第3話 理想と現実

「いいから俺様の話を聞け!」

「さっきからずっと聞いてるじゃん」

「最大の問題は! やつらがイケメンすぎて俺様に実害が及んでいるという点だ!」

「実害? 例えば?」


 レヴィンが手を組み鋭い目をさらに細める。


「……時にダンテよ。貴様はイケメンどものファン数十人から校舎裏に呼び出されて『あなたのような地味な冒険者はジル様たちのパーティーに相応しくないわ!』と『不釣り合いですからパーティーを脱退してくださらない?』と詰め寄られた経験はあるか――?」


「こっわ! 熱狂的なファンこっわ!」 

「信じられるか? やつらは『Favorite3フェイバリットスリー』なんて呼ばれてダンジョンの出入り口に出待ちのファンがいるんだぞ?」

「通称『F3エフスリー』ね。あのイケメン三人組、学生なのにすでにトップクラスのダンジョン配信者並の人気だよね」 


「毎回その狂信的なファンどもから『まだやめないんですか?』という無数のナイフのような視線にめった刺しにされる気持ちが分かるか?」


「うわー、それはキツイね」

「いつもなら雑魚の戯言ざれごとなど余裕で無視する俺様だが、この状況にはいい加減うんざりしてる」

「いつもなら自業自得としか思わなけど、今回は珍しくレヴィンに同情するよ」


 想像してダンテは身震いしている。


「さすが女性絡みのトラブルが少なくない優男は話が早いな。もちろん皮肉だ」

「そうそう。モテる男は辛いんだよねえ」

 ダンテ・ダンデリオンはどこ吹く風の余裕の態度だ。昔からこういう男である。


「そもそもだ! 俺様はこのダンジョン攻略配信ブームなどという浮かれた風潮をこころよく思っていない!」


 三度みたび、レヴィンがジョッキの底でテーブルを叩く。見かねたメイドが「レヴィンさん没収でーす」とジョッキをするりと奪ってゆく。



「冒険者とは未踏の階層というロマンを求める夢追い人ではないのか? より強大な魔物との戦いを欲してやまないたけき者ではないのか? レベルアップに命をして人間の限界を超えんとする修験者しゅげんしゃではないのか? 少なくとも、俺にとって冒険者とはダンジョンにストイックに挑む気高き者たちなのだ!」



「確かに一昔前の冒険者はそうだったかもしれない。けど、時代は変わったんだよレヴィン。これは僕たち末端の冒険者にはどうこうできない大きな流れさ。だったらこのビッグウェーブに上手く乗るのが賢いやり方ってやつでしょ?」


 栗毛の幼馴染は薄切りのサラミをぽいっと空中に放り投げて口元でパクリとキャッチする。


「ふん。日和見ひよりみな奴め」

「フレキシブルだと言ってよね」


 レヴィンが吐き捨てるのにダンテはひどく楽しげである。幼馴染の二人にとって遠慮のないやり取りは平穏な日常の象徴だった。


「悪いが俺は貴様のようには割り切れん。もう我慢の限界だ」

 レヴィンは勢いよくマントをはためかせて席を立つ。

「え? もしかして今からパーティーを脱退するってリーダーの『ジル』に言いに行くわけ? こんな夜更けに? 可哀そうじゃん。明日にしたら?」


「ふざけるな! 可哀そうなのは俺様だ! 今から行く! 今日限りでイケメンたちとそれを取り巻く馬鹿なファンどもとはおさらばだ!」


 そうレヴィン・レヴィアントは鼻息荒く食堂を出てゆくのである。

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