恋に成らない、あなたへの想い

千蘭

指輪をしている彼

 勤めている花屋に毎月訪れる男性がいる。

 その男性はいつも、月末の金曜日だというのにキッチリとスーツを着込み、髪を丁寧にセットして、まっすぐな姿勢で歩いてくる。爽やかで、優しげな雰囲気。そして、店先で幸せそうに花を選ぶのだ。左手の薬指に、美しいゴールドを纏って。


 左手の薬指以外、飾り気のない彼の指。きっと、職場にファッションで指輪をつけていく人ではないのだろう。

 確信めいた推測をしておきながらも、少しでも望みがあるならという思いを捨てきれず、尋ねたことがある。


 「毎月当店をご利用いただきありがとうございます。奥様へのプレゼントですか?」

 他のお客さんが相手なら、ちょっとした会話の糸口として使う質問。でも、今回ばかりは特別な質問だった。

 返ってきたのは、

「あ〜、いえ、結婚してないんです。この指輪は、婚約指輪で…。」

鋭利な刃物みたいな言葉だった。赤くなった顔を隠すかのように口元に片手を当てながら、世間話を続けてくれているお客さん。残念ながら、その大半はすり抜けていってしまった。


 指輪をしている人だよ、花を渡す相手がいる人だよって、きっと、頭の片隅では分かっていたんだ………好きになっちゃ、ダメな人だって。


 私は、自分の気持ちを認めたと同時に、その気持ちを諦めた。

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