どっちとデートをするべきか

「クリスマスデート、かぁ。」


 僕は赤くなった頬をさすりながら呟く。


「どうしたの?兄さん。万年クリぼっちの兄さんがそんな言葉を言うなんて、どういう風の吹き回し?」


 確かに僕は万年クリぼっちだったが、そこまで言うだろうか。相変わらず言葉に棘がある妹である。


「確かに僕は万年クリぼっちだが、モテてないというわけでは無いのだよ。僕は2人にデートを誘われたのだよ。」


 そう。それはついさっき起こった。僕は二人の女の子、汐恩と有栖にクリスマスデートを誘われた。去年までは全くと言っても良いほど…いや実際全く誘われてなかった。が、今年は誘われた。それはモテているということを表していると言っても過言ではない。


「に、兄さんがデートに誘われるなんて…おかしい…この世界はおかしい…」


「おいおい、僕だってモテるときはモテるぞ…」


 心外である。僕が少しモテただけでここまで言われるとは。流石のお兄ちゃんでも泣いちゃうぞ。あれ、目から雫が


「相手は汐恩さんと有栖さんでしょ?」


「な、なんでわかったし!」


 まるでお見通しだと言わんばかりに完璧に当ててくる音羽。これには僕も驚きである。


「いや、見てたらわかるよ。本当にあの人たち兄さんのこと好きすぎ。丸わかりだよ?」


 本当にそうなのだろうか。僕は告白されるまで気がつかなかったぞ。


「僕告白されるまでわからなかったけど、もしそんな丸わかりなら僕だって気付けてたでしょ?」


「いや、兄さん鈍感じゃん。鈍感系主人公くらい。」


「何言ってるんだ。僕があんな奴らと一緒なわけないだろう。」


 僕は鈍感系主人公と呼ばれている人物が嫌いである。なんだよあれ、病気かよってレベルで鈍感じゃねぇか。見ててイライラするのだ。


「兄さん同類だからね?」

 

「ありえん。音羽は僕を理解していない…」


 僕は鈍感なんかではない。そんなこともわからないのか僕の妹は。


「僕は音羽のことをずっと見てるのになんで音羽は僕のことをわかってくれないの?どうして?僕はこんなにも愛してるのに。」


「いやきもいから。ヤンデレやめて。」


「………むぅ。」


 少しネタに走っただけなのにこの仕打ち。ひどいよね。


「あ、拗ねた。」


「拗ねてないし。僕そんな子供じゃないし。」


「拗ねてるし子供だよ兄さんは。」


 どこをどう見たら僕を子供だと捉えるのだろう。間違いなく僕は大人だ。地球上の大人が満場一致で手を挙げるくらいには。


「兄さん今日の夜ご飯オムライスだよ。」


「ほんとかっ!?」


 何を隠そう僕はオムライスが大好きである。ゆえに、夜ご飯がオムライスの場合、嫌なことあっても忘れることができるのだ。そういえばさっき変に拗ねてたやつがいたけど誰だよあいつ。恥ずかしいからやめた方がいいよ。


 夜ご飯が楽しみになってウキウキな僕は、お風呂に入るために鼻歌を刻みながらリビングを出た。


 洗面所のドアを開け、洗濯物を地面に放り投げる。そして、服を脱ごうとする。


 刹那、頭中に鋭い痛みが走る。


「……うっ…」


 思わず呻く。頭痛は毎日だいたい夜に感じるのだが、ここまでひどい頭痛は久しぶりだった。一体何が原因なのだろうか。絶対に後遺症なんかじゃないよなこれ。まぁ、我慢できないほどじゃないし、僕はとりあえずシャワーをとっとと浴びることにした。頭痛がきついから風呂に浸かろうと思ったが、僕の頭には飯のことしか思い浮かんでいないので、風呂に浸かるのはやめにした。




「お先にしました。」


 僕はそう言い風呂から出る。ちなみに頭痛は消え去った。確かに痛いけど毎度すぐに治ってくれるから助かるのだ。もう一回病院行った方が良いかな?と、そんなことを考えているとテーブルの上にご飯が並べられる。


