【設定】ヴァンピール

◆ヴァンピール Vampir


 ドヴェルグの不老不死実験の過程で生まれた、霊的な病を罹患した者の総称。驚異的な自己回復力と引き換えに、抗い難い捕食本能を有するに至った。なおこの自己再生能力は、生物的な代謝機能とは別種の霊的メカニズムによるものである。




◇純種 Vampir Origin


 ヴァンピールとは元来、『蓬莱果 (アンブロージア)』 (※)を核として取り込み、人為的に霊質を過剰適応させた状態を指す。その第一世代をオリジンと呼ぶ。


 オリジンは個体存続の危機に際して〈励起〉 (※※)と呼ばれる一時的な暴走状態を作り出し、戦闘力を飛躍的に高めることが可能。この能力は「核」の後継となる器にも引き継がれる。


※『蓬莱果』……リコルヌの角髄を濃縮・純化させた結晶体。


※※霊物間のエネルギー変換量が閾値を超えると、体の輪郭が陽炎のように揺らめいて見える現象 (ミラージュ現象)が起こる。励起状態にある個体は銀髪・金眼の外見的変化に加え、常にこの現象が発生している。




◇眷属 Vampir


 通常、ヴァンピールと呼ばれるのは、オリジンによって感染させられた『眷属』をいう。『眷属』は核を持たぬがゆえ、自己修復能力はオリジンに劣る。なお人間の体組織を摂取するのは不老を保つためであり、生存そのものには必須ではない。




◇なりそこない Lesser Vampir


 ただし『なりそこない』=レッサーヴァンピールに関してはこの限りではなく、他者の生体組織の取り込みが生存に不可欠な処置となる。維持コストがかかるため、上位のヴァンピールからは使い捨ての尖兵として扱われる。




◇食性と体質


 人間の生体組織 (主に血液などの体液)を捕食することで体力 (肉体)と霊力 (霊体)両方を補う。


 動植物の捕食=人間と同等の食事はヴァンピールにとって燃費が悪い。主に肉体面しか補うことができず、糖新生のような形で肉質から霊質を生産することになるためである。


 入浴の必要性はあまりない。体表面の微生物や老廃物なども吸収・分解してしまうため。


 過去には捕獲されたヴァンピールに対する非人道的な実験が行われ、こうした生態がある程度判明している。ただしその記録のほとんどは一般に閲覧が許可されていない。




◆人間社会との関係


 その生態ゆえ、必然的に人類とは敵対関係にあるものの、概して人類を滅ぼすまでの脅威となることは望んでいない。これは、宿主の死がウィルスにとっての危機となるのと同様の理由によるものである。


 一方で、異なる思想を持った者たちが集い、それぞれの勢力を形成している。以下の三派がそれである。




◇過激派


 人類と明確に敵対する勢力。人間社会とは距離を置き、荒野や山岳地帯に隠れ住む。

 過去幾度か、人間を隷属化・管理するべく動いた者たちがいたが、いずれも危険思想として内部粛清の対象となった。その残党といえるのがこの一派である。

 星辰城に居を構える魔王ヴェルーリもこの過激派に当たる。




◇穏健派


 現在、ヴァンピールの主流となっている勢力。主に都市部などで小規模なコミュニティを形成し、相互扶助・監視に努めている。

 穏健とはいうものの、捕食本能自体は否定していない。あくまで人間社会との適度な距離を保ちつつ、「適量」「適宜」捕食する生き方を選択した者たちである。




◇無頼派


 派閥には属さず気ままに生きることを良しとする「はぐれ」。基本的に孤独だが、まれに数人で行動する場合もある。

 穏健派に準ずる生き方を個人の裁量で実践する者、度を越した捕食活動が目をつけられ討伐対象となる者、一切の捕食を断ち自然死を選ぶ者など、実態はさまざま。




◆魔王 The Dark Lord


 魔王ヴェルーリ。本名ヘゲデュシュ・イシュトヴァーン。

 およそ百年前、ヴェロイト帝国東部の地方武官だったその男は、自身の信奉者たちとともに領地一帯を占拠、一方的な独立を宣言する。


 帝国は軍を差し向けこれを鎮圧にかかるが失敗に終わった。あろうことか、投入した兵の大半が『眷属』化し、賊軍へと寝返ったのだ。


 反逆者がヴァンピールであった事実は帝国中を震撼させた。

 その後、敵は表立った侵略行動を起こさなかったため、危機感は次第に薄らいでいったが、散発する『眷属』事案はゆっくりと確実に社会を蝕んでいく。


 時は流れ、いつしか魔王ヴェルーリと呼ばれるようになった巨悪との戦いは、烈士をはじめとした少数精鋭による遊撃態勢へと移行していた。


 日々各地に出没する『眷属』の脅威を抑えつつも、大元を絶たねば真の明日は来ない。魔王を討ち果たさんとする勇者の出現が望まれるのは、必然の成り行きであった。

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