第5話 盟友との再会

 深夜1時、東京都世田谷区某所。

Pipipipipi

「……、もしもし、村瀬です。」

「……。」

 急になりだした仕事用携帯電話に起き、慌てて出る。

業務上、急用の可能性があるからだ。

「もしもし?」

「どうも、村瀬警部。」

「はい、私が村瀬ですが、どちら様で?」

「ふふ、変わってないね、あなたは。」

「…?私は貴方のような幼い声の方は存じ上げませんが。」

 かわっていない?

まだ成人していない少年の知り合いなどいただろうか。

 というか、出たと思えば何を言い出すんだ?と村瀬は考える。

「おっとそうだったね、村瀬警部、今あなたが抱えている事件の情報を提供したい。」

「事件の情報?こんな真夜中に何の御冗談で?」

 いたずら電話か。

なら何故警察用の携帯番号を知っているのか。

「松戸市連続殺人事件、中学校襲撃事件、さらに言えばここ3か月の不審死ほぼすべての情報だ。」

「……、どちらでその情報を?不審死と中学校襲撃については…。」

「はは、あたってるからって正直に答えちゃう所、ほんとに変わってないね、村さん。」

 中学校襲撃事件?

昨日発生したばかりの事件じゃないか。

争った跡、血痕、証言は揃っているのに肝心の当事者は全く見当たらないという意味の分からない事件……。

「こちらから質問をしても?」

「ええ、構わないよ。」

「なぜその事を知っている?返答次第ではただでは済まないぞ?」

「おお怖い、なんでだろうね?すべての事件の関係者、っていうのが一番正しいかな?」

 怖い。

確かにそう聞こえたが、まったく信じられない。

臆している様子が全く感じられないのだ。

「君、年齢は?」

「一応15。」

「一応?」

「一応。」

 15歳……。

声の高さからは理解できるが、一応とはいったい何なのか。

やはり、馬鹿にしているのだろうか。

「まあいい、名前は?」

「秘密。」

「匿名という事でいいのかね?」

「明日には名乗るよ。」

「明日には?」

「うん、明日には。」

「どういうことだ?」

「明日、あなたの性格実績を信頼して、直に会ってお話がしたい。」

「名前を名乗らない人間と話が出来るのかな?」

「出来るよ、明日の午前11時、特別捜査課の個室で。」

「なるほど、君が会いに来てくれるんだね?」

「そういう事。」

 成程、読めたぞ。

こんな時間に私の携帯にかけてくるのだから、間違いない。

「馬鹿らしい。」

「嘘じゃないよ?」

「子供の悪戯にしては上出来だ。さ、署の誰の子供かな?」

「誰の子供でもないよ、じゃあ証拠。」

「はは、教えてご覧?出来るものならね。」

「連続殺人事件の被害者の子供達は坂崎竜太の元で保護されてる、その数は竜太を含めて6人。」

「……?」

 嘘だろう?

竜太君や子供達の事に関しては、私を含め3人しか知らない。

そして私以外は結婚していないし、情報を漏らすような人間はいない。

 竜太君も子供達も、マスコミとは接触させていない。

それは、昨日確認したばかりだ。

「名前を1人ずつ上げていこうか。坂崎竜太、浩輔、祐治、佐野妻大志、荒井大樹、河野陽介。」

「……。」

「昨日起きた襲撃事件の容疑者はとあるカルト教団、それを俺が止めた。」

「それで……?他には……?」

 子供達の名前、しかも全て当たっている。

 怪しい。

しかもこの青年は私が疑っているのを知っていて楽しんでいる。

「それは明日会ってから詳しく話したいかな、電話越しだとどうも話し辛くて。」

「……。」

「あ、どうしても信じられないっていうなら、明日の朝松戸市で3年前に廃校になった、北中学校の体育倉庫に向かってみるといい。そこには山内雄也君をいじめてた5人組が気絶してるだろうから。」

「どういうことだ?」

「雄也も今一緒にいる、辱めを受けてる所を保護したから。なんなら明日一緒に連れて行こうか?」

 山内雄也君。

確か、坂崎君の通う中学校に在籍している生徒だったか。

 事件の聞き取りをした生徒の中に、そんな名前があったのを覚えている。

「私が坂崎邸に向かうのではだめなのかね?」

「だめだね、子供達に聞かせられる話じゃない。」

「では山内君を連れてくるのもまずいのでは?」

「雄也には先に倉庫での一件を話してもらってから帰すから、話はそのあと。」

「わかった、そうしよう。」

 怪しすぎる。

がしかし、ここは相手の言うようにした方がいいだろう。

 竜太君と関わりが深く、事件の解決を望んでいるのなら…。

それとも、事件の参考人と考えた方がいいのだろうか?

