第31話 早乙女さんの秘密

カタカタ打ち込んでいくのは正直報告書より始末書の方が多い。

でも溜めるとやる気をなくすからどこぞの面々みたく真面目に提出するから私えらいな!

なんて自分で自分を褒めなきゃやってられない。

キュートさんから奪ったお菓子を食べつつ入力していくと早乙女さんから声を掛けられた。

「山田さん、今ちょっとよろしいでしょうか?」

「いいよー!始末書の書き方ならなんでも聞いて!」

にっこり元気よく答えると困惑された。

「私、始末書は書いた事ないです……」

でしょうね!早乙女さんだもんね!

「今度のお休みに話があるので付き合っていただきたいんですが、よろしいでしょうか?」

わざわざ改まって基地内で出来ない二人だけの話。もしかして、あの件かな?

「いいよ!大丈夫!」

またにっこり笑って答えると今度は安堵された。


そして訪れた休日。

指定された待ち合わせ場所から高級車で連れて行かれたのはこれまた高級そうなお店だった。

早乙女さんのセレブっぷりを舐めていた。

「本日は貸切にしたので、安心してください」

なんにも安心出来ねーーー!!!

スプーンとフォークが多い!!!

確か外側から使うんだよね?そうだよね?テレビ情報!!

私がびびりながら食べていく。

……めっちゃ美味しい!!

「これ、美味しいね!」

先程までの緊張も吹っ飛ぶ料理の美味しさにワインまで出されてどんどんお酒の力もありリラックスしていった。

メインが出された後、早乙女さんから切り出された。

「山田さん、前に保養所で言ったこと覚えてます?」

「うん」

「あの時、どう思いました?」

早乙女さんの真意が分からないけれど、私は私なりにあの日から考えたことを早乙女さんに伝えた。

「私は、早乙女さんが悪の組織でもなんでも仲間だと思ってるよ」

私の言葉に早乙女さんが少し嬉しそうにした。

「本当は会長じゃないんですよ」

「なんだ、そっかーーー!!よかったーーー!!!」

私は全力で脱力した。

あの日からずっとぐるぐるしていた事が早乙女さん本人から否定された。

良かった。早乙女さんと戦う事にならなくて。

安堵する私に早乙女さんは悲しそうに真実を告げる。

「悪の組織の会長は祖父なんです」

「へーーー。……えっ!?」

思わず早乙女さんを三度見したら苦笑された。

とりあえずメイン料理をまた一口食べた。

うん。美味しい。

「祖父が悪の組織の会長なのは魔法少女に勧誘される前から知っていました。それで、勧誘された時に祖父を止めるにはこれしかないと決めたんです」

「そっか」

私達の勧誘が早乙女さんとお祖父さんの決別を決定的なものにしてしまったなんて。

また料理を食べた。美味しい。現実逃避したい。

でも沈痛な面持ちの早乙女さんを目の前にしてこの問題から逃げ出す訳にはいかない。

「私は…まだ魔法少女として皆さんと祖父の組織と戦っていていいんでしょうか?」

いや、散々戦ってきたよね?

なんて野暮な事は言わない。

「みんなにはまだ言わないの?」

「…………はい、言えません…」

この世の不幸を背負ったかのような早乙女さんに、席から立ち上がり側に近寄ると、早乙女さんはこちらを向いたのでがっしりと肩を掴んだ。

「あいつらは、底抜けにどうしようもない奴らだけど、悪い奴らじゃないから」

本当にどうしようもない連中だけど。

「言ったとしても早乙女さんのこと、どうこう思ったりしないと思うよ!」

ニカッて笑えば早乙女さんも笑ってくれる。

「……はい!」

少しスッキリした顔で返事をする早乙女さん。

早乙女さんも辛かったんだろうな、なんて安易な言葉は掛けられない。

私は早乙女さんじゃないからその苦悩も想像以上のことは分からない。

でも、言える事ならひとつだけある。

「一発ぶん殴ろう!」

グッと拳を握って天に突き上げる。

私の言葉に早乙女さんが目をぱちくりさせた。

「お祖父さん相手でも悪いことしたらいけないことだって教えないとね!」

ウィンクして笑って言うと早乙女さんも吹っ切れたのか微笑んだ。

「はい!祖父の罪滅ぼしになるか分かりませんが、精一杯頑張らせていただきます!」

「その調子だよ!えいえいおー!」

「おー!です!」

笑った早乙女さんが晴れやな顔で、私は戦いの結末がどうなっても早乙女さんのお祖父さんと戦うことになっても、この顔だけは忘れずにいようと思った。

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