雑記の雑記(後編)

 後半は人物以外の設定と、少しだけ創作論にも踏み込んで参ります。




【新月流】


 新月流兵法は元々は乱世の中で発達してきた対人武術です。澪の必殺技ともいえる〈よう〉の型が脇構えから始まるのも、鎧武者同士が戦う介者剣術の名残りです。


 そんな新月流ですが、作中で披露される技の中で異質なものが一つあります。

 第39話 (【旧版】では第19話)で澪が永和ヨンホァを下した〈ちょう元坊げんぼう〉がそれです。昔のお侍さんはさすがにあんなアクロバティックな剣術は使っていませんでした。


 実のところ〈ちょう元坊げんぼう〉は、多くの刺客に命を狙われていた澪の母・美法が対忍用に編み出した奇襲技です。本来は崖や樹上などの高所から仕掛けることを想定しています。

 これを娘に伝授したのはほんの気まぐれからでした。


美法「一応教えるけど真似できないだろうな……できるんかい!」

澪「一応できたけど使う機会ないだろうな……あるんかい!」


 結果として永和姐さんが犠牲になりました。ご愁傷様です。




【ゴブリン】


 ゴブリンの五大生息域を『チェリー・ファイブ』と名づけたのはオルカナ王国出身のシモネッティ博士という人です。

 ゴブリンの生態研究に一生を捧げた博士の人生は伝記にもなっていて、現代の児童たちにも親しまれています。

 晩年にはゴブリンとの共同生活を目指し旅に出ますが、二度と帰って来ることはありませんでした。百年ほど前の話です。




【人馬族】


 こちらも百年ほど昔、人馬の住む亜大陸に流れ着き帰還した漂流者の手記が出版されています。

 記録によれば人馬族は遊牧民で、生活水準は当時の人間たちよりも質素でしたが、すでに独自の魔導文明を築いていました。

 彼らは祭りの一環で魔物を狩る勇猛な一面も持っていましたが、漂流者を優しく持て成し、別れの際には揃って涙を流す情に厚い人々だったと記されています。


 有名な人馬に『十三年戦争』で活躍した双子姉妹・ナランツェツェグとサランツェツェグがいます。二人とも一〇八星や十尾の召喚士に数えられる英雄です。

 仲睦まじい姉妹の逸話はとくに東洋で人気あり、イムガイでは『陽子と月子』の童話で親しまれています。絵本で初めて人馬族を知る子どもも多いようです。




【人魚族】


 はるか昔にはパタグレアの海域にも人魚が住んでいましたが、霊脈の変動による海水温度の上昇とともにこの地を去っています。


 さらに南洋には海洋王国ヌメスタキス (Noumestakis)の存在が伝わっていますが、現在も存続しているか否かは不明です。

 王国は一〇八星の一人〝半裸王〟イェリフィキウス (Jeliphichius)により建国されました。霊槍ティムルキプス (Timlkips)を手に南方諸島を魔軍から守り抜いたとの伝説が現地に残っています。




 一〇八星の逸話はほかにもありますが、続編で触れられるかもしれません。それが本編の中でになるのか、設定集や裏話になるかのはまだ未定です。


 以降は『マレビト来たりてヘヴィメタる!』に関する作者自身の個人的なつぶやきになります。




【本作について】


 本作のテーマは人生を「前に進む」です。

 献慈は「マレビトとは何か」、澪は「母親の復讐」という利己的・個人的な問題をそれぞれ乗り越え、利他的・大局的な視点を獲得します。自分探しや復讐劇は作品の本質としては考えていません。


 それから本文は、一貫して主人公・献慈に視点を固定 (三人称一視点)して書かれています。これは作者が執筆するにあたり課した制約のひとつです。草稿では一人称でしたが、序章時点で三人称に転換しました。


 元々はエピソードごとに視点人物を変える群像劇をメインに書いてきた作者にとって、今回のような縛りプレイは挑戦でした。次作からは本来のスタイルに戻ると思います。




【主人公/主役】


 プロット以前に決定させたのが主役コンビの物語上の立ち位置です。具体的には以下の三点となります。


①献慈は「主人公」=視点人物

 澪は物語 (本筋、献慈を語り部とした復讐劇)の「主役」


②献慈は母性的 (共感力・寛容性・曖昧さの受容)

 澪は父性的 (牽引力・状況打破・割り切り)


③献慈は一貫性 (澪姉が第一)と特異性 (マレビト)

 澪は武力と魅力 (華がある外見や立ち回り)


 ヒーローとヒロインの役割をシェアし合っているのがおわかりいただけるかと思います。なお、②については完全に固定されてはおらず、場面に応じて使い分けています (ターニングポイントとなる第五章が顕著)。




【設定の作り方】


 世界観の設定は、最初に思いつく限り決めてしまいます。矛盾が出ない範囲で後から修正する場合もありますが、基本的に変更はしません。作風やストーリーの軸がブレるのを防ぐためです。


 逆に人物設定は最初はおおまかに決め、書き進めるうちに詳細を掴んでいく形を取っています。作中の言動をもってキャラクター自身からプロフィールやバックグラウンドを「教えてもらっている」感覚です。


 一言で表すと、世界観は「演繹的」、人物像は「帰納的」にそれぞれ作り上げられています。




【終盤のプロット】


 ヨハネスとの決戦について。バトルの展開に関してはあらかじめ何通りものルートを考えてありましたが、最終的にはライブ感を重視した流れにしました。


 最初から決まっていたのは、とどめの一撃が仕込み刀での〈新月〉という点です。澪の一時離脱から献慈が持ち堪える展開も、主人公の見せ場として必要だと思い早期に用意しました。


 献慈の覚醒後は戦闘スタイルをガラリと変えるアイデアもありましたが、採用は見送りました。単騎で魔王を抑え込むのは現実的でないと思い、続編で使う予定だったカミーユの〈精霊鎧装〉を急遽お披露目参戦させています。


 決戦後のライナーたちとのやり取りも続編を考え、どこまで踏み込んで説明するか悩み抜きました。ですが物語にきっちり区切りはつけたかったので、現在の形に落ち着きました。




【超個人的いきさつ】


 本作は元々極めて個人的に書いていた小説で、発表の予定などはありませんでした。

 決断の時期は最終決戦の執筆中です。ダラダラと四年も書き続けていたので、一旦締め括る契機として投稿に踏み切った次第です。


 なおこのタイミングで、続編での登場予定だった魔王ヴェルーリに前倒しでお出ましいただいています (本稿『裏話 第八章~終章』参照)。居城でふんぞり返っている本体の再登場は今しばらくお待ちください。




 長々と裏設定を語ってまいりましたが、所詮は「作者が勝手に言ってるだけ」の設定なので、読者の皆様は気にせずお好きな解釈で楽しんでいただければと思っています。


 最後までお付き合いいただきありがとうございました。『鋼鉄レトロモダン活劇』の第2部にてまたお会いいたしましょう。




真野魚尾

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