第24話 輪廻を閉じる者

 ディンが闇の中で子供達の導きに従い2人を探しているその時、地上では芳しくない空気が流れていた。

 ディンが突入してから20分程度しか過ぎていなかったのだが、どうにも魔物の数が減らず倒れる竜神が増えてきていた。

残った竜神達も、王が消えた事を察知した者の士気が下がり、それが伝播する様に残った戦士達の士気が下がっていった。

 レヴィノルは心ここにあらずといった様子で戦力にならず、それも近くにいる戦士達の士気低迷に拍車を掛けてしまっている。


「くっそぉ!アリステス!そっちまだ減らない!?」

「まだまだ、減る様子、ない!そちらこそ、どうなんだレヴィストロ!」

「減んない!ケシニアがまだ回復してないってのに!他の人達は何してんのさ!」

 闇の渦の真下で横たわっているケシニアを庇いながら、人間体に戻ったレヴィストロとアリステスは必死に剣を振るう。

「他の奴ら!?何故か動かなくなって!きている!レヴィノル様も!戦力になっていない!」

「何やってんだ祖父ちゃんは!?王様になんか言われて傷心にでもなってんの!?」

「わからない!」

 怒鳴り合い戦況を確認しながら、ひたすら増えていく魔物を蹴散らしていく2人。

若い竜神の中でも指折りの2人ではあるが、こうも数が減らないと肉体より精神の疲弊が溜まっていく。

「っざけんなぁ!こんな非常時に戦わなくて何が守護神だぁ!」

「全くだ!」

「まとめて行くよ!竜神術氷弾!」

「了解だ!竜神術雷帝!」

 背中合わせになって悪態をつきながら魔力を練り、各々魔法を発動する。

レヴィストロの魔力で周囲の水分が凝固し無数の礫となり、それにアリステスの魔力が重なり電気を帯びる。

「「合術 氷雷帝の息吹!」」

 2人の声が重なり、同時に礫が拡散した。

電気エネルギーを得て加速した氷の礫は弾丸の如く魔物に迫り、回避や防御をする間もなく蜂の巣にしていく。

「もういっちょぉ!爆炎斬!」

「承知した!真空斬!」

「「合技 爆砕演舞!」」

 今度は剣に魔力を溜め、互いに回転し振るいながら一気に開放した。

レヴィストロの炎の属性とアリステスの風の属性が重なり、闇に反応し爆発する炎をまとった真空の衝撃波が360°余すことなく放たれた。

「どんなもんよ!」

「油断するなレヴィストロ!敵はまだ山ほどいる!」

「わかってる!でもちょっとは……?いや、なんだよこれ、減るどころか魔物の気配増えてない!?」

 どれくらいの魔物を倒したか確認しようとしたレヴィストロが悲鳴のような怒声をあげる。

戦闘出来る竜神の数が減ってきている為か、それとも渦の力が強まっているからか。

 魔物は減るどころか、技を発動する前の二倍に急激に増えていた。

「こんなん2人でどうやって倒せってんだ!」

「口を動かす前に剣を振るえレヴィストロ!僕達は王が戻るまで戦い続けなければならない!」

 戦い続けるしかない。

2人はわかっていたが、文句の一つを言わずにはいられなかった。


「これはまるで……。」

「どうしたの、アイラさん?」

「いや、なんでもないよ。君は結界を強固にし続けるんだ。」

 増え続ける魔物、倒れゆく戦士。

まるで1万年前の再来のようだと、アイラは胸の内で呟く。

 人々の憎しみが魔物を産み、それを倒す戦士達は疲弊していく。

いつしか戦士達の中にも魔物側に加担する者、心を闇に囚われてしまった者さえ出てきてしまった。

「なあ浩輔君、君は王をどう思っているんだい?」

「え?どう思うって……。大事な父ちゃん……、かな。」

「では、もしも王がこの戦いに負けたら。君は王になんと声をかける?」

「負けたら……。ううん、僕は、僕達は父ちゃんを信じてるから。今までだって大変なことはいっぱいあったけど、父ちゃんは最後には笑ってた。だから今度だってきっと、最後には笑って竜太と悠にぃと、デイン兄ちゃんと一緒に帰ってきてくれる。」