「もしも村さんが家に来たり、その時間に部署にいないか他に誰かいたりしたら……。」

「もしそうしたら?」

「俺は現れない、事件は絶対に解決しない。」

「脅しかい?」

「念のため、ね。それほど機密性が高く数居る警察関係者の中で、あなたにしか言えない情報だから。」

「わかった、君の話を信じてみる事にしよう。」

 信じられるわけがない話なのは分かっているが、しかし諸々の要素を考えるにここは信じているふりが一番だろう。

「ありがとう、それじゃ明日。」

「ああ、ゆっくりと休みなさい。」

 電話が切れる。

着信履歴を確認すると、坂崎竜太と書いてあった。

どうやら竜太の関係者なのは間違いがないようだ。

 誘拐犯?信頼を置ける第三者?

誘拐犯ならこんな電話をしてくるだろうか?

しかしそれも相手の策略かもしれない。

「とにかく彼の言う通りに動いてみようじゃないか。」

 村瀬はそう呟き、眠りについた。


「……、さて村さん信じてくれたかな?」

 信じていたならただの馬鹿だろう。

と言いつつ、村瀬という男が約束を守ることは知っている。

 彼は約束を守るだろう、そう心の中で笑い、ディンは目を閉じた。


 次の日の朝。

「いってらっしゃーい。」

「おう、行ってきます。」

 竜太に見送られ、ディンと雄也は家を出た。

 9月の半ばの残暑の中、ディンは薄手の半袖パーカーに七分丈のズボン。

雄也は半袖シャツに半ズボンという格好だ。

「さて、行きますか。」

「お、おう……。」

 顔を合わせるでもなく、目を合わせるでもなく雄也が答える。

朝起きてからずっとこの調子だ。

「さて、と。」

 気にしていない様子で雄也の手を取り、そして。

「飛ぶか!竜神術、清風!」

「え!?うわぁ!?」

 不意に唱えると、2人の体が宙に浮く。

どんどん離れていく地面、風を切りながら上昇する2人。

 雄也は恐怖より、驚きで声を上げる。

「ちょっまっ!」

「はは!気持ちいいだろ!」

 そんな雄也をしり目に大笑いしながらさらに高度を上げていく。

「行くぞ雄也ぁ!」

「わあぁぁぁあ!」

 雲の上に出たかと思うと突然雄也を放り投げ、体を水平にして背中に乗せるように調整する。

がむしゃらにディンにしがみつく雄也、ぎゅっと目を瞑り恐怖と戦っている。

「雄也!高いの苦手か!ほら、綺麗だぞ!」

「……!」

 ディンに唆され、恐る恐る目を開ける。

「わぁ!すげぇ!」

「だろ?」

 自分達のはるか下に広がる雲海。

初めて見る光景に、怖さを忘れて心を奪われる。

「きれいだ!」

「はは、喜んでくれてよかったよ!」

 そのままの高度で飛ぶ2人。

雄也は目の前に広がる景色に魅入っているのか、それ以降声を発さなくなった。


「……。」

 どこまでも広がる空の中。

雄也は自分の小ささを考えていた。

 こんな広い、果てしない空の中で。

自分とディン二人きりで。

 自分は世界一不幸だと思っていたのに、たった1日で、そうじゃないんじゃないかと思う。

不思議だ、とても不思議だ。

 それでいて、とても心地いい。

自分を助けてくれた人と、自分を受け入れてくれた人と。

こんなきれいな景色を2人占めしている。

 ここなら竜太達もこれやしない、家族だってここまで来て叩いたりすることは出来ない。

自分を助けてくれた、みんなを助けてるそんなすごい人と。

今自分が一番傍にいられる、それは幸せだった。

 ディンの事が好きだ、この気持ちが作られたものだとしても。

ほんとはそうじゃないとしても、それでもいい。

初めて、幸せだと思えたのだから。


「なあ、ディン。」

「ん、どした?」

 ふと口を開く雄也に驚くディン。

首を傾げ、答える。

「なんで俺の事知ってたんだ?」

「やっぱ気になる?」

「なる。」

 唐突な問い。

それはある意味必然と言えるだろう。

「うーん、信じてくれるかな?」

「何言われても信じるよ、だって今空飛んでるんだし。」

「わかった。」

 ディンはゆっくりと話を始めた。

自分が一度皆と会っている事、皆が死んでしまった事、それが嫌で過去に戻った事。

