第18話 臨時賞与って嬉しいよね!

「最近、悪のエイリアン退治が順調だから正規の賞与以外に臨時賞与が出ることになったよ!」

ある日の朝、ボスが唐突に言った。

「えっ!?まじですか!?」

「まじもまじの大真面目だよ。はい、これ明細書ね。もう振り込んであるから」

手渡されたのは給料袋と変わらない茶封筒。

ドキドキしながらハサミで中身を取り出すと、そこには驚くべき数字が記載されていた。

「えっ!?本当にこんなに戴いていいんですか!?」

「いいって、いいって。貰えるものは貰える時に貰っておきなさい」

ボスがボスらしいことを言う。

思わずキュートさんの頬を捻ってしまった。

「痛いじゃないか!山田真理亜くん!」

プンスカ怒るキュートさんに、これが事実だと実感した。

「やったーーー!!臨時ボーナスだー!何を買おうーーー!!」

両手を天に伸ばして叫び喜ぶ姿は給与・賞与・ボーナス・お金という単語が大好きな人なら理解してもらいたい。

しかもこれは臨時賞与。

定期賞与も別に出る筈。

「しかし急に気前がいいですね。どうしたんですか?」

普段の給与も割りといい方だ。

というか、世界の平和を守っているんだからこの程度ぐらいは貰いたいというレベルだけど。

「この間、山田真理亜くんが茶色い魔法少女はやだって駄々をこねただろう?士気に関わると思って買収することにしたんだよ」

「言い方ーーー!!!」

いやでも私が茶色が嫌だと言わなければこの臨時賞与は出なかったのか…。

良かった。駄々をこねてみて。社内で色々なものは失くした気がするけど。

「でも、ありがたく受け取らせていただきます。ありがとうございます!」

ちょっといいホテルでディナーとか、ブランド物の服を買ってみてもいいかもしれない。

でも、あまりそういったことに興味はないから本当に何に使おうかな?

……あれ?こう考えると私って意外と無趣味?楽しみってなんだっけ?

35歳、無趣味、職業魔法少女って字面的にどうなの?

なんか趣味を始める?……筋トレは魔法少女としての活動を優位に進めるための手段だしちょっと違う気がする。

そもそもただでさえキックボクシングでも始めるか悩んでいたのに余計に筋肉格闘キャラになってしまう!!

なにか…なにか趣味を見付けなければ…!




私が、趣味とは…?という高尚な難問に首を傾げていると早乙女さんがいつものピュアオーラ後光を差しながら話し掛けてきた。

「山田さん!今日のランチは私に奢らせてください!」

「えっ?なんで?」

唐突にどうした、早乙女さん。

「この賞与が出たのは山田さんのおかげですから。私からもお礼…というか、感謝の還元がしたくて…それとも、私とのランチはダメですか?」

どんどん自信なさげに言う美少女に誰が首を横に振れようか。

「早乙女さん…ありがとう!お言葉に甘えるね!」

早乙女さんのピュアオーラ後光に未だ慣れていない私は対策のサングラスを掛けて早乙女さんのお言葉に甘えることにした。

食費を浮かせたいとかそういうことじゃない。早乙女さんの真心が嬉しかったんだ。

本当です。信じてください!




その日のランチに連れて行かれたのは早乙女さんお勧めのフレンチ料理が美味しいお店らしい。

フレンチ料理…縁遠い単語だな……。

ちゃんとマナーを守って食べられるかな……。

「こっちです!意外と近くなんですよ!」

無邪気に笑う早乙女さんにフレンチ料理が食べられるか不安とは相談出来ずに、早乙女さんの真似をして食べようと決意をした。

連れてこられたお店はいかにも高そうなお店だった。

えっ、臨時ボーナスで足りる?吹き飛ばない?

焦る私と食事を楽しみにする早乙女さんの対比がすごいことになりつつ通された席へと座る。

……うん。メニューに値段が書いていないね。

どう考えても庶民が来ちゃいけないお店だったね。外観からもそうだったもんね。

ドレスコードまではなくて大丈夫そうでも気軽にランチを奢られるようなお店ではない。

……臨時ボーナスじゃ足りないだろ、これ。

「早乙女さん、大丈夫?」

私がこっそり早乙女さんに訊ねると早乙女さんは可愛らしく首を傾げた。

「なにがですか?」

「だってここ、めちゃくちゃ高そうだよ?臨時ボーナス吹き飛ぶよ」

「いつも来てますけど、そんなに高くないから安心してください!さぁ、どれにしますか?」

お嬢様の高くないは信用できない。

いやでもせっかくの機会だし一生ご縁がないようなお店だしお会計は早乙女さんだからご厚意に甘えよう。そうしよう。

それにしてもメニュー表になんて書かれているか分からない…メニューの時点で一般人は弾かれている!

