


「ごめんなさい、フェリクス様!」

「どうしたんだ、ペトラ!?」


 いきなり彼女は、泣いて謝った。突然の出来事に驚く。どうしてペトラが泣くのか分からなかった。


 しばらく落ち着くのを待ってから、何があったのかを尋ねた。すると彼女は、涙を流して赤くなった目をこすりながら、事情を説明してくれた。


「あの……、パーティーの準備が上手くいかなくて……」

「どういうことだ? 詳しく教えてくれないか?」


 彼女の説明によると、ペトラは一生懸命頑張ったらしい。だが、準備を進めている最中に予算が足りなくて困ってしまったそうだ。だから、もっとお金を出して欲しいと頼まれてしまった。


「それで、いくら必要なんだ?」

「えっと……。1000万ゴールドです」

「え? 1000万ゴールドだと!?」


 それは、あまりにも大金すぎる金額だった。いつもと比べて、10倍も高い金額。すぐに用意するのは無理だろう。だが、ペトラはとても申し訳なさそうにしていた。涙目になって彼女は言う。


「私のせいです! すみませんっ!!」

「いや、気にしないでくれ。初めて君に任せたのだから、失敗しても仕方ない」


 ペトラには、まだ経験がなかった。色々と新しいアイデアを思いついたとしても、それを実際に準備するという経験を積んでいない。だから、失敗しても仕方がない。


 彼女には、これからも頑張ってもらうしかない。挑戦して、経験を積んでもらう。失敗しないように鍛えてもらう。俺は彼女に期待していた。だから、ここで叱っては駄目だ。諦めないように、応援することが大事。


「でも……」

「大丈夫だよ、ペトラ。そんなに心配しなくてもいいから、安心してくれ」


 慰めるために、彼女の頭を優しく撫でる。そうすると、ペトラは嬉しそうな表情になった。泣き止んで、笑顔を見せてくれるようになる。それを見て、ホッとした。


「ありがとうございます。やっぱり、フェリクス様って優しいですね!」

「当たり前じゃないか。好きな人に優しくするのが普通だろ」

「はい!」


 ペトラの機嫌が良くなったところで、俺に自分に出来ることを考える。


 まずは、お金を用意しないといけないな。だけど、1000万ゴールドを用意するのは難しい。これは、父上に頼むしかないだろう。


 一瞬、ベリンダにアドバイスを求めようかと思った。彼女ならパーティーを開いてきた経験だけは豊富だろうから、どうにか出来るかもしれない。


 だけど、それは嫌だった。ペトラから大切な物を盗んだ相手を頼りたくない。


 ベリンダに相談したら、きっと彼女は喜んで協力するだろう。それで、汚名を返上するために必死で頑張るはずだ。でも俺は、彼女の罪を許したくなかった。だから、頼りたくない。自分達で考えて、なんとかするしかないか。

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