 ゆっくりと、どこで横やりを入れられてもいいように話をした。

「……。」

 しかし、雄也が横やりを入れてくることはなかった。

ただ黙って、ディンの話に耳を傾けていた。

「……、だからみんなの事を知ってるんだよ。」

「……。」

 ディンがそう締めくくって口を閉じるが、雄也は黙ったままだ。

「……、あのさ、ディン。」

「なんだ?」

 1分程経って、雄也は口を開く。

「その時って俺ディンとは仲良くなれてたのか?」

「そうだなぁ、仲良かったと思うぞ?」

「そっかぁ。」

「なんでそれを今?」

「ううん、何でもない!」

 答えを聞き理由をはぐらかすと、満足げに笑う。

聞いても仕方がないかと思い、ディンは問うのをやめた。


「雄也、そろそろ降りるぞー。」

「え、もぉ!?」

「もぉって、30分は飛んでたぞ?」

「もっと飛んでたいー!」

 雄也が駄々をこねるが、ディンは仕方ないよと急降下を始める。

「うわぁぁぁ!」

 不意な急降下に驚き、30分前と同じようにディンにしがみつく。

「うわぁぁあ!」

「やっほぉ!」

 スカイダイビングの勢いで滑空していき、あっという間に雲海を抜ける2人。

雲の下ではいつの間にやら雨が降っており、雲の中で濡れた2人をさらに濡らしていく。

「竜神術、夢幻。」

 ディンが唱えると、魔力の発生源であるディンと干渉点である雨粒から霧が現れた。

「雄也!離すなよ!」

 落下していく2人、ディンは体の周りに魔力を集め、浮力を作り始めた。


「霧が……。」

「村瀬さん、どうしました?」

「いや、霧が濃くなってきたから気を付けないといけない。」

「や、確かに。」

 警視庁特別捜査課所属、村瀬警部。

そして部下である入栄刑事はとある事件の捜査資料をまとめる為に、警察本庁の最寄り駅である桜田門駅へと到着し一息ついていた。

「しかしまあ、わけのわからない事件が増えましたねぇ……。」

「そうだね。」

「まさかあんな風に子供が倒れてるなんて、見たことあります?」

「ないね。」

「なんかそっけなくないです?」

「本庁前だからといって民間人が沢山居る所でこういう類の話をしない、というのは警察にとって当たり前だろう?」

「あ、すみません……。」

 注意されてばつが悪そうな顔をする入栄を他所に、速足で建物の中に入っていく村瀬。

「あ、まってくださいよぉ!」

 それを追いかけるように、入栄も本庁へと入っていった。


「あ、村瀬警部!お客様がお見えですよ?」

 受け付けの女性に声をかけられそちらを見ると、1人の少年がいた。

「君は……、山内君かな?」

 村瀬の視線の先には雄也がいた、しかも1人で。

「えの、えっと…。」

 いざ会ってみると声が出ない様子の雄也。

「ここで、村瀬さんって人を呼んで、横にいる人に、話を聞いてもらえって……。」

「彼は来ているのかな?」

「え、なんか、待ってるって、言ってました……。」

 しりすぼみになっていく声。

雄也は元々内気なのか、警察本庁に1人置き去りにされたからなのか、ひどく怯えていた。

「わかった、彼に話してあげてほしい。」

 村瀬は優しく伝えながら、あとから入ってきた入栄を指さす。

「入栄君、今朝の件の当事者の少年だ、近くのファミレスでもてなして、聞ける範囲で話を聞いてくれ。」

「え?あ、了解です。」

 入栄はきょとんとした顔をしながら雄也に目線を合わせる。

「僕は入栄っていうんだ、お話聞かせてもらってもいい?」

「は、はい。よろしくお願いします……。」

「と、入栄君。話が終わったら彼を家まで送ってあげてくれ、おそらく坂崎邸で良いはずだ。」

「了解です、えーっと。」

「あ、山内、雄也です。」

「じゃあ山内君、行こうか。」

 そういって入栄は手を差し伸べるが、さすがに中学生の雄也は遠慮し、2人は並んで歩いて行った。

「さて、来客はこれだけかな?」

「いえ、もうお1人、先ほどの子と一緒に来ていたんですが……。」

「どこかにいってしまった?」

「はい。」

「わかった、ありがとう。」

 村瀬は受付に礼を言い、エレベーターに乗った。

そして、特別捜査課のある階のボタンを押し、ため息をつく。


