第4話 初めての出会いは踊り場 その3
「あのさ、お昼ごはんの心配よりも、今は仕事の方に頭切り替えた方がいいんじゃない?」
私は、これ以上大事なエネルギー源を奪われてしまう前に、急いでお弁当の残りをかっこむ。
「屋上。不備がないかチェックする仕事あるんでしょ?」
すると飛鳥田は、あっ、って顔をした。
まさか、忘れてたんじゃ。
「ワスレテタワケジャナイヨー」
「忘れてたんじゃん……ほら、怒られないうちに早く仕事済ませちゃいな。まだ間に合うでしょ」
「佑果ちゃんがお昼食べ終わったらちゃんと行くつもりだったよ。待ってただけだもん。ほら、行こ」
「ちょっ」
飛鳥田の手が、私の指を包むように触れた。
ひんやりしていて、柔らかい。
飛鳥田からそんな感触が伝わるだけで、私は背中に力が入らなくなりそうになった。
「いいでしょ。わたしだって、一人で見るより誰かと一緒の方がいいもん」
そっちは仕事で来てるだけでしょ。
とは、言い返せなかった。
誰かと一緒がいい、なんてフレーズが、ぼっちには効いたのかもしれない。
クラスメイトから誘われたことは何度もあるのだが、あくまで『恋人がいない草摩佑果に恋人ができるよう色々手伝ってあげちゃおう』なんて下心があってのお誘いだ。
けれど飛鳥田は、この学校の人間が二言目にすぐ口にするような、恋人がうんぬんなんて話をしなかった。
それだけで、他のみんなと違うと信用してしまうのは、飛鳥田のことを買いかぶり過ぎだろうか。
単純に、屋上がどうなっているのか興味はあったわけだし、私は飛鳥田に付き合うことにした。
「佑果ちゃんの新しい扉、開けちゃうよ」
意気揚々と、マスターキーを手にした飛鳥田が鍵穴に鍵をさす。
ガキン、という鈍い音がした。
解錠失敗してんじゃねーか。
「ごめんごめん、これじゃなかったみたい。こっち、絶対こっち」
だが、次も失敗。
三度目の正直でトライしても失敗しやがる。
飛鳥田は解錠に手間取っていた。
リングにぶら下がっている鍵を穴に突っ込んでは、これじゃない、と騒いでいる。
「あれ。おかしいなぁ、どの鍵が屋上のだっけ?」
「……貸して」
見かねた私は、飛鳥田からマスターキーをひったくる。
私には、謎の運の良さがあって、この手の総当りになった時は無類の的中率を発揮する。
案の定、一回目のトライで鍵が開いた。
「わ、佑果ちゃんすごい!」
「まあこんなクッソどうでもいいところで私は運を使い果たしちゃうんだろうね」
私はドアノブに手をかける。
いつのまにか、飛鳥田が空いている私の手をつかんでいた。
なんで二人一緒に新たなステージに飛び込んじゃおなんてノリになってんの。
ただ、開けた扉からは、真昼の太陽の光が眩しいくらい差し込んできて、真っ白な光に包まれた私はなんだか全身を浄化されたような気分になるのだった。
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