第29話 私の家族が可愛いです

 私のせいでティナが今もこんな目にあっている。


 知らなかったとはいえ、妹に負わせてしまった荷物は重い。


 驚愕の事実に、何も出来ない自分に絶望して、私はその場で固まってしまった。


 そんな私に、ロズイエ王家の皆様は優しく支えてくれていた。


 オリヴァー様は私の肩を支え、隣に寄り添ってくれていた。


 そしてお義母様の言葉にも続きがあった。


「大丈夫よ、エルダーちゃん! あなたのハーブを飲めば、力は元に戻るから!」

「本当ですか?!」


 お義母様の言葉に、私も顔が明るくなる。


「ただ、聖女が力を取り戻しても、力を受けすぎて来た者たちには効かないだろうな」

「もう、ライアン! エルダーちゃんを脅さないの!」

「す、すまない、エルダー」


 希望が見えたと思ったら、ライアン様の容赦ない意見に顔が青くなる。


 すかさずお義母様が怒ってくれて、ライアン様が申し訳なさそうに謝罪されたので、慌てて首を振った。


「エルダーちゃんの生まれ故郷、必ず救いの手を差しのべる、って約束したでしょ?」

「そうよ、ここにはあなたもいて、癒しの聖女が二人もいるのよ?」


 お義母様とエレイン様がウインクをして私に微笑みかけた。


 ああ、私はこの人たちと家族になれて、大切にしてもらって、何て幸せ者なのだろう。


「ありがとうございます……、私、必ずロズイエで恩返しをしていきます」


 嬉しくて、涙を滲ませながらそう言うと、オリヴァー様が涙を拭って、言ってくれた。


「エルダーはもうロズイエに十分すぎるくらいやってくれている。恩を返すのは俺たちだ」

「オリヴァーの言う通りだ。それに、私たちは家族なのだから、困っていたら助け合わないと」

「オリヴァー様……陛下……」


 二人の言葉に胸が温かくなるのを感じ、また涙が滲んでしまう。


「あの、エルダー……」


 コホン、と陛下が言いにくそうにするので、何事かと思ったら、意外なことだった。


「私のこともお義父様と呼んでくれんか……」

「まあ!!」


 陛下の言葉に、お義母様が思わず笑った。


「自分だけ除け者みたいで寂しかったんですね」

「う、うるさい!!」


 お義母様のことは可愛らしい方だと思っていたけど、少しだけ怖いと思っていたお義父様も可愛かった。


「ありがとうございます、お義父様」


 笑顔でそう言えば、お義父様は赤くなりながら、小さく頷いた。


 オリヴァー様はきっとお義父様似ね。不器用だけど優しい所がそっくり。


「どうした、エルダー?」


 ふふ、と笑うと、隣のオリヴァー様が不思議そうに見てきたので、こっそり耳打ちをする。


「そんなことはないだろう」


 お義父様に似ている、という話を聞いて、オリヴァー様はムスッとしてしまった。


 その姿を見て、私はまた顔を綻ばせてしまう。


 ロズイエの皆様のおかげで、心が軽くなる。ティナのことは、今すぐ駆けつけたいくらい心配。


 でも、ちゃんと計画を立てて行かないと。それに……。


「あの、今さら私が行ってもハーブが効かないのは事実ですよね?」


 私は先程ライアン様がおっしゃったことが不安になっていた。


「もう、ライアンが脅すから!」

「す、すまない」


 エレイン様がライアン様に可愛らしく睨み、ライアン様が再び恐縮してしまった。


「す、すみません……! ライアン様を責めるつもりでは……! ただ、私に出来ることはあるのかなって……」

「お義兄様……」

「へっ?」

「私のことはお義兄様って呼んでくれ」

「ええええ?!」


 ライアン様を責めるつもりは無いのだと、必死に訴えていたのに、いつの間にかまた呼び方の話になっている。


「じゃあ、私のことはお義姉様ね」


 ウインクをしながらエレイン様も乗っかる。


「ええと……、お義兄様、お義姉様……?」


 戸惑いながらもそう呼べば、二人とも満面の笑みになった。


 もう、ロズイエの皆様って何でこんなに可愛いの!


「もう、皆、話が進まないわよ!」


 お義母様の一言で、ようやく話が戻る。


「ねえ、エルダーちゃん。昔、ロズイエは貴方のお母様に助けられたって言ったわよね?」

「はい」


 先程、お義母様から、母の活躍を聞いて嬉しくなったことを思い出す。


「ロズイエも昔……先代の王妃様の時にね、癒しの聖女の力に溺れかけたことがあるの」

「えっ?!」

「エルダーちゃんもロズイエ王家の一員だもの。知っていて欲しい」


 驚く私にお義母様が話を続ける。


 皆様を見れば、厳しい表情をしている。


 ロズイエにとって、ロズイエ王家にとってとても重要なことなのだろう。


 お義父様がお義母様の肩を抱き、お義兄様がお義姉様の肩を。そして先程から肩を支えてくれていたオリヴァー様が、そっと私を抱き寄せた。

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