エッグオブタイクーン~スキル【卵】に覚醒した商人はハーレム・モフモフをあつめて、いざ世界へ~

サカイヌツク

第一部 王都編

第1話 ギルド追放

 人生負けっぱなしだった。


 仕事も上手くやれず、人間関係もとてもじゃないが友好的とは言えない。それでも寿命をまっとうしようとしぶとく生きるつもりではあった。仕事が上手くいかずとも、人間関係が寂しかろうとも、この時代、生きるだけなら楽しいしな。と思っていた矢先、事故に巻き込まれちゃってさ、あえなく死んでしまった。


 けど奇跡が起こったんだよ。


 気づけば僕は地球とは違う異世界で暮らしていた。


 今より幼少の頃の記憶はあいまいだったが、僕には両親がいて、ウィルという名前があって、街に友人がいて。童心さながらに街の中を友人と一緒に駆けまわり、朝から晩まで笑って過ごした。


 そんな風に第二の人生を幸せに過ごしていると。


「ウィル、お誕生日おめでとう」


 母から十才を記念したお祝いのケーキを頂く。

 ケーキはこの世界ティル・ナ・ノーグにとって大変珍しい。


 ケーキのスポンジに使われている卵が入手困難で、卵はとても高価な品物らしい。

 その話を母から聞かされた時、この世界の文明レベルが計り知れた。


 母の隣で一緒に祝ってくれた父はあることをほのめかす。


「ウィルももう十才か、と言うことはあれを受けさせなきゃな」

「ですねぇ、ウィルは賢いし、きっといいスキルに巡り合えますよ」


 この世界では、十才になると器が整うと言われているらしく。

 十才に達した人間は、スキルを授かる儀式を受けなければいけない。


 と言うことで僕も例外にもれず、父と共だって儀式を受けに行った。


 儀式、と言っても、向かったのは街の一角にあるギルド組合の事務所。

 なんでも儀式によって何のスキルも貰えない人間も中にはいるようで。


「うぇえええん、うぇえ、うっく」


 僕の前にスキルを貰いに来ていた男の子が、涙を流して立ち去った。

 にわかにだけど、薄れていた前世の記憶がよみがえる。


 あんな負けっぱなしの人生は――もう嫌だ。


 緊張で心臓がバクバクと鳴り、手で胸を押さえていると父が背中を叩いた。


「行こうかウィル、お前の番だ。例えどんな結果になったとしてもお父さんは後悔しないぞ」


 で、ギルド組合の事務所に入ると、受付嬢の人がいて。

 彼女は事務的に手続きを終えると、僕に手を差し出すよう指示した。


「では、これよりウィルくんのスキルを鑑定させて頂きますね」


 鑑定? スキルの授与じゃなかったのか。


「……はい、もういいですよ」


 しかもスキルの鑑定とやらはわずか数秒で終わり、父が矢継ぎ早に口を開いた。


「で、この子のスキルはどんなものなんでしょうか?」

「ウィルくんのスキルは卵、ですね。鶏卵を生成できるとても便利なスキルかと」


 なんじゃそりゃ?

 たしかにこの世界では卵は貴重らしいけど、スキルにするほどの代物か?


