第12話 でぶでブスはお断り

 スチュアートは家が決めた婚約者のビアンカが気に入らなかった。政略結婚は覚悟していたが、神経質で口うるさく、でぶでブスの婚約者ビアンカなど願い下げだった。


 いくら家柄が良いといってももっと他にいなかったのだろうか? 


 そして何よりも常に学年上位の成績を誇る頭の良い彼女が鼻につく。生意気なのだ。頭より、顔が良い方がよっぽどいい。

 その点、フローラは明るく可愛らしいし、勉強もさほどできないので丁度よかった。



 だが、婚約者に縛られるのはこりごりだ。だから、フローラとも婚約する気はない。茶会だろうが、夜会だろうが、婚約者しかエスコートできないのは面白くない。


 それにフローラの実家は伝統もなく成り上がりの新興貴族。あまり条件のよい結婚相手とはいえなかった。



 しかし、死んだとばかり思っていたビアンカが、実は生きていて修道院で保護されていたことが分かり、家は大騒ぎになった。

 父母が婚約解消は早まったと後悔している。




「スチュアート様、ビアンカ様が帰って来たそうですね」


 二人は腕を組んで廊下を歩いていた。学園のなかで、フローラは授業以外でスチュアートのそばを離れることはない。当然ランチも一緒だ。二人はカフェテラスにやってきていた。


「ああ、驚いたな。断崖絶壁にあるバルコニーから落ちたのに生きているとはね。随分と逞しい。伊達に太っていたわけではないな。贅肉がクッションになって助かったのか」


と言って嘲笑する。


「風魔法と水魔法を使える方なので精霊のご加護があったのでは言われています」


 浮かない様子でフローラが言う。


「強運すぎる」


 ブスは、生命力も強いのかとあきれる。すると隣でフローラが震えた。


「どうしたんだ。フローラ?」

「私、ビアンカ様に恨まれていると思います」

「なぜ? 何かされたのか? 今のあいつには記憶がないのだろう」


 フローラは可憐な仕草で首をふる。


「いえ、まだですが……。私達、スチュアート様がビアンカ様の婚約者だったころから付き合っていたから、それを今のビアンカ様が知ったら……何か仕返しされるかも」


 それは十分にあり得る。


「大丈夫だよ。怒ろうが何しようが、婚約はとっくに解消されている。あいつにそんな資格はないよ」


 スチュアートは太っているビアンカが嫌いだ。連れて歩くのも恥ずかしい。


「でも、あの、とても美しくなって戻ってきたと聞きます」


 フローラは不安そうだ。


「あのでぶが? 前がひどかったから、痩せた後に綺麗にみえるだけじゃないのか」

「そうですよね。皆大袈裟に騒ぎすぎなんです」


 フローラはまるで自分に言い聞かせているようだ。しかし、痩せて綺麗になったという噂は聞いている。確かめてみるのもいいかもしれない。



 すると前から、艶やかな金髪を持つ、ほっそりとした美しい少女がやってきた。あんな綺麗な少女がこの学園にいただろうか? 思わず目を奪われる。


 するとフローラがスチュアートの腕を引っ張る。


「なんだ、フローラ」

「私以外の人見ないでください」


 視線に媚を含み、ぷくりと頬を膨らませる。


「誤解だよ。ただ見たことない子がいるなと思って」

「また、そうやって声をかけるつもりなのですね」


 縛られることが嫌いで、まだ遊んでいたいスチュアートはフローラのやきもちを可愛いと思うより鬱陶しいと思った。


 珍しい朱色の瞳を持つ少女、数秒遅れて気付く。あれはケスラー家の色、ビアンカ?



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