グッド・ジョブ媚薬 6部 復活編

渡夢太郎

第1話 復活

1章 復活  

ホノルル空港から降りたは

絵里子は絢香を連れてタクシーに乗った。

「ホノルルセントラル病院へお願いします」

アロハシャツ姿の運転手は笑顔で頷いて

車を走らせた。


「お客さんは日本人?」

「はい」

「そうかい。いま、あの病院には

ヒーローが入院しているんだよ」

「まあ、どんな方ですか?」

「1ヶ月前、たった一人でハイジャックから

乗客を救った日本人なんだ」

「そんなに有名なんですか?」


「もちろん、毎日たくさんの人がお見舞いに来ている。

 ハワイ州知事、第7艦隊司令長官、

スチュアートエネルギー省長官、

そして一般市民もさ」

「そんなに凄いんですか?その方は」

「うん、聞いた話のよると・・・」


~~~~~

JOL7007便と併走していたアパッチから

ロープで海兵隊員が降りてきた。

「ダン、飛行機が止まった瞬間フロントガラスから

 脱出して私に掴まってください」

声が聞こえた。

「了解です」

亮は機体が停止するまで操縦桿を

握りブレーキを踏んだ。


「ダン、今です」

目の前に海兵隊員が手を差し伸べていた。

亮は液体窒素と一緒に運ばれて来た

ナイフでシートベルトを切り

立ち上がって

海兵隊員に手を差し伸べた。


「あ、足が引っかかっている」

亮はブレーキを踏んでいた右足首が

引っかかってコックピットから抜け出せなかった。

「早く、爆弾が爆発します」

亮はやっとの思いで右足を抜きフロントから

体を乗り出しがっちりと手を組んだ

「クリア!」


~~~~~

タクシーが着いた病院の玄関には

たくさんの花が飾られていた。

「運転手さんこのお花?」

「そうだ、ミスターダンの無事を祈って捧げられたレイ

 そしてそのボードは彼に対するメッセージだ」

絵里子を降ろした運転手は笑顔で車を走らせていった。


「うふふ」

絵里子はメッセージボードに書いてあるメッセージを

スマートフォンで写真に撮った。


病院のロビーに入ると受付で

絵里子が聞いた。

「済みません、團亮の病室はどちらですか?」

受付で絵里子が亮の病室を聞いた。

「どちら様ですか?」

受付の女性は怪訝な顔で絵里子を見た。


「黒崎絵里子です」

絵里子は自分のパスポートを見せた。

「おお、失礼しました。奥様ですね」

「奥様?」

絵里子は首を傾げた。


受付の女性が黒いスーツを着た男に目を向けると

男は無表情で絵里子に近づき無表情で言った。

「ご案内します」

男はイヤフォンをしたままサングラスを

掛け絵里子を庭に案内した。


「病室では?」

「いいえ、ミスターダンは意識が戻り

 リハビリ中です」

絵里子は病院の中庭に案内され

車イスに座り海を眺めていた。


「絢香、パパよ」

絢香は亮の姿を見て走って行った。

「パパ」

「絢香か」

絢香は車イスの前に立ち亮の手を握った。


「亮さん」

「ああ、絵里子さん来てくれたんですね」

亮は懐かしそうに絵里子の顔を見た。

「受付で奥様と言われた」

絵里子はむずがゆくて微笑んだ。

「あはは・・・」

「受け付けで奥様と言われた」


「すみません、他に状況を把握していて信用

できる人がいなかったものですから」

「そうか」

「病院の前に感謝のメッセージボードが有ったわよ。

 ヒーローとか救世主とか」

「そんなんじゃないですよ」

絵里子はちっとも偉ぶる事の

ない亮がとても素敵に思えた。


「そう言っても皆さんがお見舞いに

来てくれたんでしょう」

「はい、みなさんが来てくれました」

1日前に病院から連絡を受けた

絵里子は亮の意識が戻ってから

2週間連絡が来なかった事に

怒りを感じていた。


絵里子は車イスの脇に立っている

看護師に頭を下げた。

「お世話になっています」


「絢香、また大きくなったね」

亮は嬉しそうに笑って絢香に顔を近づけた。

「ダメよ、そのヒゲは絢香が痛がるわ」

絵里子は絢香に頬ずりしようとした亮を止めた。


「ああ、すみません」

「私は良いわ」

絵里子はそう言って亮とキスをした。


絵里子は目をそらさず二人のキスを見ていた

看護師に挨拶をした。

「初めまして、絵里子と申します」


「亮の介護を担当しているマリエです」

「ご苦労様です、マリエさん」

マリエの態度が刺々しいので

絵里子は気になっていた。


「亮、体の具合は?」

「ごらんの通り下半身不随リハビリ中です」

「どれくらいで歩けるようになるの?」

「まだ、分かりません」

二人の会話にマリエが入って来た。


「日本語分かるの?マリエさん」

絵里子は驚いていた。

「私の、ひいおじいさんは日本人なんです」

「まあ、それで日本語が上手なのね」


「それに亮に教えてもらったの、日本語」

マリエがそう言って亮を見る目に絵里子は

マリエが亮に思いを寄せている事にきづいた。

「亮はここではヒーローになっているのね」


「それは間違っています。ロビンとジェニファーと

小妹とマギーと美喜さんと海軍と海兵隊員たち

そして多くの人助けで乗客を救う事が出来たんです」

「みんなのお陰と言う訳ね」

「だから日本に帰るときはひっそりと帰ります」


「それがいいわね、日本ではあまり話題

になっていないから入国は楽だと思うわ」

「どうして?300人ものの乗客を救ったのに・・・」

マリエは亮がやった事を日本に

評価されていない事が不思議だった。


「マリエ、それは日本では報道規制があって

今回の全貌は明かされていないんだよ。

 だから僕の名前を知っている人はほとんどいない」

「でも、亮の意識が戻った事をどうして2週間もの

間私に連絡をくれなかったの?」


「精密検査です。死んだ人間が生き返ったから

不思議だったんじゃないですか?」

亮は周りを監視している男達を目で追った。

「死んだ?」

絵里子が亮の顔を見た。


「いや、心肺停止くらい大怪我した人は良くあります」

亮は絵里子が心配しないように気を使った。

「違う!亮は何度も心臓が止まった。

それに胸にこんな傷が」


マリエは亮の白いTシャツを捲り上げ亮の胸の傷を見せた。

「そんなの関係ない。絵里子さん、

僕は仕事の利益の一部で

世界に子供たちの教育組織を作ろうと思います」


亮はそう言ってマリエの話しを途中で止めた。

「えっ!」

絵里子は亮の突然言った事を聞きなおした。

「後進国の子供たちは貧困によって

 勉強もできずにいます。その子たちに勉強と

環境を作りたいと思います。教育こそ国の力です」


「そうね、教室も無い紙もペンも無い子供たち

 の為に」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る