第7話 学校の中で二人だけ その3

「まあ、飛鳥田がどうしてもっていうなら?」

「素直じゃないなぁ」

「だから、私はめんどくさいんだってば」

「違うよー、怒んないで。わたしは佑果ちゃんのそういうところが好きで一緒にいたいんだから」


 私よりずっと背の低い飛鳥田が、私の顔を覗き込む。

 飛鳥田の瞳に映る私自身を見ていると、些細なイラつきなんて吹き飛んでしまう。


 そうこうしているうちに、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。


「あっ」

「どうしたの?」


 飛鳥田が半泣きになりそうな顔をしているのが気になった。


「わたし……お昼ごはん食べそびれた……」


 飛鳥田としては、屋上の見回りを軽く終わらせてからお昼にするつもりだったみたい。


「ふつう忘れる?」

「だって、佑果ちゃんと仲良くなろうってことしか頭になかったんだもん」


 そんなセリフ、私なら視線をそらさないと言えないぞ。よく真顔で言えたもんだ。

 本心かどうかはさておき、私は飛鳥田みたいにこんなまっすぐな言い方なんてできそうにない。


 さっさと話題を変えてしまわないと。


「そういえば、屋上の見回り仕事はもういいの? 浄樹島はワシのもんじゃ、みたいにドヤっただけでなにもしてないように見えたけど」

「…………」

「なんか言いなよ」


 ペ◯ちゃんみたいな顔をして誤魔化そうとする飛鳥田を前にして、私は、この生徒会長は案外抜けているヒトなんじゃないかと思ってしまう。


「いいの。佑果ちゃんに出会えたから、それが今日の一番の大仕事」

「私をごまかしのダシにするのはやめてくれる?」

「ほら、この向こうの景色を見て。仕事しそびれたことを黙っててくれたら、この島の半分を佑果ちゃんにあげる」

「あんたのものじゃないでしょ」

「じゃあ、わたしの半分、佑果ちゃんいる?」


 ふっくら大きく盛り上がった胸……じゃなくて、心臓があるところを指差す飛鳥田。


「なんか重いからいらない」


 飛鳥田の半分をもらったとしたら、いったい私のために何をしてくれるのだろうという興味は湧くけれど、あとが怖いからやめる。


「買収に応じないなんて、佑果ちゃんったら心がキレイなんだから。そろそろ授業始まっちゃうし、早く行こ。見た感じ、屋上はキレイだし、別に整備不良っぽいところもないから大丈夫だよ。ここに来た時にはもうわたしの仕事は終わってたんだよね」


 そんなんでいいのか、と思えるくらいいい加減なところのある生徒会長だ。


 けれど、初対面では見た目が良い上に不思議なところがある相手で、どこか浮世離れした感じがあって、親しみを感じにくいところがあったのだけれど、こうして隙を見せてくれるようになったことで、私の警戒は確実に甘くなってしまっているのだった。

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