第29話 新兵器のお披露目会
「そんな訳で新兵器のお披露目会です!ジャジャーン!」
「そんな訳も何も今が初耳ですけど?」
ボスに冷ややかな目を向ける。
本当にこの職場は最低限の報告、連絡、相談すらないな。
ていうか、早乙女さんのことで頭がいっぱいでそんなこと言ってた気がする〜くらいの認識だ。
そして私と早乙女さん以外は新兵器に興味すら示さず温泉地の検索や兄のその姿を激写したりピーマンのぬいぐるみを捻ったりして戦っていたりして忙しない。
いや、ボスの話を聞きたくない気持ちはわかるけど一応ボスだから話を聞いてあげようよ!私だってめんどいけど頑張って聞いてるんだから!これ、学生の時の集会に似ているよね。
「でも、新兵器というわりにはファンシーな銃ですね…」
早乙女さんがフォローを入れる。
「色々とやりたかったけど政府の指定事項に引っ掛かって……あと、外見だけは可愛い魔法少女が持つならファンシーなのがいいって意見も出てきて……もっとガトリングガンみたいなのが良かったんだけど」
「いや、ファンシーな銃で良かったです!ファンシーな銃万歳!」
可憐な美少女魔法少女がガトリングガン持って敵を撃ち倒していたら絵面がやばい。
せっかく人々の夢を壊さないよう言動に気を付けてきたのに!
たまに放送禁止用語言って怒られたりしたけどさぁ!!これでも気を遣ってきたんですよ!こっちは!!
でも日曜の朝に出てきそうなファンシーな銃で殺傷力に少し不安がある。
本当に敵が倒せるんだろうか?
「試し撃ちとかしても大丈夫ですか?」
私も手に取って新しい兵器を確かめる。
ファンシーだけど銃なんだよな、これ。
扱いには気を付けたいから今のうちに慣れておきたくてボスに尋ねると首を横に振られた。
「一発に掛かるエネルギーだけでも山田くんのお給料以上だから無駄撃ちしないでね。怒られるから」
「えっ、ムダ撃ち出来ないじゃないですか……ていうかなんでそんな高エネルギーの武器作っちゃったんですか?」
「これから敵も強くなるだろうからね!敵の組織の会長もまだ出てこないし!」
キュートさんがジャキーンとファンシー銃を構えながら言ってくる。
はいはい。かわいいかわいい。
でも、敵の組織の会長。
私は早乙女さんを信じると決めたけど会長がここまで沈黙を続けているのには訳があるのかな。
やっぱり早乙女さんが会長だったり?
有り余る資産で悪の組織を運営していたり?
……どうだろうか?
「ちなみに山田くんにはこっちの握力増強グローブもあるよ」
ボスから差し出されたのは魔法少女リアのカラーと同色の茶色いグローブだった。
手首のところにハートで型抜きされていれ小洒落た感じを出そうとしていても握力増強グローブという武器だ。
「なんで私だけ…いいんですか?」
戸惑いながら受け取ると、ボスは大きく頷いた。
「ああ。元魔法少女で現技術開発部のスモークくんから魔法少女リアにどうしても使って欲しいと。彼女、プロレスと燻製が好きだったからなぁ」
とんでもない理由だった。
「べ、別に好きで力技に持ち込んでるんじゃないですもん!ただ魔法で倒すよりぶん殴って倒した方がストレス発散になるんですもん!」
「山田真理亜くん!そうやって本音をすぐに出すからボスや僕が上からどっちが悪役か分からないって苦情を言われるんだからね!」
プンスカとキュートさんが怒る。
私が敵をどついていたの、過剰攻撃で怒られていたのか。ごめんなさい、ボス。キュートさん。反省はしません。
そんなこんなで引っ張った割にはあっさりと新兵器の紹介をされて、使用受諾書にサインをさせられた。
力が強すぎるから「分かってて使いました」という言い訳がお偉いさんはほしいらしい。
まったくもって面倒くさい。
それはそうと早乙女さんが敵の会長なのか、それとなく他のメンバーに尋ねてみようかな。
私は信じているけど、万が一にもあるし、その場合仲間から裏切り者が出たとなると精神面が心配だ。
私はこっそり一人ずつ訊ねて回った。
最初はやっぱり上司のボスだ。
「えー。だってあの早乙女くんだよ?純情可憐なお嬢様ユリアだよ?」
「ピュアオーラのユリアの名乗りは版権問題で許可出なかったのにそんなのはオッケー出ちゃったんですか!?」
事実だが早乙女さんが可哀想!ダサい!
「ちなみにサプライズでまだ本人には言っていないよ!」
キュートさんが元気良く答えてくれるが早乙女さん、喜ぶかなぁ!?
ここは早乙女さんに代わりつっこむべきでは?
「……ボス、キュートさん、五臓六腑にお別れを告げてくださいね」
「えっ、やだよ。やめてよ。こわいよ」
ボスとキュートさんが身を寄せ合って震える。
それだけのことを早乙女さんにしたんだからな!?いや、事実だけど!!もうちょっとさぁ!あるじゃん!!
とりあえず後で早乙女さんに謝らせることにして他のメンバーにも話を聞いてみた。
「温泉地に別荘を持っているあの早乙女さんがそんなことする筈ないですよ」
「山田さんと違って賢いですし勉強も教えてくれますし、そんな邪推をするなんて早乙女さんに失礼じゃないですか?」
「山田さんもピーマンのような人だったみたいだね」
あれ?おかしくない?私わりと頑張って戦ったりコミュニケーション取ってたつもりなのに早乙女さんの好感度が高過ぎる!!
なんで!?これが顔面と性格と偏差値と金銭の格差社会の縮図!?
私が自分のデスクに戻り落ち込んでいると早乙女さんがカップを持ってきてくれた。
「何を落ち込んでいらっしゃるか分かりませんが、元気をだしてください!」
にこっと笑って差し出されたのはミルクティーだった。
飲むと温かくて甘くて美味しかった。
そうだよね。
すぐにブレるのが私の悪い癖だけど毒を食らわば皿まで!
早乙女さんが仲間なのは違わない。
信じるって決めたんだから信じよう。
「早乙女さん!これからもよろしくね!」
「はい!よろしくお願いします!」
にこにこ笑う早乙女さんに私も笑い返した。
ちなみに純情可憐なお嬢様ユリアで魔法少女登録されたと知った早乙女さんはめちゃくちゃ困惑していた。
面白かったから動画撮った。
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