「そうか……。」

 なんの脈絡のない質問に、浩輔は答えを最初から持っていたかのように答える。

アイラはその言葉を胸の中で反芻させながら頷いた。

(私は何を不安になっているんだ、こんな小さな子がこんなにもはっきりと言い切ってみせたんだ。私も王を信じ待たなければならないだろうに……。)

 1万年前の結末を最後まで見届けたアイラの不安は、ディンが闇の中で命尽きることではなかった。

 むしろその後、もし自分の父である9代目ディンと同じような選択をしてしまったら。

そう思うと、心を痛めずには居られなかった。

(彼はこの子達を置いていく事はしないとは思いたいが、しかし……。)


 一方、闇の中。

全力で飛び続けたディンは、微かに2人の気配を感じ取ることが出来ていた。

 それと同時に、自らの肉体に限界が訪れようとしていることにも気づいていた。

「もうちょい、もうちょいだけ持ってくれよ……!」

 刻印の侵食具合は見えこそしないが身体の8割を覆っているのが感覚でわかる。

「生命力の方も、そろそろやばい、な。」

 魔力に転換している生命力も、底が見え始めてしまっているのを感じていた。

「あと少し、あと少しだけ持ってくれ……!」

 ディンは祈るようにつぶやきながら飛び続ける。

そして……。

「見つけたぁ!」

「ディン!」

「父ちゃん!」

 たどり着いた。

 光の先にいる2人を見つけると、至近距離で聞けば鼓膜が割れそうな程の声を張り上げる。

2人にもその声は届き、振り向くと嬉しそうにディンの名を呼んだ。

「やっと辿り付いた……、お前らけっこうハイスピードで動いてたなぁ!」

「入ってすぐに変な風に飛ばされてね、その時にけっこう進んじゃったみたいなんだ!」

「なあディン、竜太の守護の力すっげえ強くなってねえか?」

「ホントだ、ついさっきまでと比べもんにならねえな。」

 悠輔に言われて気づいた様子を見せ目を丸くして驚くディンと、照れるように頭を掻く竜太。

「なんか、気がついたらこうなってたんだよね。」

「そっかそっか。何はともあれ無事で良かったよ。」

「でも、デインの居場所が分かんねえからまだ安心できねえぞ?ディンお前、大分侵食されちまってるじゃねえか。」

「僕の力でなんとか出来ないのかな?」

 安心して頬が緩むディンに対し、侵食に気づいた悠輔の表情は険しい。

竜太はなんとか力をディンに使おうとするが、使い方が分からないからかディンの侵食が収まる様子はない。

「今力の使い方の説明してる時間はねえ。だから、このままいく。」

「でもそれじゃ危ないよ!」

「……。時間が残ってないんだな?」

「まあ、な。」

 ディンはそれだけいうとさっさと2人に清風をかけ直し、引っ張るようにして進んでいく。

悠輔には言葉の意味が伝わったようで、何も言わずにそれに従った。

 竜太は少し怪訝な顔をしつつ、ディンの魔力に抗う事は出来ないと分かっていたため抵抗せずにそれを追いかける。


「多分だけど、もう少しでつきそうだな。」

「どうしてわかんだ?」

「1つ、俺の侵食がどんどん進んできてる。2つ、俺の中にある竜の想いが反応してる。」

「成る程な。」

 5分ほど経って、急にディンは清風での飛行速度を緩めた。

最早両足は侵食されきってしまっていて、下半身を動かすことはままならないようだ。

「この付近に叔父さんがいるの?」

「多分な。恐らくは……!」

「ビンゴみてえだな。っておい!ディン!」

「父ちゃん!」

 話ながら何かに気づいたディンが、魔力を高め思い切り2人を来た方向に飛ばす。

2人はそれに抗おうとするが、強すぎる魔力の前になすすべなく来た方向へとどんどん引き戻されていく。

「ディン!やめろ!」

「父ちゃん!やめて!」

 2人は叫ぶが、ディンはやめない。

「なあ2人とも、デインその下にいるから任せていいか?」

「どういうこと!?」

「俺があれ防いでる間に、デインを助けてやってくれ。」

 あれ、とディンが見つめた先にいたものは…。

「あん時の大蛇!でも、あれがデインなんじゃ!?」

