第2話 正義の在り方②
聖都より南西に位地する国、レジストウェル。
10代前半くらいの幼き少女。
魔法が栄えた国、
魔法に特化されたその国は、全ての生活、社会に置いて、
魔法が基本とされているほどだ。
レジストウェルの国の中でも、
三大勢力に入る名家……
ミクニ、ナナイ、キルフィードの三家。
その幼き少女はその中のキルフィード家に当たる少女。
この先ある神奪戦争のためにキルフィード家が手にした召喚石。
過去、未来……平行世界から、その召喚者に相応しい英雄を呼び寄せる。
もちろん、そんな大事な石を彼女が使って言い訳は無かった。
家庭の中でもそれなりに優れているのは誰もが自覚している。
それでも、今回彼女がそれに参加するというのはやはり誰もが認めない。
しかし、そんな
だから……彼女は決行した。
自分がこの戦争に参加し……そして呼び出した英雄とその勝利をレジストウェルの歴史に刻む人間になると……
「召喚のやり方は覚えた」
キルフィード家の少女は呟く。
描いた魔法陣の中央に召喚石を備える。
少しだけ恐怖を覚えるが、手にした刃物で右の手のひらに軽く斬りつけると、
その流れ出た生血を魔法陣へ注いでいく。
「満たせ……そして我が声を聞き入れよ」
キルフィード家の少女がそう呟くと、魔法陣は眩く光輝き、強い衝撃と共にその小さい身体は魔法陣の外に投げ出され、尻餅をつくようにその輝く魔法陣を眺めた。
「……なるほど、これはまた奇妙な場所に出た」
現れた男は軽くきょろきょろと周りを見渡し、何か理解するようにゆっくりと少女の方を見る。
「お嬢ちゃん、僕をここに呼んだのは君か?」
そして、現れた男がキルフィード家の少女に言う。
自分よりかは年上だろう……が、20代前半くらいだろうか……
外見の雰囲気はそれよりも少し幼くも見えるが……
青い髪、首には少しぼろぼろの紫色のマフラーを巻いている。
「き、貴様が……本当に英雄なのか?」
そう……違和感だらけの目の前の男に尋ねる。
「あの人にはまだ遠く及ばない……それでも……」
「君は僕を使い、この戦争に勝ち抜いてまで何を願う?」
そう……目の前の男がキルフィード家の少女に問う。
「我は我が召喚する最強の召喚されし者を利用し、この
そうキルフィード家の少女が言う。
「なるほど……それが、僕が君に召喚される因果というものか」
目の前の男は一人理解するように笑いながら、
「まて……貴様、本当に英雄なのか?」
そう少女は戸惑いを隠せない。
「どうした、自分の召喚した人間を信じられないのか?」
そう男は返す。
「……貴様から魔力が一切感じられない」
その戸惑いの理由を少女が明かす。
「そうだね……僕は魔力0の落ちこぼれだ……そしてそれ故に魔術師なんてものは全て駆逐してみせる」
そう……目が力強く語る。
目の前の身丈に匹敵するランスを持ち上げると自分の右肩に乗せる。
ランスの柄の部分からはジャラジャラと鎖が伸びていて、男の右手に巻きつけられている。
あのひょろりとした体系……魔力の無い身体であれだけの大きさの武器を軽々しく扱っていることが信じられなかった。
「まて……我の質問に答えよ、貴様は我に相応しい英雄なのか?」
その問いに……
「この先の未来で、この国に名を残す英雄だよ」
魔力0の男はそれでも自信満々に言う。
魔力の供給を必要としない……せいぜい、彼をこの世界に繋ぎ止めるのに必要な魔力を提供するくらいだ……
自分との相性は最悪ではないか……と少女は思うが……
「レシル=キルフィード……我の名だ」
そうキルフィードの少女は名乗る。
「エヌとでも名乗っておこう……僕の名を歴史に残すのはもっと先だからね」
そう男は一人謎めいた事を残しその名を名乗る。
・
・
・
聖都より遥か北に位置する最果ての町と呼ばれる場所。
金髪の少年が一人、最果てにある泉を眺めている。
「マイト……どうしたの?」
マイトと呼ばれた金髪の彼を探していただろう、同じ金髪の女性が声をかける。
「……リタ?」
そう、振り返りその女性の名を呼ぶ。
神奪戦争……それに選ばれることができた。
誰もが俺に期待した……そしてそれに答えることができた。
……良かったじゃないか。
手が震えている……
ただ、ひたすら……皆が望む誰かになろうと思った。
ただ……寄せられる期待に答えようと努力してきた。
辿り着いたんだ……間に合ったんだ。
恐れることはない……神が認める、俺はそんな一人になったんだ。
勝手に期待して……勝手に期待されて……勝手に期待に答えて……
勝手にその期待が失望に変わることに恐怖する。
「リタ、俺……勝利を持ち帰るから……俺……英雄になるから……だから……」
ずっと側に居てくれ……
ずっと俺を支えてくれ……
「うん……私は貴方のモノだから……そう
そう繰り返す。
その時は全部、全部……その言葉も俺への期待の言葉だと思った。
思った……信じていた。
その期待の先に……俺の求める見返りがあるのだと……信じていた。
だから……期待に答えようと思った。
その彼女の温もりも本物なんだと……期待に答えられた事で俺に与えられたのだと……
正義とは何か……?
