第19話 JOB【詐欺師】

 ダンテ・ダンデリオンがトレードマークのにやけ面を引っさげてやって来る。そして、その傍らには見覚えのある褐色の女性が控えている。


「貴様は『白熊亭しろくまてい』のメイドか?」


「はい。レヴィンさん。毎度ご利用ありがとうございまーす」

 褐色の彼女はスカートの裾を摘まんで愛嬌たっぷりにお辞儀してみせる。


「彼女はキャロル・キャンベル。僕のガールフレンドだ」


 栗毛の幼馴染は『驚いた?』と言わんばかりのしたり顔である。しかし、レヴィンは眉一つ動かさない。昔から会うたびに隣の女性が変化するこの優男ならアカデミーの教師と付き合っていたとしても驚かない自信がある。


「……いや、実際に付き合っていた時期もあったか」


「キャロは来学期にアカデミーに入学する予定だ。僕らの後輩だね。仲良くしてあげてくれ」

「今は白熊亭で働きながら冒険者の皆さんからダンジョンについて学んでます」

 ジュリアンが胸元でぱちんと手を合わせる。

「それは素晴らしいわ。冒険者の生の声からは教科書では学べない最新の知識が得られるもの」

「初めまして! 私のことはキャロと呼んでください!」

 キャロがジュリアンにお辞儀する。

「初めましてキャロちゃん。わたしはジュリアン・ジェイルハート。気安くジュジュと呼んでくれると嬉しい」

「はい。ジュジュさん」

「ん? ジェイルハート?」

 目敏いダンテが反応する。


「あ! その泣きぼくろ! ひょっとしてジュジュはジルの関係者かい!?」


「ダンテ! とっととオススメのカフェとやらに移動するぞ」

 レヴィンが慌てて会話をさえぎる。深掘りされればボロがでるかもしれないと恐れたからだ。しかし、黒髪の彼女は大丈夫だとばかりに片目をつむっみせる。


「はい。ジルは私の兄です」


「きゃー! ジュジュさん! あのジル様の妹なんですか! すごい! 私の友だちにもジル様たちのファンがたくさんいます!」

 褐色の少女が飛び跳ねて興奮している。

「そうかようやく謎が解けたよ。レヴィンが突然アカデミーの有名人ジル・ジェイルハートのパーティーにスカウトされたのは妹の君との縁があったからか」

「はい。優秀な灰色魔導士グレーメイジがいるとレヴィンを紹介しました」

 レヴィンは内心で唸る。


(こいつ考えたな……俺がジルより先にジュリアンと出会っていたことにしたか)


「それにしても……ジルに妹がいたなんてアカデミーの連中が知ったらさぞ驚くだろうね」

 直後、ジュリアンが弱々しく長いまつ毛を伏せる。


「その、実は兄妹だってことは内緒にしてるんです……わたしは兄と違って弱気で臆病な性格なので注目されると委縮いしゅくしてしまって……」


 それは『嘘の中のひとつまみの真実』というやつだろう。彼女の言葉がすべて嘘だとはレヴィンには思えなかった。

「僕にもわかるよその気持ち。身近な人間が優秀だと肩身が狭いよね」

「なんだダンテ? 俺様に文句でもあるのか?」

「おーけー。わかった。この件は僕たちだけの秘密だ」

「はい。ダンテさん」

 ダンテはレヴィンを無視してとキャロと頷き合う。

「じゃあカフェに移動しようか。付いて来て」

 そうしてダンテがさも当然であるかのようにキャロと手を繋いで歩き始める。すると、ジュリアンが戦闘開始だとばかりに細腕をレヴィンの腕に絡めてくる。

「わたしたちも行こう」

 前方のカップルへの対抗心だろうか。白い胸元の形が変わるほどにぐいっと身を寄せてくる。お陰で周囲の男性たちからの敵視ヘイトがレヴィンに突き刺さる。

「くっつくな。馴れ馴れしいやつめ」

「くっつよ。恋人同士なんだから」

 引きはがそうとするが、相変わらず彼女はビクともしない。

「貴様のジョブは【詐欺師コンフィデンスマン】の間違いじゃないのか? よくもあんな嘘がペラペラと出てくるもんだ」


「当然でしょ? ダンテくんって鋭そうだから嘘がバレないように事前に対策くらい立てておくって。レヴィンは真っ向勝負の嘘をつけないタイプだから、わたしが頑張るしかないでしょ?」

 

 レヴィンの嫌味は彼女のど正論に木っ端みじんに打ち砕かれる。ぐうの音も出ないとはこのことだった。

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