いつも通りの日常 2
夜、真夏の家から出た俺は家に帰るために帰路に着いた。
家への帰路につき、歩きながら僕は考えていた。僕は少し前事故に遭い、死んだ、はずだった。だがなぜか生き返った。奇跡が起こったのだ。普通だったら奇跡が起こったことに嬉しく思ったり感謝したりしてその後の生活を楽しむのだろう。だが、僕は少しだけ違う。もちろん奇跡に感謝してないわけでも嬉しく無いわけでも無い。むしろ、やり残した事がありすぎたため、すごく嬉しい事である。
だが、なんなのだろうか。ずっと心にのしかかってくるこの違和感の塊は。僕はその正体を探ろうとするが、いつものように失敗する。だが、一つわかる事があるとすれば、
「なぜか、全てが理想通りに進むんだよなぁ。」
そう。僕が唯一疑問に思っていてわかること。それは、全てのことが自分の理想通りに行くことだ。上手く行きすぎていて少し怖いのだ。
「う〜む。」
僕が一人で悩んでいると
「またなんか悩んでるの?」
と後ろから声がした。
「あれ?なんでここにいるんだ?」
後ろにいたのは柳沢音羽(やなぎさわおとは)。僕の妹である。
「なんでって、兄さんが遅すぎるから探しにきてたんだよ。」
言っておくと、うちの妹は過保護である。そりゃもう、束縛しまくる親並みに。以前こいつは僕と真夏で旅行をしに行った時、家に出る前に忘れ物はないかだの携帯は持ったかだの親みたいなことを聞いてきた。それだけではない。それ以上にこいつには過保護エピソードがあるのだ。それもなぜか僕が事故にあったあの日から。まぁ、僕がまた事故にあわないか心配なのだろう。
「お前は過保護なんだよ。僕の親かっての。」
「妹だけど?」
「知ってるけど?」
いや、そんなこと知ってんのよ。ただ僕はお前は親じゃないんだからそんな過保護にならなくてもいいって伝えたいんだけど。
「ていうか、こんな夜更けに心配だからって女子高生が一人で外出るなよ。危ねぇぞ。」
「兄さん過保護。私の親かなんか?」
「ブーメランって言葉、知ってるか?」
「知〜らな〜い。」
どうやら都合の悪いことは全て理解できない便利な頭を持っているらしい。
「て、兄さんなんか考えてたの?」
「そういえばそうだったな。ん〜、なんか事故に遭ってから全てがうまく行きすぎてるって感じがするんだよなぁ。」
人生といえば山あり谷ありと聞く。実際僕も事故に遭って死にかけた。いや、実際は死んだのだ。生き返ったけどね。でも事故に遭ってから早2ヶ月。山も谷も何もなかった。いや成績が悪いとかそう言うのはあるよ!?でもなんと言うかなぁ。
「説明しずらいな。」
「ほんと、わからないよそんなんじゃ。」
物分かりの良い音羽ならわかってくれると思ったがそう言うわけではないらしい。
「だって兄さん今日の単語テスト10点中2点でしょ?理想通りじゃないじゃん。」
「いや10点取ること願ってなんてないから!忘れてたんだから仕方がないでしょ!てかなんで知ってんの!?」
誰にも言ってないのに知られていることに驚きである。
「だって兄さんのバック漁ったし。」
「当たり前のようにそれをするな。しかもそれを言うなよ…」
僕は思わずため息をついてしまった。
「また話変わるんだけどさ。」
音羽がまた話題を切り出してきた。
「なんだ?」
「兄さんって恋愛する気ないの?」
僕は突然音羽がそんなことを聞いてきたので、フリーズした。
「お〜い兄さ〜ん。固まってるよ〜。」
呼ばれて我にかえる。
「あ、あぁ、悪い。でもなんでそんなことを?…………てまさか!彼氏ができたから僕にそんなことを聞いてるのか!?」
そう言うことだったのか!?彼氏ができたから兄である僕の恋愛事情を心配してるのか!?随分と余裕そうだが、長続きする自信でもあるのだろうか。
「別にそう言うわけじゃないけど。」
「あ〜。僕まだ刑務所行きたくないんだけど。音羽と彼氏がいちゃついてるところを見たら思わず殺しちゃいそうだ。」
「えぇ…何物騒なこと言ってんの?このシスコン…」
「シスコンで何が悪いんだよ。言ってみろ。」
妹にドン引きされた。強がったが、ちょっぴり泣きそう。
「てか私彼氏できてないし、早まらないでくれない?」
「な、なんだぁ。良かった安心した。僕お前に彼氏ができたら寂しくて死んじゃいそうだ。」