リタや……村の皆の役に立つことだろ……
役に立つ……リタや皆の期待に答える……
期待に答えるために……俺は強くなくてはならない……
期待を成す力こそ正義の象徴だ。
強くなった……神にも認められ……期待をされた……俺は正義になれたんだ。
後は
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・
聖都より北西に位置する国。
ベレッドギア……
レジストウェルとは違い、魔法より科学の発展した国。
そこに住む一人の大商人。
セリシド=マッジーナ
世界を周り、世界のあらゆる武器を集めて周り、またそれらを売り買いし生きる、大商人。
そんな大商人のセリシドがベレッドギアに構える彼の店。
彼自身が、世界を巡り珍しい武器、魔装具と呼ばれる魔力を秘めた武器を求めその店を留守にすることはほとんどだったが……
「勝手に店の物に触るなと言っているだろ」
そうセリシドは自分より10歳くらい年の差がありそうな15歳前後の少女に向かって言う。
「自分の商売道具、それを見て悪いのかにゃ?」
少女は手馴れた手つきで拳銃を分解してその手入れをしている。
数日前にとある闇市場で買った少女。
物心付くころから殺し屋として育てられてきた少女。
争い、殺し合いが平常な世界。
そんな場所だ、セリシド、彼も人の命を殺めたことくらいはある。
だが、恐らくそんな目の前の少女は、そんな彼よりもその経験が多いのだろう。
「それは、売り物で……俺のものだよ、ハレ」
そうセリシドが少女の名を呼ぶ。
「知ってるにゃ、でも、お前があたしを買った理由って、これで人を殺せってことだろ?」
そうハレと呼ばれた少女は問う。
殺し屋としての少女を買った。
それは……普通は、彼女の言うとおりなのだろう。
「それともあれかにゃ、お前さんはそういう性癖かにゃ?ロリコンかにゃ?」
そうハレは悪戯にセリシドに笑いかける。
「なるほど……考えもしなかったが、俺は年頃の女に興味を示したことが無かったんだ……ハレ、俺はそういう事なのか?」
そうセリシドは左手にパーをつくり、その上に右手でつくったグーを作った拳を乗せる。
「聞いているのはこっちにゃ、今日は頼むからそれ以上近づくにゃ、思わず引き金をひいてしまうにゃ」
呆れた表情でハレはそうセリシドの問いに答える。
「しかし、不思議にゃ、お前さんがそんなに強いとは思えない……本当にお前さんが神奪戦争に……神に選ばれた一人なのか?」
そうハレが尋ねる。
「みたいだね……」
他人事のようにセリシドは返す。
「とても、あたしよりつえーとは思えないけど」
そう、疑いの目を向ける。
「ハレ……最強の人間って世界の誰よりも何が優れた者がなれると思う?」
そうセリシドが返す。
「そんなもの、力だろ?」
他に何があると言うのか……
「……確かにね、でもね……俺はここだと思うよ」
トントンと右の人差し指で自分のこめかみあたりを叩く。
「人が生物に頂点に立った……その理由がそこにある、だったら人の頂点に立つのもやはり、それが優れている人間なんだ」
そうセリシドが不適な笑みで答える。
「……まぁ、だとしても……
さらりとハレが返す。
「まぁね……そして、力も知識も手に入れられるもの……そんな絶対的な力があるんだ」
そうセリシドが言う。
「これだよ」
セリシドが親指と人差し指で円を作る。
「科学により発展するあらゆる
セリシドはそう答える。
「にゃるほどにゃ……わかんないけど」
そうハレは返す。
「それにそんな、世界に散らばるあらゆる
