第9話 本岡祐樹
状況が整理できなかった。夜の10時頃、第一報で連絡網用のキャリアメールが送られたとき、なぜ高橋が颯斗と争ったのかがまるで分からなかった。接点なんて皆無だったはずだ。それに、近辺情報からすると先に刺したのは高橋だという。颯斗がなんの恨みをかったというんだ?やはり理解が出来ない。
高橋は死んでしまったようだ。あんな教師消えていいと思っていた俺からすると、高橋の生死はどうでもいいが、何よりも心配なのは颯斗だった。結果的に高橋を殺めたということだが、正当防衛に決まっている。颯斗は意識こそ失っているものの心臓などの臓器に大きな損傷はなく、いずれ意識も戻るだろうということだった。先ずはひと安心というべきなのだろうか?
取り敢えず俺としてはどうすることも出来ない。あいつの入院場所なんて全く知らないから。心を落ち着かせようとマグカップにインスタントの茶葉をいれてからポットのお湯を注いだ。手が震えてしまう。思い切りマグカップを手から落として、絨毯を濡らした。
「あっつ」静かに顔をしかめた。すると台所から母がやって来た。手に持った皿にはホットケーキが載っていた。
「お茶ぐらい汲んでやるから座ってなよ」母はそう言うとホットケーキをちゃぶ台に置いた。
「夜中に甘いもんって言うのもあれだけど、正直寝れないだろ。こういうときは一回落ち着くのが大切だよ」
そう言うと母は乾いた雑巾で濡れた絨毯を叩く。
「ごめん。ありがとう」
「……颯斗くんが心配で堪らないのだろ」
「うん。数少ない親友の一人だから」そう言うと母は笑った。
「お前が親友って言うならホントに良い奴なんだろう。大丈夫。良い奴って言うのは意地が悪いほど逞しいから」
「ありがとう」そう言うと僕はホットケーキを食べる。色々と悩んでいた脳には良い刺激になった。少し震えが収まる。
「でも、母さん。俺の親友は良い奴っていう理由はなんなの?」
そう言うと母はけろっとした感じでいう。
「お前ほどのイケメンの友人が糞やろうなわけねえだろって事だよ」昔ギャルらしかった母は、昔の名残のような笑顔でいう。
「き、気持ち悪いな」
「酷いな!いや、私が思うのはお前ってホントに人間としてできてると思うって。ホントに、母さん越されたって思うことあるもん。電車んなかで老婆にすぐさま席譲ったり、落とし物大声で知らせてやったり」
「それはまた、照れるな……」苦笑いしてると、母は僕の頭に手を置いて言った。
「そんだけお前は項を積んでんだ。だからきっと、お前の願いは叶う。己の思うように祈れ」
「なんだよそれ。新手の宗教かよ」僕が笑うと、母も笑った。
「気が楽になったか?」そう言ってきた。僕はゆっくりと頷いた。
何が私は越されただよ。俺は心のなかで呟いた。
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