男一徹 力愛不二

kou

第1話 青春時代

 少年は思った。

 あの頃は、良かったと。

 そう、少年にとっての青春時代は――

 柔道をしていた時。

「一本、それまで!」

 審判の言葉と共に、歓声と拍手が会場中に巻き起こった。

 面積2830㎡、主要人数5050人の総合体育施設。

 会場の中央で少年は、立ったままLED高天井照明器具の光が降り注ぐ天井を見上げていた。

 観客席の人々の視線を一点に集めている。

 全身の筋肉で消費された酸素は二酸化炭素となり、それを抜くように、田麦たむぎ一徹いってつは、ふぅーっと息を吐く。

 対戦相手は悔しそうにし、畳に涙を落としていた。

 二人は元の位置に戻り、審判は一徹の勝利を宣言した。

 すると、会場からは、またもや大きな歓声が上がった。

 全国中学校柔道大会・男子個人戦66kg級優勝の瞬間だった。

 一徹は表彰されトロフィーを受け取った後、観客席にいる両親の元へ行った。

 母親は涙を流しながら息子の勝利を称えた。

 そして母親と父親は言った。

 おめでとう!

 一徹。お前は日本一だ!

 その言葉を聞いた途端、一徹の目から涙が溢れ出した。

 嬉しかったのだ。

 自分が認められた気がしたからだ。

 一徹は今の今まで、心のどこかで思っていた。

 自分は強いのか?

 本当に一番なのか?

 運が良いだけではないのか?

 そんな風に様々な疑問が一徹を悩ませてきた。

 この程度の実力しかない、自分と同じ人間なんて沢山いるのではないか。

 そんな不安があった。

 だが今、こうして勝ったことでようやく実感できた。

 自分は間違いなく強かったんだ。

 一徹は、強さに自信を持っていた。

 思えば、この時が人生における最高の瞬間だった。

 そして、一徹は喧嘩で負けた。

 街中で不良にイチャモンをつけられたのが、喧嘩の切欠だった。

 そして、逆にボコられた。

 相手の服を掴む前に、パンチが顔面を襲った。

 初めて受けた攻撃だ。

 柔道では、打撃など反則だ。

 だからと言って、引き下がれずに、何度も挑んだ。

 それでも勝てなかった。

 やがて一徹の心には、敗北感だけが残った。

 自分が弱かったことを知った。

 もう、柔道はできないと思った。

 それなのに…………。

 どうして俺は、まだ立っている!?

 どうして俺は、まだ戦っている!?

 どうして俺は、まだ生きている!?

 一徹は理解できなかった。

 自分の心の変化が分からなかった。

 ただ一つ言えることは、今の自分に満足していないということだけだ。

 一徹は、もう一度戦うことを決めた。

 それは生きるためではなく、強くなるために。

 今度は勝つための手段を選ぶつもりはない。

 卑怯でも何でもいい。

 必ず勝ってみせる。

 そのためなら何だってやってやる。

 たとえそれが、どんな代償を払うことになったとしても――。

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