第17話 弱気な彼女の強気な決意

 彼にダンジョンで出会ったあの日、わたしが感じた胸の高鳴り本物だと思う――。


 颯爽と現れ危険もかえりみず見ず知らずのわたしを絶望のどん底から救い出してくれた相手なのだ。心惹かれないはずがない。

 ああ、強くて勇敢な魔導士さま。わたしの目には運命の王子様のように彼のことが映っていた。


「わたし……彼とパーティーを組みたい!」


 これほど強い衝動に突き動かされるの生まれて初めての経験だった。

 わたしはアカデミーに戻ると勇気を出しての学生たちに謎の白髪魔導士について尋ねて回る。ところが、ひどく困惑してしまう。


(ん? んん? んんん? んー? わ、わたしの勘違いだった……?)


 なぜなら灰色魔導士グレーメイジレヴィン・レヴィアントついて皆に尋ねれば尋ねるほど湯水のごとく悪評が湧き出てくるのだ。


 彼は王立冒険者アカデミーに入学してからパーティーの脱退を繰り返しており、その多くの理由が彼の傲岸不遜な態度が原因らしかった。自分勝手で仲間への敬意に欠ける最低の人間という評判だった。

 

(……でも、彼がわたしのことを助けてくれたことは事実だ。あれは優しさではなかったの? ただの気まぐれだったの?)

 

 悪評を鵜呑みにする気になれなかった。自分の目と直観を信じることにする。

 数週間ほどレヴィン・レヴィアントの動向を窺う。臆病なわたしに直接話しかける勇気などあるはずもなかった。


 毎日毎日、彼のことを陰から見守り続ける。「これは! 断じてストーカー行為ではない!」と自分に言い訳しながら。

 すると、いろいろなことが分かってくる。


 なるほど。偉そうにパーティーメンバーに指示するわけだ。

 なんと彼の座学の成績は学年でもトップクラスだった。50階層くらいまでの知識ならば教師にも引けを取らなかった。

 聞けば彼の亡くなった両親は名のある冒険者だったそうで、きっと幼い頃からダンジョンについて詳しく学んでいたのだろう。


 それと、やはり彼は優秀な冒険者だった。


 強化魔法アビのスペシャリストは一見すると地味だが、注目して見ていれば彼のバトルでの立ち回りがいかに優秀かが分かる。

 常に周囲に気を配り、パーティーメンバーが気持ちよく戦えるように汗をかきつづけている。

 彼のことを手放しで優しい人だとは言わないが、悪い人ではないということはちゃんと見れば理解できる。

 ただ彼の傲岸不遜な言動がすべてをマイナスにしてしまっている事実は否めない。まあ、わたしにとっては好都合ではあるが。


(彼が正当に評価されたらわたしがパーティーを組めなくなっちゃうもの) 


 ところが、わたしにとっても致命的な問題が発覚する。どうやら彼は女性が苦手らしいのだ。

 厳密に言うと、パーティー内で起こる女性絡みのトラブルに巻き込まれることを毛嫌いしているようだ。

 実際、アカデミーに入学して最初は同郷の幼馴染ダンテ・ダンテリオンとパーティーを組んでいたのだが、幼馴染の女性絡みのトラブルの多さに呆れてパーティーを脱退していた。

 それ以降もパーティー内での色恋沙汰が原因で彼は所属するパーティーを脱退しており、ここ最近の彼は女性のいないパーティーにしか参加していない。


(どうしよう……このままじゃ彼はわたしとはパーティーを組んでくれない)


 途方に暮れるわたしの脳裏に錬金術師アルケミストのリンダ先生の言葉がよぎる。



『自分に自信が持てなくて本来の力が発揮できないのであれば――強気な別人に変身してみては? いっそ男性になってみたらどうだ?』



 数日前に先生からもらったアドバイスを思い出して全身に稲妻が走る。まさに天啓てんけいである。どのみち性別関係なく彼はきっと弱いままのわたしとはパーティーを組んでくれないだろう。

 周囲を騙すことに抵抗がないわけではない。しかし、手段を選べるような立場でもない。


「欲しいものを手に入れるためになり振りかまっていられない! わたしは絶対に彼とパーティーを組むんだ!」


 そう決めたわたしの心はもうすでに――これまでの弱々しいものではなかった。

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