「じゅるり…」


 涎が垂れそうになったのでそれを吸い直す。鼻腔を刺激するオムライスの甘い香り。食欲をそそる。僕は吸い込まれるように椅子に座った。それに続いて音羽も座る。


「いただきます。」


 僕はそう呟きオムライスをスプーンで掬って口の中に入れ込む。そして感じる。この口の中に入れて瞬間広がるバターと卵の甘さ。そしてそれに加わるケチャップのしょっぱさ。


「うむ。最高である。」


 僕は思わず呟く。


「兄さんの1番好きな料理だもんね。」


「そうそう。この世の全てはオムライスでできていると言っても過言。」


「過言なのね…」


 音羽は呆れた様子で僕を見つめた。そこで僕は一つだけ思い出した。


「あ、そうだ。音羽に相談したいことがあるんだった。」


 すると音羽は呆れたような顔からキョトンとした顔になる。


「相談?兄さんが?珍しいね。」


「まぁ、僕が人に相談することなんて滅多にないし、そもそもとしてストレスフリーで生きてる人間だからな。」


 僕はストレスが溜まるようなことは絶対にしない主義である。まぁ、知人や友人からは社会不適合者とか言われるが、好きに罵ってくれ。僕はマゾだから罵られると気持ちが良いんだ。


「で、相談ってなんなの?」


「それはだな、お前も知ってる頭痛だ。」


 頭痛。僕の唯一のストレスと言ったらこれだ。ストレスフリーに生きたい僕にとってストレスの源は早めに潰しておきたいのだ。一応後遺症という診断は出てるが、どんにも信じられない。腹たつくらい痛いし。


「あ〜。そういえば言ってたね。ひどいんだっけ、痛み。」


「そうなんだ。正直トンカチで殴られなければこんな痛み感じないぞ。」


 すると驚愕の表情に変わる音羽。


「そ、そんなに痛いの!?」


「あ、あぁ…痛いぞ。」


 何をそんなに驚いているのだろう。


「そ、そんなに痛いのによくも普通に過ごせてるね…」


 なるほどそういうことか。普通は痛みがひどかったら休んだりするのになんで僕はそう言ったそぶりがないのか、といったところだろう。


「いや、普通じゃないぞ。誰もいないところで起きることがほとんどだから、悶絶してるのを見られることがないんだよ。ついさっき風呂場で発症したしな。」


「危なくない!?お風呂場って…倒れたらやばくない?」


「へーきへーき。僕は倒れないから。頭痛なんかじゃびくともしないから僕。」


「まぁ、なんかタフだもんね、兄さん。」


 時速100キロ越えのトラックの衝突に耐えたのだから基本的には何が起こっても平気だろう。……いや、そういえば一応死んだんだった。生き返っただけだった。


「それでも僕はストレスが溜まってきたから病院に行こうと思ってる。僕が入院してたところよりも大きなね。」


「うん、それが良いと思うよ。そこでも後遺症って判断されたら本当にそうなんだと思うけどね。」


 まぁ、正直その辺に関しては心配してない。絶対に後遺症の痛みじゃないって確信してるし、例え重い病だったとしても治る気がする。なんかパワーに満ちてるような気がするって感じ。


「ま、音羽はそんな心配しなくて良いぞ。僕なら死なないから。」


「頭痛じゃ普通死なない気がするけど…」


「いや、わからないぞ。脳みそに大きな腫瘍ができたりしたら死ぬぞ多分。」


「そうなったらいよいよ頭痛じゃ収まらなくなりそうだね。なんか怖くなってきたから私寝るね。」


 何に怖くなったのかわからなかったが、音羽が寝ると言った以上僕は暇になるわけだ。


「………僕も寝るか。」


 結局、やることは無かったし明日も平日ということもあり、僕は寝ることにするのだった。


 結局僕は有栖と汐恩のどっちとデートに行けば良いのだろうか。流石にどっちもと行くのじゃダメなのか?……いや、それで良い気がする。どっちかを取るってことはどっちかは悲しむってことだからな。うん、そうしよう。


 そうして僕は寝ながら考えた結果、どっちとも同じに日に遊びに行くことを決めるのだった。

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