第45話 真実
久々の自分のデスクで伸びをする。
「いやぁ、同じ職場に再就職するなんて経験ないからちょっとドキドキしてたけど初日で慣れるね」
私が由利亜に言うと由利亜はぎこちなく微笑んだ。
「……まだお祖父さんのこととかここの会長のこととか気にしてる?」
「……はい。戻りたくて戻ってきたのに分からないことを分からないままで戻ってきて、また何も知らないまま戦ってもいいのでしょうか?」
真面目な顔をしてしんみりする由利亜に近付いて軽くチョップをかました。
「痛いっ!」
「それを知るために戻ってきたんでしょ!今度こそ誰が何を言おうと全部吐かせて私達が何のために戦うのか、真実ってなんなのか、知って決めるためにまた魔法少女になるんでしょ!」
私がそう言うと、由利亜は顔を引き締めた。
「そう…そうですよね!分からないことはみんなはっきりさせればいいんですよね!また魔法少女として働けますし、言わせればいいんですよね!」
どうしよう。由利亜の性格が私に似てきた。
でもまぁ、私のせいじゃないよね!
そんな由利亜も好きだよ!
「そうだよ!今度こそ佐藤太郎を叩きのめして由利亜のお祖父さんを総入れ歯になるまでガタガタ言わせて真実とやらを知ろう!」
「いえ、さすがにそこまでは」
由利亜が急にスンッとなった。
ここはノってくれよ。
「でも、それには敵が出てくれないと分かりませんよ」
三崎さんが話に混じってきて直人くんが続く。
「そうですよね。僕達が魔法少女に戻ってきてからまだ一回も出動していません。敵側はこちらの情報を手に入れているんでしょうか?」
みんなで唸っている時にアキさんも大きく頷いた。
「ピーマンも今まで以上に緑色に艶やかな気がしますし、なにかあるかもしれません」
なんやねん。そのセンサー。
「ピーマンはともかく、私達が魔法少女に出戻った事が敵に漏れているかもしれないね。何か対策を練っているのか、今度こそ真実とやらを話す時期になりつつあるのか……」
腕を組んで考えるが、敵が何を考えているかなんて私には分からない。
そのまま一週間、沈黙が続き私達はなんとなく敵の出方が気になってプロレス技に磨きをかけるためにボスを実験台にするしかなかった。
「ギブギブギブ!!」
ボスの悲鳴と同時に警報音がけたましく鳴った。
敵が現れた合図、久々の戦闘、私達が知らない事を知るチャンス!
「みんな、いくよ!」
「はい!」
「合点です!」
返事をしてくれたのは由利亜とユウくんだけだった。
別に悲しくないし。他の三人がマイペースなの知ってるし。
現に三十五歳の体力を考えずに全力疾走して現場に向かって行っているから置いていかれているし。
……別に悲しくないし!!寂しくもない!!
現場に辿り着いてステッキで魔法少女に変身して敵を倒していく。
そこへ佐藤太郎が現れたので思いっきり飛び蹴りした。
「まだ出ただけなのに!?」
腹を抑えてげほごほ言いながら佐藤太郎がツッコミを入れてくる。
知ったこっちゃねーわ。こちとら魔法少女でそっちは敵やぞ。なんで視界に入って攻撃されないと思ってるんだ。
「リア、やはり君の技は他の人と違う」
「やかましいわ、どMヤロー」
ちらりとみんなを見遣ると頷かれた。
よし。私が佐藤太郎から聞く役目、引き受けた!
「佐藤太郎、聞きたい事があるんだけど」
「我々の目的と魔法少女の意味かな?」
先程までのどMの光悦とした表情から真面目な顔になる。
本当に三崎さんや直人くんといい黙っていれば顔がいい男が残念過ぎる。
ユウくんも他と比べれば薄いけど拳に惚れ込んで姐さん扱いだし、まともな男はいないのか。
私のせいなのか?私がダメンズメーカー…?
いやいや、今はそんなこと考えている場合じゃない!
首を横に振って雑念を追い払う。
「そう!私達ばかり知らない事があるの、不公平じゃない?」
「……いいよ。会長からもお許しは出た。我々が戦う理由を話す時が来たようだ」
随分ともったいつけて佐藤太郎が語り出す。
「人間がこぞって宇宙開拓をしているのは知っているね?」
「まあ、ロケットが飛んだとか、ニュースで見る程度には…」
「実はそこで人間がこのエイリアン達の惑星を見付け、秘密裏にその惑星にしかないエネルギー源を狙っているとしたら?そのために侵攻をしていたとしたら?突然の進撃に惑星を蹂躙された彼等がこの星に恨みつらみを持って反撃に来たとしたら?」
「………」
そんなの、先に手を出したこっちが悪いじゃん。
「それがあんた達の戦う理由?やられたからやり返してるの?」
「それもあるが、彼等は彼等の住む星を守るために戦っている。この地球のために戦う君達と変わりはない」
それを言われたら何も言い返せない。
せめて、あっちが絶対的な悪ならよかった。
こちらが悪いのならば、これは不毛な戦いだ。
なんで私達は戦っているんだろう?
「何故戦うか、分からない顔をしているね」
「だって、そんなの、そんなの急に言われても分からないじゃん」
本当に分からない。
悪いのは先に蹂躙して彼等のエネルギーを奪おうとした地球側だとしたら、私達はどうすればいいのか。
戦う意味を見失った私は佐藤太郎を殴るために鍛えた拳をただ握り締めるしかなかった。
でも、これだけは譲れない。
「植民地にしたい理由は分かった。そっちが戦う理由も。でも、だからといってこの星をエイリアンに渡すわけにはいかない」
「渡すなんて言っていない。こちらのエイリアンはすべてを許して共存しようと言っているんだ。何故分かってくれないんだ、リア」
「じゃあなんで街を破壊するの?」
「それは先にそちらの魔法少女の下部組織が攻撃してくるからだ」
それも知らない事実だった。
なんだよ。下部組織って。あの会長、まじで何も知らせず私達を働かせていたな。
握る拳に力が籠る。
佐藤太郎は諭すように続ける。
「リア。そちら側は、こちらが持つ未知のエネルギーを狙っている」
「さっきも聞いた」
「忘れないでくれ、リア。魔法少女も人間の政府の手先ということさ」
それは……そうだろう。
人間の代表として戦っているんだから。
「こちらの話を信じてくれと急に言われても困惑する気持ちは分かる。だが、そちらのすべてを信じないでくれ」
それは懇願に似た言葉だった。
足元がぐらつく。
「リア!」
雑魚敵を倒したユリアがこちらに向かってくる。
「邪魔がはいったな。忘れないでくれ、リア。こちらは決して敵になろうとしているわけではない事を」
「リアに手出しはさせません!」
ユリアが佐藤太郎に牽制する。
「会長のお孫さんか……。魔法少女になるのも運命かもね」
「どういう意味ですか?」
そこで佐藤太郎はほんの少し緩んだ優しい顔をした。
「会長は誰よりも魔法少女を信じているからね」
なんで敵の会長が魔法少女を信じているんだよ。
魔法少女の会長なんてすぐにクビにするようなじじいだぞ。
なんで佐藤太郎がそんな顔をするんだよ。
「それじゃあリア、忘れないでくれ」
そう言って佐藤太郎は帰って行った。
「リア、大丈夫ですか?顔色が悪いです」
「大丈夫」
短く返しても頭はぐるぐる回っている。
私は、仲間にどんな顔をして佐藤太郎の話をすればいいんだろう?
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