「いや、デインの光を微かにその下から感じる!」

「身体動かないのに1人で戦うのか!?」

「お前らじゃあれは止めらんねえだろ!俺のこと心配してくれんならさっさとデインたたき起こしてこい!」

「父ちゃん……!」

「竜太!今のお前なら出来る!」

 2人をある地点で止めると、ディンは2人を 降下させ始めた。

無限に落下し続けるかと思いきや、少ししたところで地に足が付いた2人。

 確かに、すぐ近くにデインがいる気配を感じる。

「父ちゃん……。」

「……。竜太、俺達は俺達に出来る事をしよう。さっさとデイン起こして、みんなで戻ろうぜ。」

「悠にぃ……。うん!」

 2人は走って気配のする方向に進んだ。

本当にすぐ近くにいたらしく、1分もしないうちに微かに人影が目の端に映った。

「デイン!」

「叔父さん!」

 急ブレーキをかけるように人影のすぐ近くで足を止めると、そこには9割を闇に侵食され裸で横たわっているデインの姿があった。

「デイン!起きろ!」

「叔父さん!起きてみんなで帰ろうよ!」

 その場にしゃがむと、デインを揺さぶりながら声をかけ始める2人。

その身体は死者よりも冷たく、蠢く闇が触れている箇所から侵食を始める。

「頼む!ディンが危ないんだ!」

「叔父さん!お願い!」

 しかし、そんなことはお構いなしにデインを揺さぶり続ける。

 時間がない。

急がなければという焦燥が声に出る。

「デイン!うわぁ!」

「叔父さん!悠にぃ!」

 しかし、願い虚しくデインは目を開けない。

 それどころか、強化された加護をもってしても食い止められない侵食が急激に強まり、2人を飲み込みかけている。

「ぐぅ!竜太!お前だけでも逃げろ!ぐわぁ!」

「い、嫌だ!わあぁ!」

 あたりの闇が瞬間的に濃くなり、まるで波のように3人を覆うと、それが引いた時には3人の姿が消えてしまった。


「嘘だろ……?」

 大蛇と向き合いながら3人の気配が消えたのを感じたディンは、思わず戸惑いの声をあげる。

「くっそ……、早いとこ探しに行かねえと……!」

 大蛇はディンに気づくと咆哮を上げ、襲いかかってきた。

侵食により思うように動かせない身体を魔力で無理やり動かしながら、ディンは突破口を探す。

「こいつ、刃が通らねえ!」

 自身の剣を魔力で操作し大蛇に斬りかかるが、闇で覆われた身体に届く前にはじかれてしまう。

 その間にも大蛇の猛攻は留まらず、避けながら剣を操作するのに手間取ってしまう。

「ちっくしょお!」

 左腕も思うように動かせず、剣を握ろうとしては取りこぼす。

「右手なら……!嘘だろ!?」

 竜の想いで作り出した右手で剣を握ろうとしたその瞬間。

白銀に輝くその腕は、霧散してしまった。

 驚愕し一瞬動きが止まるディン、大蛇はそれを見逃さなかった。

ディンの身長程はあろう牙で、ガラ空きになった腹を貫いた。

「……!」

 自身の腕程の太さの牙が脇腹を貫通し、肉と内蔵を抉っていく感覚。

体力も魔力も消耗しているディンにとって、致命傷となるには十分な一撃だった。

「こんなんで、死んでたまるかぁ!」

 しかし、ディンは諦めなかった。

動かない左腕を魔力で無理やり動かし剣を掴むと、大蛇の口内に深々と突き立てる。

「喰らい、やがれぇ!」

 そのまま剣に魔力を注ぐ。

「淵絶、雷咆!真氷、瓦解!暴旋、翔破!業竜、爆塵!」

 淵絶雷、真氷冠、暴旋風、業竜炎の4つの王術を剣に流し、放つ。

それと共に身体中を覆いかけている刻印が更に濃く、更に身体中を巡り、とうとう顔の左半分にまで至る。

「いっけえぇぇ!」

 あと1度何かをすれば完全に刻印に覆われる。

しかし、そうしてでもここで大蛇を倒さなければならない。

 ギジャアァァァァァァ!

大蛇の断末魔が闇の中へと響き渡る。

 もがく間すら与えられずに放たれた4つの衝撃に体内を焼き尽くされた大蛇は、そのまま崩壊するように砕けた。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……。」

