第30話 金髪眼帯エルフの決意

「ボクがエルフなのは変えられない! それならボクが考え方を変えればいんだよね! エルフならではの聖騎士パラディンを目指せばいいんだ!」


 ミカエルがそう自分に言い聞かせるように宣言する。


「ああ! 自信を持てミカエル! オレが保障する! 君は最高にナイスガイで最高に優秀な盾役タンクだ!」

「ぼくにとってはミカエルさんが一番の盾役タンクです」

「二人ともありがとう。ボクにとっても二人は最高で一番の仲間だよ」 

 

 イケメン三人がテーブルの上で固い握手を交わす。パーティーに加わって日の浅い白髪青年には分からない深い絆で三人は結ばれている。


「レヴィンくん! さっそく明日から両手剣に挑戦してみるよ!」


 そう決意を口にした直後だ。

 金髪眼帯エルフが「あ!」と声を漏らす。


「……ダメだ。せっかくの提案だけど、両手剣装備には大きな問題がある。盾を装備しないと〈シールドバッシュ〉が使えない。盾役タンクとしては阻害系アビリティを一つ失うリスクは見過ごせないよ」


 表情を曇らせるミカエルにレヴィンはにやりと笑う。


「――ならば〈シールドバッシュ〉を使える両手剣があるとしたらどうだ?」


「え? ほんと? それはどんな両手剣なんだい?」


「ダンジョンの宝箱からドロップする両手剣に『アイアンクラッド』シリーズというものがある。幅広で非常に重く、取り回しのひどく難しい、他の両手剣よりも攻撃性能が劣る不人気武器だ。アタッカー連中からは『鉄くず』と揶揄やゆされる大外れドロップ品だ!」


「それ大丈夫なのかい……?」ミカエルが眉をひそめる。


「最後まで聞け! ただし他の両手剣にない特性が『アイアンクラッド』シリーズにはある。なんと幅広の刃の側面で『盾のように防御する』ことができるのだ!」


「おお! それで〈シールドバッシュ〉が使えるということかい!」

「喜ぶな! 取り回しがひどく難しいと言っただろ? 貴様に扱えるのか?」


 すると、ミカエルが感情をあらわにして立ち上がる。



「分からないけど……ボクは挑戦したい! 自分の可能性を模索したい! アカデミーに来たのも自分の未来を自分の手で切り開きたいと思ったからなんだよ!」



 突然の大声にレヴィンたちが面食らっているのに気づいて、

「すまない驚かせて……」

 金髪眼帯エルフが尖った耳の先を真っ赤にしておずおずと腰を下ろす。


「その……初めて話すけど、ボクの実家はエルフの世界で名の知れた家柄でね……ボクは幼い頃からなにをするにも制限をされて、いつだって家名に傷がつかないよう模範的に振舞うことを求められてきたんだ」


「エルフは長命からか保守的な傾向が強いと聞いたことがある」


「うん。そう。だけど、ボクはそれがたまらなく嫌だった。まるで深い海の底にいるみたいに毎日が息苦しかった……」


 ミカエルが端正な口元に自嘲の笑みを浮かべる。


「信じられるかい? 将来の結婚相手を選ぶ権利すらないんだよ? せめて結婚相手は自分の意思で決めたいじゃないか」


「分かる! 分かるぞ! ミカエル!」

 自身もまた良血を残すために両親に結婚相手を決められそうだったが力強く頷く。そして、なぜかレヴィンのことを熱い眼差しで見つめてくるが、そこは華麗に無視をする。


「腑に落ちた。貴様の立ち居振る舞いから出自しゅつじが上等そうだとは思っていたが、エルフの貴族様だったというわけか」

「うん……そんな感じかな」


 奥歯に物が挟まったようなミカエルの返事が引っ掛かる。


(……勘が外れたか? いや、これ以上、深く詮索されたくないということか……まあ、誰にでも秘密の一つや二つはあるものだろう。現に隣の黒髪が特大の秘密を隠しているしな)


 白髪青年は素知らぬ顔で話題を進める。


「で? 自由になりたくて家を飛び出して冒険者の道を選んだってことか?」


「ああ! 冒険者は自らの力で富も名声も手に入れられる! 家に頼ることなく自分自身の力で生きていける! 幸いにもボクは【運命の女神ルナロッサ】様のお導きで聖騎士パラディンという優れたジョブをいただけたからね! この力を活かさない手はないと思ってさ!」


「言っておくが、ミカエル。冒険者なら誰でも自由を手に入れられるわけじゃない。自由を手に入れられるのは『強者』だけだ。当然だが、強くなければダンジョンで生き残れないからな」


「覚悟はあるさ。ボクはもっと強くなってみせる。誰にも負けない最強のエルフ盾役タンクになってみんなを守ってみせるよ」


 挑発的な態度のレヴィンからミカエルは真っ直ぐ視線を逸らさない。

 どうやら決意は本物らしい。言葉に嘘もなさそうだ。ミカエルは大丈夫だろう。

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