セリシドは不適な笑みで……
「どんな強者でもその
彼はその後何を言おうとしたのか……
その時の少女は思ったのだろうか……
これが、一つの物語だとしたら……それはどんな結末を迎えるのか。
それが……自分の未来にどんな影響を与えるのか。
人を殺す事だけをうえつけられた。
それ以外の
誰かを殺める方法だけを教えられた。
それ以外の
金の話をする大人は……全て汚いモノだと思っていた。
ただ、そんな彼が目の前に現れ、買われ……
それは彼の
それでも……何かが変わった気がした。
なぜ……彼女を買ったのか、その経緯など覚えていない。
俺の目の前に……彼女が映って……
例えばそんな
そんな
そんな物語の
今は……まだ、そんな彼女を立派な大人になるまで、その腕を引いてやる。
そんなつもりで居たのかもしれない。
・
・
・
場所はリゼズトハイネルへと戻る。
「グレイ=ケイフェル……その命を貰う」
30代後半と思われる男性に、一人の青年がそう言って手をかざす。
かなりの高度な魔法が放たれるが……
それがグレイと呼ばれる男の目の前でかき消される。
グレイと呼ばれる男がそれを防いだわけではない。
その後ろにもう一人の男がいる。
「セイルっ……なぜお前がここに?」
そう呼ばれるもう一人の男。
イシュトと同じくらい……18歳前後と思われる。
うつむいていた顔を起こす。
瞑っていた目を開く。
赤と青の瞳……オッドアイと呼ばれる目。
実際に見るのはこの男が始めて……
それも作られたもの。
作られた本物。
「お前は、神奪戦争でこの国を離れていたはず……」
そう青年がセイルと呼んだ男に言うが……
「……俺がここを離れていると誰に聞いた?誰の差し金だっ」
そうセイルは青年に問う。
「黙れ……邪魔をするなら貴様ごと」
そう青年は叫ぶが……
セイルは左手で左目を覆う。
右の赤い瞳で青年を見る。
「写せ……そして示せ……これは神をも斬る一撃だ」
セイルはそう言葉を放つと、その瞳が見える何かを切り裂くように手にした短剣を動かす。
何が起きたのか……目の前の青年は真っ二つに裂けた。
「助かった……」
グレイと呼ばれる男はそうセイルの方を見ず言葉を贈る。
「いえ……この程度、しかし……この男……聖騎士隊長の部下では……」
そうセイルが自分が葬った死骸を見て言う。
「聖騎士……隊長?リーシアか?」
そうグレイがぼそりと呟く。
「……わかりませんが、警戒し探りを入れるべきかと」
そうセイルがグレイに助言する。
別の一室。
金髪の女性が一人、明かりもつけない真っ暗な部屋に佇む。
「
真っ暗な部屋……その窓からどこか遠くを見る。
「この世界は余りにも残酷だ……世界は
「私はどんな言葉を君に贈れば……世界を変えられる?その
その決意の目はどこか悲しそうで……
「そんな愚かな理由で……部下一人を犠牲にして……私は何を捧げると言うのだろうな……」
そう自分の言葉に失笑する。
「君が私の前に現れた……あの日から本物も偽者も関係が無い……全てが
どうか……どうかこの声が……君に届くまでは……
生きて……醜く生きて……君に捧げよう。
私は君の……
それでも……
神に選ばれた7名。
そして、何度目にあたるのか……神奪戦争は開催される。
その行く末は神と勝者だけが知る。
ゆっくりとその争いの狼煙はあげられた。
神ノイルセカイ first world Mです。 @Mdesu
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