 最早治癒を使う余裕すらない。

己を貫いていた牙から解放されると、ディンはそのまま重力に従って落下していった。

「……。」

 このまま眠りにつくことが出来たら。

ディンは薄れゆく意識の中、そんなことをふと思った。

「……、だめ、だ……。」

 だが、その考えをぬぐい去る。

 まだ、まだ終われない。

彼方へと飛んでいく意識を気力で掴み、ディンは這いずりながら3人が消えた場所まで向かった。

「今、行くから、な……。」

 ちょうど3人が消えた場所には、ひとかけらの光が残っていた。

ディンはその光に手を伸ばすと、しっかりと掴んで目を閉じた。


…みんな、デインを呼ぶの、手伝ってくれ…

「父ちゃん!?」

「どうしたんだい?浩輔君。」

「今父ちゃんの声が聞こえたんだ!」

 突然大きな声をあげる浩輔に、アイラは思わず驚く。

浩輔はアイラの方には目もくれず、闇の渦をじっと見つめながら話す。

「デイン叔父さんを呼ぶの手伝ってって!」

「王はデインを見つけたのか。ならば、行ってあげなさい。」

「でも、どうやって?」

 何が起きたかを理解したアイラは、優しく浩輔に告げる。

しかし、ここから動いてはいけないのと飛べない浩輔には、どうすればいいのかが分からないといった様子だ。

「私が浩輔君を彼の元に送ろう。きっと、他の子供達にも彼の声は届いているだろう?」

「う、うん……。あ、どうしたの裕治!?」

「浩にぃ!今父ちゃんの声が聞こえた!」

「俺達も聞いたぜ!オヤジの声!」

「僕も!」

 急に無線から他の子供達の声が聞こえ、全員にディンの声が届いていた事を知る浩輔。

アイラを見ながら頷くと、アイラは優しく微笑みながら頷き返した。

「今から皆を王の元に届けよう。意識だけを王の元に届けるから、皆王との絆を胸に思い起こすんだ。その思いが強ければ、きっと手助けに行けるよ。」

「絆を……。みんな!父ちゃんの事思い浮かべて!アイラさんが父ちゃん達の所に連れてってくれるから!」

 無線で皆にアイラの言葉の意味を伝えると、胸に手を当てて目を閉じる浩輔。

同時に、他の4箇所でも子供達が同じように胸に手を当て、各々ディンと竜太、悠輔とデインの事を思い浮かべる。

「さあ、行くよ。相思伝達!」

 アイラは魔力を5箇所に送り、皆の意識を闇の渦へと送る。

それぞれの場所から光の柱が現れ、それは一つになって闇の渦へと繋がった。

「さあ、あとは頼んだよ、ディン。」

 目の前の浩輔はそのままその場にいるが、意識はディンの元へと飛んでいったようだ。

ギュッと目を瞑り、祈るような姿勢のまま動かなくなっていた。

「みんな!どうすればいいかはわかってるよね!」

「ああ、ディンさんのとこついたら、みんなでデインさんに声かけてやろう!」

 1つに重なった光の中で、意識だけで飛んできた子供達はすべき事を確かめ合う。

同じ意思で進む子供達の放つ光は、強く暖かく大きくなっていく。

「あ、あそこ!」

「父ちゃだ!」

 そしてあっと言う間にディンの元にたどり着くと、重なるようにディンを照らし、一つになった。

 ディンの身体が一際強く輝き、徐々に収まっていく。

子供達は無事たどり着き、デインを助ける為に想いを強くしていった。


…ほら、そこにいるんだろ?…

…さあ、こっちにおいで…

 無限に広がる闇の中で、小さな小さな光は呟いた。

そこにいるはずの孤独な光に向かって。

…さあ、手を伸ばして…

…3人で一緒に、手をつないで…

 小さな光は今にも消えそうになりながら、しかし決して消える事なくつぶやき続ける。

その小さな光を闇が喰らい尽くそうと蠢くが、しかし小さな光は消える事なく灯り続ける。

…って、優しく言ったって聞こえねえか…

 小さな光は笑う。

そして、彼方へと向かう意識をもう一度押し戻すと、深呼吸をして口を開いた。

「デイン!悠輔と竜太連れてとっとと帰ってきやがれ!てめえ1人で死のうなんて俺が許さねえぞ!幸せになりてえんだろ!だったら帰ってこい!俺が、俺がぜってえ引っ張り出してやる!」

