阿保扱説明書

Idiot Instruction Manual

　この説明書（せつめいしょ）を読（よ）んでいるという事（こと）は、あなたは第一関門（だいいちかんもん）である『箱（はこ）の開封（かいふう）』に成功（せいこう）した訳（わけ）です。おめでとうございます。すんなり綺麗（きれい）に開（あ）けられましたか？　どこからどう開（あ）けて良（い）いのかが解（わか）からず箱（はこ）を乱暴（らんぼう）に破（やぶ）ったりしていませんか？　取（と）り敢（あ）えず貴方（あなた）は人類（じんるい）の端（はし）くれとして認（みと）められました。おめでとうございます。しかし、図（ず）に乗（の）らないで下（くだ）さい。まだまだ道程（みちのり）は長（なが）いのです。

　説明書（せつめいしょ）をろくすっぽ読（よ）まないくせにクレームだけは一人前（いちにんまえ）みたいな消費者（しょうひしゃ）が多（おお）い昨今（さっこん）です。電源（でんげん）コードをプラグに差（さ）し込（こ）んでいないにも拘（かかわ）わらず電源（でんげん）が入（は）らないと騒（さわ）ぎ立（た）てる事（こと）のないよう、しっかりと本説明書（ほんせつめいしょ）を読（よ）んで下（くだ）さい。

　尚（なお）、全（すべ）ての漢字（かんじ）に振（ふ）り仮名（がな）を振（ふ）っておいてあげました。最低限（さいていげん）、平仮名（ひらがな）と片仮名（かたなか）の勉強（べんきょう）を済（す）ませてからお読（よ）み下（くだ）さい。

　早速（さっそく）、本機（ほんき）の機能（きのう）、使用法（しようほう）について説明（せつめい）したいところですが、その前（まえ）に幾（いく）つか注意事項（ちゅういじこう）があります。こんな事（こと）を一々教（いちいちおし）えてあげなければならないのはとても退屈（たいくつ）で面倒臭（めんどうくさ）いのですが、消費者（しょうひしゃ）の目線（めせん）まで下（おり）りてあげないと物（もの）が売（う）れないご時世（じせい）なので、苦渋（くじゅう）の選択（せんたく）をさせて頂（いただ）きます。

　先（ま）ず、本機（ほんき）の分解（ぶんかい）、修理（しゅうり）、改造（かいぞう）を行（おこな）わない事（こと）。以前（いぜん）から口（くち）が酸（す）っぱくなるくらい注意（ちゅうい）してあげているのですが、相変（あいか）わらず実行（じっこう）してしまう幼児的（ようじてき）消費者（しょうひしゃ）が居（お）られるのです。ネジを見（み）ると回（まわ）さずにはいられなくなるのでしょうか。ネジ回（まわ）し依存症（いぞんしょう）の方（かた）は一度病院（いちどびょういん）で診（み）て貰（もら）う事（こと）をお勧（すす）め致（いた）します。

　次（つぎ）に、本機（ほんき）の上（うえ）に重（おも）たい物（もの）を置（お）いたり乗（の）ったりしない事（こと）。落（お）としたり、ぶつけたり、衝撃（しょうげき）を与（あた）えない事（こと）。どのメーカーの説明書（せつめいしょ）にも同（おな）じような注意（ちゅうい）が記載（きさい）されていると思（おも）います。そこから鑑（かんが）みても、前記（ぜんき）の行為（こうい）が故障（こしょう）の原因（げんいん）になるだろう事（こと）くらいは解（わ）かりそうなものですが、世（よ）の中（なか）には神経細胞不良（しんけいさいぼうふりょう）の消費者（しょうひしゃ）が少（すく）なからず存在（そんざい）するのです。わざわざ本機（ほんき）が困（こま）り顔（がお）や泣（な）き顔（がお）をしたマンガチックなイラストまで添（そ）えて注意（ちゅうい）を促（うなが）しているというのに、それでも故障（こしょう）させてしまう消費者（しょうひしゃ）が居（い）るのですから、全（まった）く困（こま）ったものです。あのイラストの表情（ひょうじょう）は当社員一同（とうしゃいんいちどう）の心情（しんじょう）を表現（ひょうげん）していると言（い）っても過言（かごん）ではありません。

　湿気（しっけ）や埃（ほこり）が多（おお）い場所（ばしょ）や直射日光（ちょくしゃにっこう）が当（あ）たる場所（ばしょ）には置（お）かない事（こと）。そして、水（みず）に付（つ）けない事（こと）。水（みず）に関（かん）しては、お解（わ）かりになりますでしょうか。水道（すいどう）の蛇口（じゃぐち）を捻（ひね）ると出（で）て来（く）る液体（えきたい）です。水素（すいそ）と酸素（さんそ）とが結合（けつごう）したものです。お湯（ゆ）も掛（か）けないで下（くだ）さい。味噌汁（みそしる）もシチューも止（や）めて下（くだ）さい。おしっこも我慢（がまん）して下（くだ）さい。

