第30話 お母様から教わっているはずです
「私ね、癒しの聖女として歴代を凌ぐ力を持っていたのね?」
ふふ、とちょっと自慢げに微笑むお義母様。
凄い!癒しの聖女ってだけでも凄いのに。
「ロズイエ王家に嫁いで、その力を国民のために使えるのが嬉しくて……気が付けば、皆、癒しの力頼りになっていたの……」
「君は悪くない……」
「あなた……」
先程までの笑顔が消え、苦しそうな表情のお義母様に、肩を抱いていたお義父様が否定した。
「私の母、王太后が、聖女の力に溺れてハーブを蔑ろにしたのだ。」
お義父様の説明に、オスタシスが重なる。
ロズイエでもそんなことがあったなんて……。
「その年の冬、ロズイエでは疫病が流行して、準備をしてこなかった国民たちには私の力が効きづらくなっていたの。そんな中、手を差し伸べてくれたのが、オスタシスの王太后様だった」
「オスタシスの王太后はすぐに腕の良い調合師のハーブを惜しみもなく提供してくれた。」
「それが……」
「そう、貴方のお母様のハーブ」
お母様のハーブがこのロズイエを救った。
改めて話を聞けば、本当に凄いと思う。
「あれ…、ということは……」
「そう」
お義父様とお義母様の話を聞いて、気付いた私に、お義母様が微笑んで言った。
「あのときの貴方のお母様のレシピがあれば、オスタシスも救える可能性があるわ」
お義母様の言葉に、希望がさす。
私はそのレシピを知らない。でも、きっと教わっているはず。何故か、そう確信出来た。
◇
とりあえず、この話は終わり、皆解散になった。
ロズイエにはオリヴァー様と、お義母様、そしてロジャーが一緒に行ってくれることになった。
お義兄様がオスタシスに交渉してくれるらしい。
お義姉様はお子様がいるので、お留守番。「私も行きたかった!」と残念そうに言ってくれていた。
ロズイエの皆様は本当に温かい。
私は感謝を胸に、オリヴァー様と王都のお店に向かった。
「お嬢様……! 殿下?!」
お店に着くと、エミリーが笑顔で迎えてくれるも、オリヴァー様も一緒で驚いていた。
「だから王子殿下が気軽に王都になんかって…」
「君も王族の人間だろ? それに、君を一人でなんて行かせられるか」
母のレシピのヒントがないか、お店に行くと言った時に、オリヴァー様はお忙しいにも関わらず、一緒行くと言ってくれた。
「ロジャーがいるから大丈夫なのに」
そう言うと、オリヴァー様はブスッとしてしまった。
あれ?
「貴方を守るのは自分じゃないと嫌なんですよ」
「うるさいぞ、ロズ!」
後ろに控えていたロジャーがしれっと言うと、オリヴァー様が慌てて遮った。
「ま、まあ、そういうこと……だ…」
赤くなりながらもオリヴァー様は私の手をぎゅうっと握った。
つられて私の顔も赤くなる。そして、幸せな気持ちになる。
オリヴァー様と想いが通じ合ってから、十分幸せだと思っていた私の人生は、日々、増々幸せなものになっている。
そんな感謝の気持ちで彼を見つめていると、目が合ったオリヴァー様から優しい微笑みを向けられる。
うわ……っ!
「それでお嬢様? 今日はどうされたんですか?」
エミリーの言葉で現実に戻るも、エミリーとロジャーからはニコニコと見守られていた。
私とオリヴァー様はそれに気付き、パッと手を離す。
うう、恥ずかしい……!私ってば、幸せボケしてるんじゃないかしら?!
それに、今はそれどころじゃない。
「エミリー、私のお母様がロズイエを救ったハーブのことだけど……」
私がそう言うと、エミリーは目を細めた。
「まさか、そんな日が来るなんて……」
「知ってるのね?!」
エミリーは静かに頷いて、続けた。
「ロズイエを救ったあなたのお母様は、いつかオスタシスもそうなるかもしれないと危惧し、お嬢様にハーブの全てを叩き込まれました」
「そうなの……」
お母様からはハーブの知識を確かに叩き込まれた。でも、ロズイエを救ったレシピなんて……。
「お母様はオスタシスを信じたかったんだと思います。だからあなたには何も言わなかった。でも、確かにレシピはあなたの中にあります」
トン、と私の胸に指を当てるエミリー。
「罹る前のエキナセア、罹った後の……」
「エルダーフラワー!」
エミリーの言葉に私はすぐに反応した。
「何だか呪文のようですね」
「調合師にとっては合言葉みたいなものよ!」
ロジャーが首を傾げたので、私は笑顔で答える。
「その顔、わかったようだな?」
オリヴァー様が私の表情を見て微笑む。
「はい! あの、オリヴァー様、エルダーフラワーのドライハーブを大量に用意していただくことは……」
「任せとけ!」
力いっぱい返事をし、オリヴァー様におずおずと頼めば、彼は当然、といった顔で言ってくれた。
その顔に、また幸せな気持ちが胸に充満していくのを感じた。
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