 小さな光は輝きを増し、あたりを照らし始めた。

「帰ってこい!みんなの為に!お前自身の為に!」

 輝きは更に増していく。

その手に掴んだ孤独な光を呼び起こすように。

「僕は……。世界をこんなにも危険に晒しちゃったんだ……。もう、戻れないよ……。」

「それでも帰ってこい!」

「でも……。」

「デイン!俺達が何の為にここまできたと思ってんだ!」

「叔父さん!ここで1人なんて僕が許さないよ!」

 ディンの掴んだ小さな光の中から悠輔と竜太の声が聞こえた。

と思いきや小さな光がその輝きを増し、気が付けば悠輔と竜太がディンと手を重ね合わせデインを呼んでいた。

「デイン、私は貴方を見捨てるなんてできないわ!」

「そうだよデイン、僕の分まで生きてもらわないと!」

「ディラン……?母さん……?」

光は更に強くなり、レイラとディランの手が重なる。

「叔父ちゃ!僕達叔父ちゃと一緒に遊びたいんだよぉ!」

「デイン叔父ちゃん!1人になっちゃダメだよ!」

「陽介、大樹……。」

 光は更に輝き、陽介と大樹の手が重なる。

「デイン叔父さん!1人でなんて嫌だよ!」

「そうだよ!僕達はずっと傍にいるっていったでしょ!」

 次に大志と裕治の手が。

「デインさん!」

「デイン!」

 更に、源太と雄也の手が。

「みんな叔父ちゃんと一緒にいたいんだ!だから、帰ってきて!」

 最後に、浩輔の手が重なる。

「みんなお前を1人にさせてくんねえってよ!」

「でも……!」

「いいから帰ってこい!お前がどんな闇抱えてたって俺達が受け止めてやる!お前が幸せだって笑えるまで、その後だってずっと傍にいてえんだ!」

「ディン……、みんな……!」

「うだうだ言ってねえでさっさと戻ってこいやあぁぁ!」

「……、うん!」

 幾重に重なる手の中の小さな小さな光が強く、暖かくなる。

そして溢れんばかりの輝きを放ちディンを蝕んでいた闇を取り払い、闇の渦を暖かく照らしていった。


「闇の渦が!」

「魔物もだ!」

 疲弊しきり倒れかけていたレヴィストロとアリステスは、渦の中心から溢れる光を見て叫ぶ。

 光は渦を包んでいき、それと同時に魔物がうめき声をあげながら霧散し始めた。

「王様!やったんだ!」

「デイン様を連れ戻したのか!」

 光は闇の渦を包み込み、眩い輝きとともに消していった。

同時に魔物も霧散しきり、戦場を覆っていた暗雲も消え去った。

「む!あれは!」

「王様達だ!あのままじゃ落ちちゃう!」

「レヴィストロ!私達で受け止めるぞ!」

「勿論!」

 2人はディン達の気配を探知すると、ドラゴンになり羽ばたいた。

「王様ぁ!」

「王!」

 そしてギリギリのところで4人の元にたどり着き背中で2人ずつ受け止めると、ゆっくりと地面に着地する。

「大丈夫!?デインは!?」

「僕は大丈夫!それよりディンが!」

「……。だいじょぶ、だよ……。」

「しゃべんな!今治療すっから!」

「だいじょぶ、それよりも……。みんな、ここに、来い。」