 父も僕もやや困惑していると、背後から声を掛けられた。


「いやはや、さぞ困惑なされていることでしょうなお父さん」

「えっと、貴方は?」

「失礼した、私の名はルドルフと申します」

「ルドルフ、たしか街で一番大きな商人ギルドのリーダーでしたか?」

「さようです」


 なれなれしい感じで父の肩に手をかけた軽装のおっさんは愛想笑いをうかべていた。


「ここに入って来た瞬間から感じていたのですが、非常に将来有望そうなお坊ちゃんですな。時に、お父さんのご職業をお伺いしてもよろしいかな?」


「私は木工技師を生業としています」


「ほう、ならばこの後で貴方の商品を見させていただいてもいいでしょうか?」


「それは構いませんが」


 なんか、胡散臭いおっさんだった。

 ルドルフはスキル鑑定を終えた僕たちについて来て、家まで押しかけ。


 彼はずっと父をおだてていた、貴方の作る木工細工は素晴らしいとか。

 ぜひとも私の店にこの秀逸な木工製品を卸して欲しいとか。

 ルドルフは徹頭徹尾、父に媚態をふるまって、父は気分をよくしていた。


「ウィルくん、君のスキルを見せて欲しいのだが、お願いできるかな?」

「あ、はい」


 僕はルドルフに言われるがまま手のひらから鶏卵を生成してみせると。

 自分でもマジックみたいだなってちょっと感心した。


 ルドルフは生成された鶏卵を割って、皿に黄身を落とす。

 そして皿から黄身をすすり、口の中で味わいを確かめていた。


「……やはりか、私の見立てに間違いはなかった」

「息子のスキルをルドルフさんはどう思います?」

「お父さん、彼のスキルはひょっとしたら――世界を変えますよ」


 父は息子をも褒められて、さらに気分をよくした顔でいると。


「どうでしょう、ウィルくんを、私の商人ギルドに加盟させてもらえないでしょうか?」


 ルドルフはここぞとばかりに僕のスカウト話を打診する。

 父はじゃっかん戸惑っていたものの、押しの強いルドルフに根負けし。

 結果的に僕はルドルフに弟子入りする形で、彼の商人ギルドに入ることになった。


 翌日、父と一緒に彼が持つ商店に向かった。

 自宅から歩いて三キロ先にある店で、普段は使わなかったからわからなかったけど。


「凄い行列だな、もしかしてあれ全部お客さんか?」


 父も感心するぐらい、店には長蛇の列ができている。

 ルドルフの商店は街一番といっても過言ではない、人気店だったみたいだ。

 店前まで訪れると、ルドルフはあわてた様子で僕たちに駆け寄って来た。


「待っていましたよご両人、ウィル、早速で悪いが配置についてくれるか?」


 ルドルフは僕の手を取り、どこかへ連れて行こうとすると父が制止していた。


「待ってください、息子をどうするおつもりで?」


「お父さん、今日、私の店は卵の特売日なんですよ。見てくださいあの行列、今日卵の大特価セールを開くと言いまわったらあんなにも大勢のお客さんが集まってくださいました」


 再度言うが、この世界では卵は貴重だ。

 卵は栄養食として優秀で、文明がそこまで発達してないから生産量は薄く。

 かつ卵の用途は多岐にわたるので、大特価セールともなれば民衆は群れをなす。


 そして僕はルドルフに連れられるがまま、店の奥で卵を生成し続けた。

 それは朝から晩まで続き、もう一種の仕事といっても過言じゃなかった。


 仕事を終えると、ルドルフは僕のもとにやって来て。


「お疲れウィル、今日の報酬だ」


 と言い、彼は麻袋に入った金銀銅貨を渡す。


「こんなに貰っていいのですか?」


「まぁ俺も渡し過ぎだとは思うが、先行投資もかねているからいいんだ。これからもウィルにはうちのギルドの目玉として働いてもらえれば幸いだからな。それくらい安くはない。お父さんが店先で待っているから今日の所は帰るといい。また明日も頼むな」


 店を出ると、外は真っ暗だった。

 店から出て来たタイミングを見計らって父が僕に声を掛け、驚愕の事実を知った。


「お父さんも働かされてたの?」

「ああ、なりゆきで。お前の卵を箱につめたり、会計手伝ったりしてたよ」


 父も父でルドルフのいいように使われていたみたいだった。

 二人で家に帰り、母にルドルフから貰った賃金を渡すと、母も驚く。


「今日一日でこんなに稼いで来たの!? 半年分の稼ぎじゃない」


 だからか、父と母はそれ以来、ルドルフに信用を置くようになって。


 僕は毎日のようにルドルフの商店で卵を生成し、売り続ける日々を送っていれば。

 気づけば十八才になっていた。


 その頃には所属しているギルドでも顔が利くようになり。

 僕の売りである卵の販売以外にも業績を出せるようになったんだけど。


 ある日、兄弟子からギルドハウスに呼び出され、何事かと思えば。


「ウィル、お前をギルドから追放する」


 僕は商人ギルドを追われることになってしまったのだ。

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