ラスボス辞めちゃ……ダメ?
ちびまるフォイ
Continue? ▶はい ▶もちろん!
「ワシ、FIREしようかな」
「どしたんですか魔王様。魔王様は闇属性でしょう」
「いやFIRE。早期退職するってこと」
「え!?」
側近のガーゴイル大臣は思わず手帳を落としてしまった。
「魔王様はラスボスでしょう!? 早期退職って……ラスボスを辞めるってことですか!?」
「うん……まあ」
「いやいやいや! 冗談ですよね!?」
「前から考えてはいたんだよ。このまま魔王としてラスボスを続ける人生が、ワシにとって幸福なのかどうかって」
「世界中を不幸にするのが、あなたの幸福でしょう!?」
「でもワシだって幸福になりたいもん!!」
恋したい、みたいなテンションで叫んだ魔王だったがその意志はかたかった。
側近が聞けば聞くほどに、FIREの意思が強まるように感じる。
その夜、魔王の配下たちは緊急会議として集められた。
議題はもちろん魔王のラスボス退職について。
「え、ラスボスって辞められるんですか!?」
「そこじゃない! 魔王様が辞めたらうちはもう終わりなんだ。
なんとかして辞めないようにしてもらうしかないだろう!」
「でも、魔王様の意思は固いんでしょう?
変に引き止めるより、辞めてもらってからのことを考えたほうが良くない?」
「……じゃあ逆に聞くけど、他にラスボスになれる奴っているのかよ」
配下たちは顔を見合わせて、全員が顔をふせた。
「……いないよな」
「仮にできるとしても、あんな過酷な仕事やりたくないよ」
配下だからこそわかるラスボスの辛さというものはこれまでも見てきていた。
ラスボスの朝は早い。
誰よりも早く城に来て玉座に座って待たなければならない。
配下のモンスターたちにあれこれ指示をして
あらゆる城内のトラブルを対処していくから心労にたえない。
玉座にでーんと座っていながらも、やっていることは企業戦士さながらの忙しさなのである。
「ようしみんな! 魔王様をぜったいにラスボスのままにさせるんだ!!」
結局、その日の会議は魔王様を説得しようでまとまった。
翌日から魔王城の空気感は変わった。
日々の多忙さに対して嫌気がさしたのであれば、それをなんとか緩和しようと配下たちは忙しく立ち回る。
「魔王様、お茶をお持ちしました!」
「魔王様、言われる前に城の警護にあたってきました!」
「魔王様、今日もダンディですね! かっこいい!」
「お、おお……」
「いやぁ~~、魔王様以外のラスボスなんて考えられませんね!!!」
「あ……ありがとう……ははは」
配下たちのわかりやすいおべっかは魔王にとって逆効果だったが、
それを知っているのは被害者だけという悪循環になっていた。
「うう……みんなからラスボス辞めさせたくないオーラを感じる……!」
そのストレスは毒のように魔王の体をむしばみ、
魔王城に出勤するや胃が痛くなったり、頭痛が止まらなくなったりしはじめる。
もうちょっとした拒絶反応にひとしい。
「どうすれば……どうすればみんな納得した状態で辞めれるんだ……いたたた」
ただでさえ青白い顔の魔王の顔がますます悪くなる。
そんな状態のとき、魔王の手下があわてて玉座の間に入っていた。
「ま、魔王様! たいへんです! 冒険者が!! 冒険者がやってきます!!」
「えええ!?」
魔王はラスボススイッチを入れると、玉座にえらそうに座り直した。
照明を切ってロウソクをちらつかせる。
玉座の間はおどろおどろしい雰囲気に包まれた。
冒険者の足音が部屋に近づいてくる。
「お前が魔王か」
ゆらめく炎に照らされて、勇者ひとりの顔がうかびあがる。
「ほう。ひとりでこの魔王城へ乗り込むとは見上げた根性だな。
その蛮勇を評価して世界の半分をお前にやろう。ワシの配下にならないか」
そうしてワシの代わりに後継者になってよ、と喉まで出た言葉を飲み込んだ。
「そんなものはいらない!!」
「ククク。そうだろうな……」
「なんでちょっと残念そうなんだ」
「こ、ここで骸にするには惜しいほどの力だからだ!」
勇者は背中の剣を抜くと、戦闘態勢をととのえる。
「あんたが魔王でまちがいないな。他に手下はいないな」
「はっはっは。人間いっぴきごときワシだけで十分だ」
「本当に他に誰もいないんだな!!」
「そう言ったであろう」
勇者は本当に誰もいないかを確認してから叫ぶ。
「なら頼みがある。僕を死なない程度にボコってくれ!
もう勇者やめたいんだ! でも仲間が辞めさせてくれない!
ここで再起不能にしてもらえれば、
僕はもっともらしい理由で勇者を引退できる! 頼む!!」
魔王はそれに答えた。
「そ、その手があったぁーー!!!」
魔王と勇者は激しい戦いののち、優雅にお互いの職を離れた。
ラスボス辞めちゃ……ダメ? ちびまるフォイ @firestorage
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