 他の3人がほぼ無傷な中1人だけボロボロになっているディンは、アリステスの背中から下ろされると絞り出すように声を出し、転移を使い子供達を呼び出した。


「うわぁ!お、オヤジ!?」

「だいじょぶ、だから。もう、終わったんだ。」

「大丈夫な訳ないだろ!ディンさん!」

「平気だ、よ。それより、最後の、仕上げ。やんないと…。」

 子供達を呼び出したことにより、結界が消失した。

結界の外、逃げ遅れて近くにいる人間はどういう形であれ戦いが終わった事を知る。

「さて、と。竜神達よ、剣に還れ。」

 息を整えながらディンがつぶやくと、竜の御霊から現れた竜神達が光となり、一つの剣へと戻った。

「デイン、大丈夫か?」

「う、うん。それより、早く傷治さないと!」

「いい。それよりも、さっさと終わらせよう。」

「終わらせる?どういうことだディン?」

「今回の一連の件はな、歴代の竜神王がここを護る為に張った結界が、原因だったんだ。だから、それを壊さねえと。」

 ゆっくりと息を整えつつディンはそう説明し、身体を起こして1人空へと飛んでいく。

 闇の渦の中で気づいていた。

一連の騒動がなぜ起こっていたのか。

 そして、それに終止符を打てるのは自分だけだということを。

「ディン!そんな体で何するんだ!」

「父ちゃん!」

 悠輔と竜太が引きとめようとするが、ディンは止まらない。

そして、追いかけようにも魔力が空っぽになってしまっていて追いかけられない。

 子供達の不安げな視線を感じながら、ディンは高く高く飛んでいく。

「俺の中にある全ての剣よ、来い。」

 上空500m程まで飛んだディンは、傷を気にする事なく力を溜めると、数千本の剣がディンの周りに発現し、ゆらゆらと所在無げに揺れる。

「竜神剣竜の誇りよ、陰陽刀絆よ。王剣竜の絆となれ……。」

 最後に自身の剣と悠輔の刀を融合し、竜神王剣竜の絆を発現させた。

それと同時に刻印が伸び、残すところはディンの右耳付近だけとなってしまった。

「……。全ての剣よ、全ての魂よ。今10代目竜神王の剣と一つとなり、世界を護る力となれ……!」

 左手をかざし、静かに唱える。

竜の絆以外の剣が光の奔流へと変わり、絆へと流れ込む。

 それは一つの剣となり、その輝きで世界を照らす。

「この小さな島国にいた、小さな光の存在を護る為に張られた結界。それは何百万年という時を経て、闇を溜め込む悪しき場所を作ってしまっていた。だから、俺が終わらせる。歴代のご先祖様達にゃ悪いけど、もうこれは無用だ。」

―真竜王剣 竜の心―

「今ここに、悪しき輪廻の終息を。竜の心よ、全ての結界を叩っきれぇ!」

 それを掴むと思い切り振りかぶり、真一文字に振り下ろした。

 大地に根付いた8つの結界。

初代竜神王から8代目までが重ねるように張ってきた、八重の結界が。

 数百万年小さな光を守り続け、そしていつしか闇の巣窟を生み出してしまった守護者達の力が。

 今その役目を終え、ガラスが割れるような音とともに崩れ去っていった。

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