第21話 物理で語る系魔導士
繁華街のメインストリートから外れた
「レヴィアント! 女の前だからって強がるな!」
「ああ! お前じゃ俺たちには勝てねえんだからよぉ!」
「女の前で恥をかきたくねえだろ! 土下座すりゃ許してやってもいいぜ!」
勝ち誇った笑い声が裏通りに反響する。三人組の脳裏にはレヴィンを一方的に袋叩きにしたあの日の光景が浮かんでいることだろう。
しかし、彼らの目論見は完全に外れることになる。
「残念だが、以前のように殴らせてはやらんぞ?」
「……え? どういう意味――」
――瞬間だ。突風にあおられたかのように魔導士のマントがブワッとはためく。
気づくと白髪青年は三人組の眼前に立っていて、次の瞬間には真ん中の男子学生のみぞおちに拳をずぶりと突き刺していた。
「うぐぅッ!」
男子学生が口から透明な液体をまき散らしながら膝から崩れ落ちる。
「は……速いッ!」
「嘘だろッ!」
両サイドの二人が慌ててレヴィンに殴りかかる。
レヴィンはそれをダンスでも踊るような軽やかな身のこなしで難なく
「おか……しいだろォ!」
「お、俺たち前衛職が魔導士にやられるわけがねえ!」
「く、くそ……どんな卑怯な手を使ったァ! レヴィアントォ!」
血を吐くように叫ぶ三人組にレヴィンは憮然と答える。
「愚か者どもめ。魔導士が喧嘩に弱いなんて誰が決めた?」
「だったらァ! い……以前はどうして!」
「最初に言っただろ? 『殴らせてやった』と」
「な、殴らせてやっただと……?」
「あの時は貴様らに少し厳しくいいすぎたと俺様も反省したんだ。だからせめてもの詫びに抵抗しなかっただけだ」
三人組が愕然としている。
「そ……そんな! 信じられるかァ! なにか魔法を使ったんだろォ!」
その時だ。背後から聞き慣れた軽薄な声が響いてくる。
「いやいや、レヴィンは普通に強いよ」
栗毛の幼馴染である。
「嫌になるだろ? 魔導士のくせにそこらへんの前衛職なんからより余裕で強いんだからさ」
石畳に這いつくばる三人組をダンテが
「
ダンテが三流舞台俳優のように大げさに首を振る。
「これに懲りたらレヴィンには関わらないことさ。お前たちじゃ永遠に敵わない。それでもやろうってんなら――」
瞬間、栗毛の長身青年が剣呑に目を細める。
「——このダンテ・ダンテリオンを敵に回すことになるよ?」
ダンテの名を耳にした途端、三人が血相を変える。無理もない。ダンテはアカデミー最強パーティーのリーダーだからだ。
「貴様ら命拾いしたな。俺様だからその程度の痛みで済んでるんだ。ダンテが相手だったらどうなってたことか」
レヴィンがやれやれと肩をすくめる。精神的にも完膚なきまで叩きのめされた三人はそれ以降一言も発しなかった。
◆◇◆◇◆
レヴィンたちが表通りに戻るのと同時だ。泣きぼくろが特徴的な黒髪の彼女がタックルする勢いでレヴィンに抱きついてくる。
「さすがわたしのレヴィン! 惚れなおしたよ!」
「こら。いつ俺様が貴様のモノになった?」
「少なくとも今はわたしのモノでしょ?」
ジュリアンが微笑みながらダンテに視線を向ける。
一瞬にしてレヴィンの反論は封じられる。
「くそったれ……なんてしたたかな女だ」
「男の子の振りをして冒険者をしている人間がしたたかでないとでも?」
ジュリアンに悪びれた様子はない。それどころか彼女は嬉しそうに先ほどよりさらに深く密着してくる。
「ねえ、知ってるレヴィン――アカデミーの女の子ってみんな自分より強い男の人が好きなんだよ?」
黒髪の彼女は怖いくらい満面の笑みを浮かべる。白髪青年の背筋が寒くなったのは言うまでもない。まるで首筋に刃を突き付けられている気分だ。
(もしかして俺はとんでもないやつの秘密を知ってしまったんじゃないのか……)
レヴィンはため息交じりに空を見上げる。
頭上には白髪青年のどんよりとした胸中とは真逆の雲ひとつない爽やかな青空が広がっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます