第5話 ジル・ジェイルハート
黒髪イケメン青年は白い歯を光らせ見慣れた爽やかな笑顔で言う。
「やあ! レヴィン・レヴィアント! こんな夜更けになんの用だい?」
いくらなんでも叫ばずにはいられない。
「無理無理ぃ! それはさすがに無理がある!」
この一連の流れをなかったことにできるはずがない。
だが、往生際が悪いことにジルは「な、なんのことだいレヴィン?」とひきつった笑顔を浮かべている。
「諦めろジル。いいから俺様の上から
そうレヴィンがあごをしゃくると、観念したのか彼は意気消沈してベッドの端っこで
常に凛々しい黒髪イケメン
ジルは震える両手で顔を覆い臆病な少女のようなか細い声を絞り出す。
「ハァ……もう……終わりだ……」
あまりに悲惨な状況に遠慮を知らない白髪青年でさえかける言葉が見つからない。そもそも衝撃の事実に
(要するにこれは、ジルは本当は女だったってことだよな……?)
理由は分からないがジルは『実は女性』で、この落ち込みようから察するにその事実を『誰にも知られるわけにはいかなかった』ということだろう。
いや、だが待て。レヴィンさえ黙っていれば問題はないのではないだろうか。
「ジル、その、貴様が『実は女』だったという事実だが――」
その時だ。再び黒髪イケメン青年が弱々しい声を絞り出す。
「もう……お嫁にいけない」
「——は?」
「だって! 男の子に裸を見られたんだよ? 恥ずかしいところも見られたんだよ? もう終わりだよ……」
「そっちか! まずは俺様に女だってバレたことを心配しろ!」
「それもショックだけど……レヴィンに全部を見られたことがわたしにとってはすごくショックなんだ!」
「やめろ! めそめそすんな! ジルの姿で情けない声を漏らすな! 調子が狂うだろ!」
普段のジル・ジェイルハートとのギャップに違和感が半端ない。
「それと、その半分裸みたいな恰好もどうにかしたらどうだ? 俺様に裸を見られたくないんだろ?」
「え? 別に今は男の子の姿だから裸を見られても平気だけど?」
「黙れ! さっさと服を着て来い!」
レヴィンにどやされジルはそそくさと部屋の奥へと消えてゆく。
「くそったれ……なんだこの状況は……」
レヴィンは天井を仰ぐ。訳が分からない。だんだんと頭が痛くなってきた。ところが、白髪青年はさらに頭を抱えることとなる。
服を着て戻って来たジルが先ほどの若い女性の姿をしていたからだ。
「なぜだ!」
「だってレヴィン! ジルの姿でめそめそするなってさっき怒ったから……ダメなら指輪するけど?」
「あー、もういい。好きにしろ」
帰りたくなってきた。しかし、このまま帰れるはずがない。
「ジル、さっきの続きだが、貴様が実は女だったという事実を見なかったことにしてやってもいいぞ?」
「本当に……?」
「ただし! どうして『男の振りをしているのか』その理由を聞かせろ! その内容次第だ!」
女ジルは「うん。分かった……」と小さく頷くと、長いまつ毛を伏せておもむろに語り始める。
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