第七話

 城下町を出る。するとカラが空を指しユーリルに言う。


 「実は私たち魔族がこの世界の空を割って侵入した時、魔界の魔獣も一緒に乱入してしまったの。私たち魔族は未曽有の飢餓に襲われて未開拓の土地を開拓しようと決意したの。それも二度と戻れない世界に……。私の生まれる前の事件だけど」


 そう、それが人間の歴史でも知られている紅空の悲劇と呼ばれる事件だ。今から約五十年ほど前の事件だ。でも「二度と戻れない」は初耳だ。そうだったのか。ん、でも待てよ?


 「あれは……魔獣は魔族の仲間じゃないのか?」


 「違うわ。魔族を食らうおぞましき獣よ」


 カラ、本当にそうなのか?


 「今では魔族も人間も食べたがるやっかいなモンスターだけどね」


 シータが答える。こうして人間のふりをされると……なんかね。


 「要は人間界にいる猛獣と同じと考えてくれ。もっとも魔獣のせいで人間界の猛獣は絶滅寸前だがな」


 そう、生態系は滅茶苦茶になった。


 「牧場を荒らすやっかいなモンスターなの」


 セータもすかさず答える。


 (本当いろんなこと知るようになったな)


 「噂をすればなんとやらだ」


 それは吸血鬼討伐に向かうときによく遭遇した三つ目の妖獣バーンウルフであった。炎を吐く厄介な敵だ。


 だが勇者の敵ではなかった。


 「広雷撃!!」


 勇者が印を結んで呪文を唱えるとバーンウルフをこれでもかと雷撃で攻撃した。バーンウルフは即死だった。


 「俺……人間時代の能力を失ってないみたいだ」


 「よかったじゃない。勇者」


 「ところでカラ。魔獣の血を飲んでも効果は三分の一なのか?」


 「そうよ。もっとも毒が無ければの話ね。バーンウルフは幸いにも毒はないけど」


 「そうか」


 そう言うとユーリルは突然翼を出した。そしてバーンウルフの首に牙を立てた。


 「少し喉が渇いたもんでな」


 すっと立つ吸血勇者。血を拭う。


 「確かに、俺は吸血鬼だな」


 文字通り吸血の勇者が誕生した瞬間だった。

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