「なんか…今日のオススメ的なので…」

「じゃあ私も本日のオススメコースにします!」

早乙女さんがにこやかに言うけどコース?コースって言った?コース料理?

「お飲み物はどうされます?」

給仕の方に訊ねられると早乙女さんが慣れた様子で答えた。

「今日のコースに合うものでお任せします」

嫌な予感は飲み物ですらあった。

少しずつコース料理が運ばれ、かろうじてテレビ番組で覚えたうろ覚えマナーと早乙女さんを見習い料理を食べ進めていく。

早乙女さんは「美味しいですね!」といつものピュアオーラ後光を差しているけれど、もうサングラスを掛ける余裕もない。

いかにしてこのフレンチコース料理共に舐められないかが重要だ。

私はこんな未知の料理にも勝ってみせる!

「そうだね、美味しいね」

にこやかに早乙女さんに返して、もう味も分からなくなりかけている精神を叱責する。

こんなところで負けたら魔法少女の恥だ!

私は、このフレンチコース料理に勝って魔法少女として精進してみせる!!

フレンチコース料理と魔法少女になんの因果があるか分からないけれど!!




味わう余裕もなかったが、美味しかったと思う。

最後にオーナーさんが早乙女さんに挨拶に来たときはびびったけど、私はフレンチコース料理に打ち勝ったのだ!!

「美味しかったね、ありがとう。早乙女さん」

「いいえ、こちらこそ。お付き合いくださりありがとうございました」

フレンチコース料理に打ち勝った私は早乙女さんのセレブオーラにも勝てるようになっていた。

つまり!サングラスが無くても早乙女さんのピュアオーラ後光に対抗できるようになっていたのだ!!

すごい!!セレブさ故のピュアオーラ後光に勝てる日が来るなんて……。

私もセレブになれたってことかな…なんてちょっと調子に乗りながら早乙女さんと会話を楽しみながら基地に戻った。




「ただいま戻りましたー」

「早乙女由利亜、戻りました」

二人揃って帰還するとボスとキュートさんから「おかえりー」と軽く帰ってきた。

この緩さも嫌いじゃないんだよな。辞めるけど。

最近は早乙女さんも魔法少女として一人で戦えるようになってきたし、早く私も次の転職先を探さなきゃ。

……本音を言えば、受けた会社はある。

不採用だったけど!!

ここに就職したのも不採用続きでやけくそだったもんなー。

なかなか難しいな、転職。

職業紹介所のサイトを閲覧しながら今日も転職先に良さそうなところを探す。

……35歳以下とか記載されてある会社があるとダメージを受ける。

年齢で弾くのは企業側にも理由があるのは分かっているけれど、この鬱憤をどう発散させてやろうか。

するとタイミングが良く警報音がけたましく鳴り響いた。

「よし!こういうときは暴力で解決だ!」

「そういう本音は隠した方がいいと思うよ、山田真理亜くん!」

キュートさんの突っ込みを無視して現場まで走り出した。

……食後のダッシュは厳しいな!




現場に辿り着くともう悪のエイリアンが一般市民に被害を加えようとしていたので、颯爽と飛び蹴りをした。

「臨時ボーナス嬉しいキック!!!」

いつもより威力が大きい気がする。

これがお金の力…!

どんどん暴力で倒してストレスも発散されて、これでお金も入るんだから魔法少女って職業的には私に向いているのかもしれない。

いや!退職したい!!職業が魔法少女なんて世間的に恥ずかしい!人に言えない!!

あと他の早乙女さん以外のメンバーとボスとキュートさんがいやだ!!


私があらかた薙ぎ倒すと、テレビの中継スタッフが近寄ってきた。

やばい。初テレビだ!!

予想通り魔法少女としてのインタビューを受けた私は思わず頭が真っ白になって本音を言ってしまった。


「人生とお金は大切にね!」


これが全国放送され、茶色い魔法少女には気苦労があるのかもしれないとSNSで拡散されてしまったあとの方が私の気苦労が増えた。

人間、突然なことに対応できないと本音が出るよね!

でも、出していい本音と出しちゃダメな本音があるんだよ。


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