　我々（われわれ）メーカー側（がわ）に取（と）りまして一番厄介（いちばんやっかい）なのが、小（ちい）さなお子様（こさま）の手（て）に触（ふ）れられる事（こと）です。消費者（しょうひしゃ）の方々（かたがた）は最低限（さいていげん）お子様（こさま）よりは増（ま）しなおつむをお持（も）ちであるという想定（そうてい）で申（もう）し上（あ）げるのですが、ご自分（じぶん）のお子様（こさま）の行動（こうどう）くらいはちゃんと監視（かんし）して頂（いただ）きたいと思（おも）います。お子様（こさま）を盾（たて）に取（と）って苦情（くじょう）を垂（た）れるような卑劣（ひれつ）な行為（こうい）は一切（いっさい）ご遠慮下（えんりょくだ）さい。お子様（こさま）を然（しか）るべき方法（ほうほう）で処分（しょぶん）されてから本機（ほんき）を使用（しよう）されるのは自由（じゆう）です。

　これは我々（われわれ）には直接関係（ちょくせつかんけい）のない事（こと）ですので、読（よ）んでも読（よ）まなくても結構（けっこう）ですが、例（たと）えお金（かね）を取（と）らなくてもダビングをして他人（たにん）に配布（はいふ）するのは著作権法（ちょさくけんほう）に抵触（ていしょく）します。大半（たいはん）の消費者（しょうひしゃ）が罪悪感（ざいあくかん）も感（かん）じず日常的（にちじょうてき）に行（おこな）っているようですが、著作者（ちょさくしゃ）サイドが大目（おおめ）に見（み）てあげているだけであって、実際（じっさい）には違法（いほう）です。駄目（だめ）なものは駄目（だめ）です。それでもやるのでしたら、忸怩（じくじ）たる思（おも）いを抱（いだ）きながらやって頂（いただ）きたいと思（おも）います。ご自分（じぶん）が犯罪者（はんざいしゃ）であるという自覚（じかく）を持（も）ってやって下（くだ）さい。念（ねん）の為断（ためこと）わっておきますが、厭（あ）くまで助言（じょげん）をしているのであって、助長（じょちょう）をしている訳（わけ）ではありませんので、悪（あ）しからず。

（中略）

　本機（ほんき）の機能（きのう）、使用法（しようほう）についての説明（せつめい）は以上（いじょう）です。もし、これだけ懇切丁寧（こんせつていねい）に教（おし）えて差（さ）し上（あ）げたにも拘（かか）わらず全（まった）く理解（りかい）出来（でき）ないという方（かた）は、潔（いさぎよ）く本機（ほんき）の使用（しよう）を諦（あきら）める事（こと）を提案致（ていあんいた）します。素養（そよう）と言（い）うかセンスと言（い）うか、自分（じぶん）にはそもそも本機（ほんき）を使用（しよう）する資格（しかく）がないとお考（かんが）えになって差（さ）し支（つか）えないと思（おも）われます。我々（われわれ）も商売（しょうばい）として本機（ほんき）を販売（はんばい）している訳（わけ）で、これ以上（いじょう）取（と）り扱（あつか）いの説明（せつめい）にコストを掛（か）けるのは馬鹿馬鹿（ばかばか）しいと判断致（はんだんいた）します。我々（われわれ）にもお客様（きゃくさま）を選（えら）ぶ権利（けんり）があります。老婆心（ろうばしん）ながら、ご自分（じぶん）のレベルに見合（みあ）った三流（さんりゅう）メーカー様（さま）の製品（せいひん）を購入（こうにゅう）されたら如何（いかが）でしょうか。但（ただ）し、国語辞典（こくごじてん）一冊（いっさつ）すら開（ひら）かずに言葉（ことば）の意味（いみ）が解（わ）からないなどという苦情（くじょう）は問題外（もんだいがい）です。国語辞典（こくごじてん）を使（つか）っても理解不能（りかいふのう）だと仰（おっしゃ）る方（かた）は、寧（むし）ろ辞典（じてん）の出版社（しゅっぱんしゃ）の方（ほう）へお問（と）い合（あ）わせ下（くだ）さい。

　最後（さいご）になりますが、これまで当社（とうしゃ）に寄（よ）せられた実際（じっさい）の苦情（くじょう）と回答（かいとう）とを列記（れっき）しておきたいと思（おも）います。同（おな）じ苦情（くじょう）にはお応（こた）えし兼（か）ねますので、しっかりと頭（あたま）に叩（たた）き込（こ）んで下（くだ）さるよう、宜（よろ）しくお願（ねが）い申（もう）し上（あ）げます。

　Ｑ：画像（がぞう）がぼやける――Ａ：眼鏡（めがね）かコンタクトレンズを使用（しよう）して下（くだ）さい。

　Ｑ：電源（でんげん）コードを差（さ）し込（こ）んだ上（うえ）でパワーボタンを押（お）しても電源（でんげん）が入（はい）らない――Ａ：電気代（でんきだい）を支払（しはら）って下（くだ）さい。

　Ｑ：価格（かかく）が高（たか）い――Ａ：購入（こうにゅう）する前（まえ）に仰（おっしゃ）って下（くだ）さい。但（ただ）し、購入（こうにゅう）の前（まえ）に申（もう）されても『だったら買（か）うな』という意味合（いみあ）いの対応（たいおう）をやんわりとさせて頂（いただ）きます。

　Ｑ：全機能（ぜんきのう）を使（つか）っても楽（たの）しくない――Ａ：縁（えん）がなかったという事（こと）で、どうぞ本機（ほんき）を処分（しょぶん）なさって下（くだ）さい。『処分代（しょぶんだい）をよこせ』などという要求（ようきゅう）は、一昨日（おととい）いらっしゃって下（くだ）さいますよう、謹（つつし）んでお願（ねが）い申（もう）し上（あ）げます。