「特別捜査課」

 ドアの上にそう書かれた部屋の前につき、村瀬はドアノブを握って止まる。

 さてご対面なのか?と普段使っている部屋のはずなのに、まるで就職面接に来た学生のような気分になる。

一度深く深呼吸をし、ドアを開けた。

「……。」

「……、こんにちは、村瀬警部。」

「君は……。」

 部屋に入って右側、来客用ソファにドアに背を向けて外人と思しき男が座っていた。

その男は、ドアが閉まる音を聞くと同時に振り返ることなく声を発した。

「……、君は誰だ……?」

「いったろう?事件の事を知ってる、匿名の提供者だよ。」

「情報提供者がどうやって誰にも咎められずにここに座っているんだい?」

「さあ、それはこれから全部話すよ。すべて約束通り、雄也はあの優しそうな刑事さんと一緒かな?」

「ああ、彼は人がいいから任せて問題ない。」

 振り返る事のない客人に苛立ちを感じながら、約束通り現れたことに少し安心する。

荷物をデスクに置き、来客者とは反対側のソファに腰掛けるべく移動する。

 警戒を怠らず、目を離さずに。

「そんなに見つめられたら、目線で体に穴が開いちゃうよ。」

「君を信じきったわけではないからね。」

 村瀬はそっけなく答え、男と対面した。

「改めまして村瀬警部、ディン・アストレフというものです。」

「本庁特捜課の村瀬だ、ディン君、初めまして。」

「君なんてつけなくていいのに。」

「いやいや、年長者として当然の礼儀だよ。」

 砕けた話し方のディンに対し、硬い姿勢の村瀬。

どうにも話が出来るような空気ではない。

「もう一度聞かせてほしいんだが、君は何も……!」

「俺の眼を見て。」

 話しかけている途中に遮られ、ぐいと顔を近づけてくるディン。

「いったい、何を……!?」

「いいから、あと3秒だけ。催眠術とかじゃないから安心して。」

「……。」

 あまりに真剣な声に、思わずそれに従ってしまう村瀬。

「……、頭が、痛くなってきた……!」

 そう呟いた時には、もう遅かった。

「ぐ、うぅぅ……!」

 ディンから目を離し、頭を抱える。

「な……、これは……?」

「頭痛収まるまでこらえて、村さんならそうかからないから。」

「何……を……!」

「記憶の転写。」

「きお、く……?がぁ!?」

 叫んだと思えば黙る村瀬、天を仰ぐように頭を上げ目を瞑る。

「ディ……、ン……!」

「ごめんね、村さん。」

「ディン!」

 大仰に立ち上がると、ガラステーブルがあるのもお構いなしにディンの肩を掴む村瀬。

「お前!どうしてたんだ!」

「ごめん、こんな方法しか取れなくて。」

 肩を揺さぶりながら問う村瀬と、申し訳なさそうな顔のディン。

ディンが使った魔法は記憶転写術というもので、ディンが考案、開発したディンしか使えない魔術だ。

「そんなことはいいんだ!あぁディン!」

 ぐるっとテーブルの周りを歩き、ディンを強く抱きしめる。

「あれからずっと、辛かったろう?」

 時間軸の終局まで生きていた村瀬は、子供達がどうなってしまったのかを知っていた。

デインとの闘いの惨状を。

「村さん、痛いよ。」

 嬉しさと寂しさが混じったような笑顔で伝えるディン。

「おお、すまない。」

 その言葉で我に返り、村瀬はディンを開放した。

「もし平気だったらどうしていたのか教えてくれないか?」

「ああ、村さんには話すつもりだったから。」

 そうしてディンは1時間ほど前に雄也に語ったように語りだした。

もう少し詳しく掘り下げて。


「……。」

「……。」

 語り終え、しばし無言になる2人。

5分ほど経ってから、村瀬が口を開いた。

「じゃあディンは今600歳前後で、竜太君はディンの息子だと。」

「そうなるね。」

「右腕はお兄さんとの戦いで失ったのか、でも治せなかったのかい?」

「治せなかった、それほどデインの呪いは強力だったから。」

「それで過去に戻って、竜太君がここにきて。ディンは力を取り戻してここに来たのがあの日だった、と。」

「しかも、取り戻せたのは最低限だから、まだ全快じゃないんだよ。」

「うーむ……。」

 立て続けに質問をし、聞き辛そうに話を続ける。

