第3話 悪の組織にて
昔から、さなぎという自分の名前が好きじゃなかった。
さなぎでは蝶になれないから。
さなぎはさなぎのまま、繭に包まって大人になれないでいる。
まるで私のようだ。
大人になりきれない大人。
大人って、どうやったらなれるんだろうと思ってしまう。
なんとなく行った高校からなんとなく行ける大学へ行って就活して拾われた会社で黙々と働く。
「さなぎくん、新しい魔法少女が現れたという報告は本当かね?」
「はい。なぜかやたらと就活と不採用に怨みを持っているような感じを受けるのですが、その強さは本物です」
今日も今日とて、就職先の悪の組織の一員として働く。
なんで悪の組織の一員になったかって聞かれたら、悪の組織とは知らず厚待遇で思わずダメ元で応募したら受かっちゃったんだよね。
それで今に至るというわけなんだけど、この会社ホワイト過ぎるくらいホワイトで、上司もいい人だし同僚とも仲良くやってるし後輩は手間も掛からずテキパキ仕事していて、逆に私が置いていかれそうなくらい。
悪の組織ってところ以外はいい会社なんだよね~。
それにしても、最近は何故か魔法少女も少なくなってきて、臨時賞与が出たときは嬉しかったのに…。
殲滅まであと少しかも!って時にここにきてまさかの新しい魔法少女。
報告書を書くのも気が重い。
でも魔法少女も地球を救うのがお仕事だもんね。
悪エイリアンを出して戦わせちゃってごめんね。
進まない仕事に気分転換にお茶を入れ替える。
白紙の文面はパッとしない自分のようだ。
なんにもない。
さなぎのまま、蝶になってきらびやかに舞えないまま、地道にこつこつ働いて、定年を迎えて人生を終わるのだ。
…なんか虚しい。
転職とかしたら人生変わったりするのかなって思うけど、入社するときも必死に就活していたのに歳をとった今、若い子が大勢いる中で転職しても特になんの資格も特技もない私を雇ってくれるところなんてなさそう。
………自分で言ってて悲しいな~!もう!
でも、それが現実なんだよね、きっと。
この会社に悪いところなんてないんだから、他のことで刺激を求めよう。
新しく趣味を始めるとか?
けれどどれも「でもでもだって」で終わってしまう。
私の悪い口癖。
さなぎはさなぎのまま、なんの変化もないまま繭の中で終わるしかないのかな。
その点、魔法少女はきっとキラキラしているんだろうな。
だってあんなに若くてかわいくて悪のエイリアンなんて悪者にも健気に立ち向かうんだもん。
………最近現れた魔法少女リアはなんか違うけど。
就活とか不採用通知がどうとか、人生に疲れ果てたかのようなことばかり言っている。
かわいいのになぁ。
でも、魔法少女だもん。
きっとこんな風に仕事に疲れて追われて毎日を過ごしたりしていない。
私も魔法少女になってみたい…ううん!だめだめ!私は悪の組織の一員として立派に世界征服のために働かなくちゃ!
それが私のお仕事、お仕事すら出来なくなったら繭すら腐っちゃう。
羽化も出来ない私が、繭も腐らせたら本当の駄目人間になってしまう。
そういえば、と思い出す。
同級生の山田真理亜さん、元気かなぁ。
彼女も昔はキラキラしていて、私もああなりたいと思ってたっけ。
今頃はきっと私なんかよりいい会社で頑張って働いているんだろうな。
決して悪の組織なんかじゃなくて、真っ当な普通の会社で。
大体、真理亜なんて名前からしてかわいいもん。
私ももう少しかわいい名前が良かった。
なんて、名前で人生が変わる訳じゃないけどね。
………腐っていても仕方がない!
私も、もう少し頑張らなきゃ!
そうと決めたらこの報告書を完成させなきゃね。
腕捲りをしてやる気を出して目の前のパソコンに向き合う。
打倒!魔法少女で賞与を狙おう!
そしたら旅行にでも行ってみようかな!
少し前向きな気持ちになりながら、新たな魔法少女に関する情報と傾向と対策を纏めていく。
頭の中は温泉地をピックアップしている。
そういえば、SNSでフォローしている人で温泉地巡りが趣味の人が居るんだよね。
帰宅したら今までの紹介文を読み直してみようかな。
そのためにも!怨みはないけど、魔法少女達、私の生活のために倒されてください!
そんな願いを込めてキーボードを叩いていく。
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