第11話 捨てる馬鹿あれば拾う馬鹿あり
それはレヴィンが王立冒険者アカデミーに入学して半年ほど過ぎた頃だった――。
「こんなパーティーやめてやる! 貴様らのような程度の低い冒険者とはこれ以上やってられん!」
ダンジョン攻略終わりの冒険者で賑わう大衆食堂『白熊亭』の片隅で、白髪青年はジョッキの底をテーブルに激しく叩きつける。
「お前のような
「俺たちの背後からちまちまと強化魔法アビを使ってるだけのくせしてでかい顔しやがって!」
「前線で身体張ってる俺たち前衛ジョブの単なるサポート役でしかない
テーブルを囲むパーティーメンバーが溜まり溜まった
「なに笑ってんだッ!」
「これが笑わずにいられるか! 『背後からちまちまと強化魔法アビを使ってる』だと『単なるサポート役でしかない』だと? 馬鹿すぎて腹がよじれる! 永遠に低階層であがいてろ三流どもが!」
レヴィンは当てつけるように
雨がぽつぽつと降り始める。しかし、激しい身体の痛みに地面に這いつくばったまま身動きが取れない。
雨粒に打たれながらレヴィンは小さく笑う。
「実にありがたい……貴重な人生の時間を見込みのない馬鹿どもにこれ以上浪費されずにすむ」
多少の強がりはあるが、紛れもない本心だ。事実、見た目こそボロ雑巾の白髪青年だが、心は秋空のように澄み切っている。
レヴィンはごろりと仰向けになる。
「うぐっ、くそったれ……」
ただし痛いものは痛い。
(この半年で何度目だ? 俺がパーティーを脱退するのは?)
多すぎていちいち覚えちゃいない。
幼馴染の栗毛からは、
『レヴィンは理想が高すぎるんだ。少しは妥協しなよ』
そう毎回のようにたしなめらている。だから、白髪青年は毎回、
『それのなにが悪い?』
そう憮然と返している。
冒険者の遥か頂きを、より強大な魔物の討伐を、誰もがまだ見ぬ未知なる領域の踏破を、そうした高い理想をレヴィンは掲げているのだ。
「パーティーメンバーが理想的でなければ成し遂げられるはずがないだろ」
レヴィンに理想を死んでも譲る気はない。その
(もっとも両親と同じ景色を見たところで、なにを得られるのか俺にもよく分かっちゃいないが……)
きっと理由なんてなんだって良かったのだ。両親を失った孤独を埋めるために夢中になれることが、幼いレヴィンには必要だったのだ。
しかし、理想を追い求めるのも結構だが、そろそろどこかに腰を落ち着けなければ非常に不味い状況ではある。
『もしまたパーティーメンバーとトラブルを起こすようなら、レヴィアント君には冒険者としての資質なしと判断してアカデミーを去ってもらうことになる』
学園長から最後通告を受けているからだ。
ソロ性能に乏しい
(くそ……どうしたものか。妥協する気はさらさらないが、それでは同じことの繰り返しだ……)
ジレンマである。その時だ。何者かがずぶ濡れのレヴィンに傘を差しだしてくる。
「――やあ。初めまして。レヴィン・レヴィアント」
見上げると、泣きぼくろが特徴的な黒髪のイケメンが朝焼けのような爽やかな笑顔を浮かべて立っていた。
「ロイス。彼のことを回復してあげてくれ」
「ぼくに感謝してくださいね〈ヒール〉」
小生意気そうな
「立てるかい?」
金髪眼帯エルフのイケメンがダンスにでも誘ってくるかのように優雅に手を差し出してくる。だからレヴィンはその手を無視して自力で立ち上がる。
「……アカデミーで大人気の三人組が俺様になんの用だ?」
三者三様のイケメンをじろりと睨みつける。
彼らはの女子学生から『
レヴィンは彼らと同期だが一度も言葉を交わしたことはない。そんな住む世界の違う住人から突然話しかけられて警戒するなというのは無理だった。
おそらくこいつがリーダーなのだろう。黒髪のイケメンが代表して答える。
「オレたちは君をスカウトしに来た! レヴィン! オレたちと一緒に最強のダンジョンパーティーを目指そう!」
これがジル・ジェイルハートたちとの出会いだった。
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