「なあディン、悠輔は……。」

「俺の中で眠ってる、もう500年。」

「そうなのか……、いや、そこじゃないんだ。」

「というと?」

「悠輔の事、あの子達は覚えていないのか?」

「そうだね。悠輔の事も俺の事も、覚えてないよ。」

「さっきの魔法は使えないのか?」

「無理かな。」

「何故だ?」

「……。」

 最後の問いには即答せず、考える。

「言いづらいならかまわないぞ?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。」

 言い淀むディン。

仕方ないかと息を吐き、ゆっくり話し始めた。

「自分達が死んだ記憶、酷でしょ?」

「それは確かに、そうだが……。」

「竜太もみんなも俺を受け入れてくれた、だから俺はこれでいいんだ。」

「でもそれでは…。」

「いいんだ、悠輔だって望まないだろうし。自分の死んだ記憶なんて思い出させるもんじゃないんだ。」

 意見を変えるつもりはない、そう受け取れる拒絶の意思。

それが言葉とともに吐き出されるのを、村瀬は感じた。


「ところでさ、今回の事件大体の事わかったっしょ?」

「お?まあ大体同じだからな、しかし……。」

「今回総理のもとに坂崎からの手紙や直談判はなかった。」

「のか。」」

 突然の話題変更に驚きつつ考える村瀬。

前回と一緒なのならば、今頃自分は竜太の監視をしているはずだ、と。

「前とは少しずつ物事が変化してる、というより歪んでるんだ。」

「もしかして、一昨日の一件も?」

「襲撃者の中にみんなの親がいた。」

「馬鹿な!」

「そう、おかしいんだ。でも、俺はあの人達を見間違えるほど耄碌してない。」

 ディンの言葉に確証を感じた村瀬は、この件に関する追及をやめた。

「では、今回はお互い動きづらいのか。」

 村瀬はため息をつきながら話す。

ディンの話を聞き記憶がある以上、手伝わないという選択肢はない。

 がしかし、今回は一介の警部だ。

「いや、首相の記憶戻してあるからもう少ししたら動けるようになるよ。」

「そうか、もう魔物は認知され始めているからな。」

「そゆこと。」

 苦笑いを浮かべる2人。

また大悪党として名を馳せる事になるんだろうと、苦々しさがある。

「まあ、今日はこれだけ伝えに来たんだ。」

「そうなのか、これから昼飯とでも思ったんだが…。」

「まだ色々やらなきゃならないことあるからさ、また落ち着いたときにでもね。」

実際には用事というよりも、記憶転写に多量の魔力を使い消耗しているという所だが。

「じゃ、またなんかあったら連絡するね。」

「わかった、ディン。」

「何?」

「今度こそ、守ろう。」

「次なんてもうないからね、死んでも守るよ。」

「そうか、またな。」

 一瞬真剣な面持ちで誓い合い、ディンは転移を使って家に戻った。


 2時間後に帰ってきた雄也は、ディンが先に帰ってきているのを知って怒りながら笑った。

「もう、置いてかれてたのかよ……。」

「あれ、雄也お帰り!」

 ひょっこり顔をだした竜太に迎えられる雄也。

「え?」

「おかえり。」

「う、うん、ただいま。」

 戸惑う。

お帰りとは家族に言われるもので、ただいまとは家族に言う事だ。

昨日ここに泊まっただけなのに、何故。

「もうここが家で、みんな家族なんだからさ。」

「いいのか……?」

「だめだったらこんなこと言うと思う?」

 全くそんなことを聞くもんじゃないといわんばかりの竜太。

雄也の境遇を聞いて、家族として迎え入れようと皆で相談し、決めていたのだ。

「竜太……、ありがと……!」

 めいっぱいに涙をため、お礼を言う雄也。

 もう何年も感じていなかった、家族の愛というもの。

何年も望んでは諦めを繰り返していた、ほしかったもの。

それをたった2日間で満たしてくれる家族が、、ここにはいた。

 家族になってくれる、愛を与えてくれる。

そんなディンや竜太、子供達の優しさに雄也は涙を流し続けた。

優しく包み込んでくれる、竜太の懐で……。

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