第38話 復縁なんてありえなーい☆

買収されてから仲間は私と佐藤太郎との復縁コールをするようになった。

唯一由利亜だけが中立を保っている。

本人曰く「こういうことは本人達の問題ですので…」とのことだ。

その優しさが泣ける。買収派は一通りしばいておいた。

「しかし、そんなに顔も家柄も立場もいい佐藤太郎専務と山田くんが知り合える事自体が奇跡みたいなものだと思うんだが、一体どうやって知り合ったんだい?」

「やだ〜!ボスったら〜!私はいつでもモテモテですよ☆」

鳩尾に華麗に肘鉄がキマってデスクに倒れ込んでいるけど知ったこっちゃねー。

まさか顔面良すぎて逆ナンしたら引っ掛かったなんて言えない。

あの頃は私も若かった。

しかし、この手癖足癖は変わらない。

付き合っている間、喧嘩の度に自分でもどこで鍛えられたか分からないプロレス技の数々を仕掛けても笑って許して折れてくれた。

…………やだ!もしかしてあの頃からマザコンナルシストクソヤローじゃなくてどMマザコンナルシストクソヤローだったの!?

自分の男を見る目のなさが嫌になる!

海のバカヤロー!!海見えないけど!

「いい男ってそこら辺に落ちていないものなんですね……」

私が黄昏て言うと直人くんが「相手側も選ぶ権利があると思います」と正論を言ってきたのでまた私の肘鉄が炸裂した。

やっぱり今日の肘鉄はキレがある。

敵、今日出てこないかな。

このイライラが物理的力によって発散されるから雑魚的との戦闘は嫌いじゃない。

問題は佐藤太郎が出てきたらどうしようかということだ。

絶対会いたくねー。

私のそんな心情が全面に出ていたのだろう、アキさんが訊ねてきた。

「山田さんの好みってどんなタイプですか?」

「顔が良くてお金持ってて私に優しい人かな」

照れながら答えると審議の札が上がった。

「山田さん、自分の欲望ばかりですね」

「相手を思いやる気持ちはないんですか?」

「そんなんだから振られてばかりなんですよ」

「うるせーーー!!!振られたんじゃないんですー!振ったんですーーー!!」

肘鉄三連発が流れるようにキマった。

やっぱり、今日の肘鉄はいい感じだ。

なんでこういう時に限って敵が出ないんだろう。

私の肘鉄が仲間内に発揮されてしまう。

由利亜はそっと自分の脇腹を抑えて私から距離を取っていた。

まったく、正論ばかりでうるせー!私は私を甘やかしたいんだよ!!自分で自分を甘やかさなかったら誰が甘やかすんだ!!……パートナーか!思いやり……そうか、私に足りなかったのはそれか!

私は真実に目覚めて「分かった!人に優しくしないと優しくされないんだね!」と小学生みたいな事を言ってしまった。恥ずかしい。

でもみんなからようやく分かってくれたのかと拍手された。

なんだこれ。羞恥プレイ?

私がまた肘鉄のポーズを構えると蜘蛛の子を散らしたかのように去っていった。

唯一由利亜だけは脇腹をガードしながらも「気付けてすごいです!真理亜!」と褒めてくれた。少しだけ悲しくなった。


しかし、佐藤太郎は何故悪の組織の専務なんてアホなことしているのか。

普通の商社に勤めていた筈…転職するほどの益が悪の組織にあるのか?

「ボス、最初のエイリアンはこの地球を植民地にしようとしたんですよね」

私の問いに復活していたボスが頷いた。

「そうだ。だから対抗するために魔法少女を作ろうとなったんだ」

「いや、なんでやねん」

なんで兵器とか武力強化じゃなくて対抗するための手段に魔法少女を選んだ???

「上層部がこういう時には魔法少女だろうと満場一致の解決策だったよ」

「いや、なんでやねん」

上層部おかしくないか?

「山田くん…偉い人というのは疲れると癒しが欲しくなる時があるんだよ」

「魔法少女は癒しですか?」

「いや、ビル破壊の報告書ばかりで上層部は頭を抱えている」

視線が痛いけど肘鉄のポーズをすると逸らされた。

やはり力こそパワー。

魔法少女が悪のエイリアンに対抗出来るのは事実だけど癒しかと聞かれると疑問だ。

ていうか癒し要らんやろ。

よく考えてみてよ、今のメンバー。

三十五歳と成人男性と未成年男性とピーマン型のエイリアンと成人女性だぞ。

誰だって魔法少女になれるとはいえ厳しい。

いやまじでギリギリ由利亜以外は正体知られたらアウトな人選だ。

上層部、もっと考えてくれ。

……面接も人手不足で一発合格だったなぁ、そういえば。

そしてなし崩し的にそのまま悪のエイリアンが出て初出動。初勝利。

ボロクソに負けて戦うのが怖くなったこともあったっけ。

なんか全部が懐かしいな。

「それで、悪の組織の目的とかってそのまま地球をエイリアンの植民地とかにすることなんですか?人間が悪の組織にいるのに?なんで人間が悪のエイリアンに力を貸しているんですか」

私の真剣な質問にボスが肩に手を置いた。

「山田くん」

「はい……」

「そんなことが分かっていたらとっくに解決策考えて対抗策実施してるって〜」

「ですよね〜」

役に立たねーーー!!!


「とりあえず、戦うしかないんですよね」

指を鳴らしながら覚悟を決める。

みんな頷いている。

よっしゃ!今度佐藤太郎に出会したら悪の組織の目的聞くまでボコってやろう!

「みんな!頑張ろう!」

私がみんなを鼓舞するとそれぞれが力一杯肯定してくれた。

「ええ、温泉地を守るためにも!」

「兄さんの幸せを守りつつ魔法少女姿を画像に収めるためにも!」

「ピーマンを撲滅するためにも!」

「この世界を守るためにも!」

うーん、由利亜以外私的理由〜!

ピーマン撲滅は地球平和とまったく関係ないしな!!

でも、これこそが私達なんだ。

「よっしゃ、頑張ろう!おー!」

「おー!」

拳を天に上げると、やってくれたのは由利亜だけだった。

みんなもうデスクに戻り始めていた。

私は競歩で華麗に肘鉄をキメていきながら自分のデスクに戻ってビルを壊した始末書に取り掛かった。

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