「どっちが過保護がわからないし……」
と、意味のない議論を永遠と続けているうちに、家の前に辿り着いた。音羽はかちゃかちゃと音を鳴らしながらポケットから鍵を取り出し、鍵穴に突き出して勢いよく回した。そうして暖かい我が家に、僕たちは帰ってきたのだった。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
そんな短いやりとりをしつつ、暖房がついていると思われるリビングに走って直行する。リビングに着いた瞬間、ボワッと暖かな空気が僕たちを出迎えた。
「あ、あったけぇ…」
僕は地面に座り込みながらそんな言葉を情けなく漏らした。僕は寒いのが大の苦手だ。まあ、苦手なのに遊びに行ってるのはなぜかと問われたら答えられないのだが。
「お風呂沸いてるから入ってきなよ。ご飯はそのあとね。」
「ふぁ〜い。」
僕は力の抜けた声で返事をし、お風呂に向かった。僕という人間はお風呂が大好きである。夏はかいた汗を流せるし、冬はあったまることができる。最高である。
「ふひぃ〜。」
湯船に浸かり、一息つく。いやはや、至福の時間である。こんな湯船の中でジンジャエールをグビリグビリと飲みたいものである。まぁ、そんなこと普段はできないけど。みんなもわかるだろう?風呂に浸かりながらキンキンに冷えたジュースを飲みたくなるあの気持ち。わからないとは言わせないぞ。
「お先〜。」
僕はそう言い風呂場から出た。途端、とてつもなく食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。お腹が鳴った。今すぐにでも食べ物を欲している合図である。だから僕は走って食卓まで行った。
「ハンバーグだっ!」
ハンバーグ。それは僕の大好きな料理トップ2の料理である。テンション爆上がりである。
「いただきます!」
「お粗末さま。」
「僕まだ食べ終わってないけど。」
そんな軽口を言い合いながらも、ハンバーグを箸で一口サイズに切り、口に運ぶ。
「うめぇ。」
口からはそんな感想が溢れでる。美味い。その一言に尽きる。なぜ妹である音羽はこんなにも料理が上手なのだろうか。本当に両親の血を引いているのだろうか。
「親帰ってきても頼むからお前が飯を作ってくれ。」
「面倒くさいし文句言うの兄さんだけだからパスで。」
うちの両親は今どっちも海外に出張中である。正直、大のつくほどの不味い料理を作るので、正直嬉しいという気持ちもあるのだが、やはりしばらく会っていないせいか、少しだけ寂しい。
「……あれ?この間見舞い来てくれてたよな?もう言っちゃったの?」
「兄さん遊びに行っててお見送りしてなかったじゃん…悲しんでたよ?母さんと父さん。」
「そりゃ申し訳ないことをしたなぁ。後で連絡してやるかぁ。」
僕は後で連絡することを決めた。すると、気がつけば皿を空にしていた。
「あれ、食い終わっちまった。」
「相変わらず早すぎるでしょ…」
「ま、いいや。歯磨いて寝るわ。」
僕は睡魔も来ていたし、歯を磨いて寝ることにした。
「おやすみ〜。」
「おやすみ〜。」
僕らは一言だけ挨拶をすまし、自室に戻った。
理想通りに進んでいるこの世界で、僕は一つだけ悩み事があった。それは…
「いてててて…」
頭痛だ。毎日ランダムな時間でやってくる。正直な話結構……いやかなり痛い。だから頭痛薬を服用してるわけだが…
医者曰く、事故の後遺症らしい。まぁ、時速100キロ越えのトラックに轢かれたら後遺症が残らない方がおかしいのだ。だからその点については許容しなきゃいけないんだろうが、どう考えても後遺症なんて痛みじゃないだろこれ。
今はあんまり痛くないが、たまにえげつないほど痛くなる時がある。だからよく色んな病院に検査しに行ってるんだが、どこも異常なしの一点張りである。本当に後遺症なのだろうか。
と、そんなことを考えながらも、睡魔がピークに達していた僕は、布団に潜り込んだ。そうして目を瞑ると、だんだんと睡魔が強くなっていき、僕の意識は吸い込まれるように落ちていくのだった。
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